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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター13

〜中央通り〜



「たぁ! はぁっ! せいっ!」

 エルリッヒから託された剣を振るい、ヘルツォークに立ち向かっていく。初めて手にする、しかも普段使っているものよりよほど大きくて重たい剣なのに、不思議と手になじみ、一撃一撃が軽く放てる。それでいて手応えはいつも以上に重たい。こんな武器あったとは思えなかったし、それをエルリッヒがどこからともなく持ち出してきたことも不思議でならない。だが、今はありがたく使わせてもらおう。

『この手応え、ただの剣だとは思っていなかったが、なんなのだ!』

 武器を変えただけでこうも変わるのか。ヘルツォークも驚きを禁じえないでいた。そもそも、今まで振るっていた二本の剣もただの剣ではなかったが、十分優位に戦うことができていた。それが、たった一本の剣がこんなに戦いにくくさせようとは。

(くっ! 防戦一方ではないか!)

「これは、龍殺しの剣だそうだよ。俺も詳細はさっぱりわからないけど、その性能だけは、語らずとも伝わってるようだね。そら!」

 勢いよく剣をなぎ払い、大きく吹き飛ばす。

『なっ!』

 どう見ても竜殺しの剣だが、そもそもヘルツォークはドラゴンでもその血を引く者でもない。だから、この剣で斬られたところで大した痛手ではないはずだ。そのはずなのに、これほどの衝撃が伝わってくるとは、どういうことなのか。数百年を生きたヘルツォークをして、その理解の範疇を超えていた。

「これが、圧倒的な力……」

 手にした武器は自分のものではなかったが、まさか武器一つでこうも自分の攻撃が強化されようとは。驚きを禁じえなかった。それだけに、改めてこの剣のことが気になった。

「本当に、龍殺しの力だけなのかな……」

 武器の強さを決定づけるのは、素材になっている金属、重さ、鋭さ、そして特殊な効果だ。ツァイネの剣が持っていた宝石から魔法の力を取り出してまとわせることができたのも、ゲートムントの槍の竜殺しの力も、この「特殊な効果」に当たる。だが、ドラゴンでないヘルツォークを相手にもこの強さを発揮しているのだから、この剣の強さを決定づけるのは「特殊な効果」以外の要素ということになる。

 だが、持った感じの重さも、見た感じの鋭さや刀身の大きさも、それにしてはさすがに華奢すぎる。こんなに強いのは、不自然だった。

『どうやら、貴様もその剣についてよくわかっていないようだな……』

「ああ、残念ながらね。でも、大事なのは、俺がこれを扱えて、今までよりも強力な一撃を繰り出せることだから。そういう意味では、この武器を担いで再戦に臨んだ甲斐があったよ」

 ツァイネの表情には、余裕が見えていた。それがハッタリなのか本心からなのか、心を読む能力のないヘルツォークには見抜けないでいた。



「よし、戦いは白熱してるね。それじゃ、ゲートムントの救出、よろしく!」

 ツァイネたちの戦いをじっと観察していたエルリッヒが、ゲートムント救出の指揮を執る。本当はこんな活躍はしたくないのだが、何しろ人生経験は一番豊富だし、いざとなればヘルツォークといえど一捻りできる実力を持っているので、このような状況でも冷静でいられた。

 それに比べると、周囲の戦士たちは盗賊や獣といった相手には優位に、冷静に立ち回れても、魔物と戦ったことのある者は少なく、ましてその中でも高位の魔族となると、全員が前回の襲撃で初めて目撃したくらいなのだ。これは仕方のないことかもしれない。

 魔王が滅んでから100年、誰もが魔族の存在などおとぎ話の中でしか知らないのだから。

「行けーーっ!!」

 先ほど選出された足の速い二人が、号令に従って駆け出した。ツァイネがどこまで考えてくれているかはわからないが、今はヘルツォークを前に、話をしていた。本当は、戦ってくれている方が注意をそらすことができるのだが。

 それでも、ただ武器が変わっただけで先ほど勝利した相手に苦戦を強いられることには大きな屈辱があるようで、そのまま話をしていた。


「ゲートムント、立てるか? って、完全に気を失ってやがる。とりあえず、俺は頭側を持つから、お前は足を頼む。急いで戻るぞ!」

「おうっ! できるだけ動かさないようにってのは、難しいもんだな」

 二人はなんとかゲートムントを救出することができた。ツァイネの会話がよほど効果的だったのだろう。ともすれば、三人まとめてやられても不思議はないような行動なのだが、無事にみんなの元に戻ることができた。

「ゲートムント!」

 その場に横たえられたゲートムントの姿を確認する。まだ息はあるが、意識がない。気持ちが急くのを抑えながら、鎧を脱がせる。

 インナー一枚にすると、心臓に耳を当てて鼓動を確認する。

「……よかった、鼓動はしっかりしてる」

「そっか、そいつぁよかったぜ」

「ああ、一安心だな」

 おそらくは、魔法による攻撃だったのが功を奏したのだろう。炎や氷のような自然界の力を呼び出すのならまだしも、先ほどのような漠然とした魔力による攻撃は、攻撃力としては決定打にかけていた。

「じゃ、治療するから少し離れて。みんなは、ツァイネの戦いを見守ってて」

 そうしてみんなを遠ざけると、インナーを破いて傷口を探した。探すまでもないそれは、ゲートムントの体を左肩から右腹部にかけて、まるで刃物で斬られたような傷が付いていた。これが魔法による傷口か。感慨深げに確認しながら、薬草エキスを口に含み、それを吹き付けていった。

 本来ならとても染みるため、激痛を伴うはずなのだが、完全に意識を失っているためか、おとなしいものだった。

「どこまで効くかわからないけど、絶対、無駄じゃないから!」

 薬草エキスのかかった傷口は、じゅくじゅくと泡立っている。薬効成分が働いている証拠だった。これなら、治療にも期待が持てる。

「あとは、あいつの魔法に変な効果が付与されてないことを願うばかりだね」

 こればかりはわからない。戦いを見ていて気づくところはなかったし、今見たところでも、何か特殊な力で攻撃されたような気配はい。だから、多分大丈夫だろうが、ここでむやみに楽観視できるほど楽天家ではなかった。

「今まで聞いた話だと、多いのは毒とか呪いとか、その辺なんだよな……」

 どちらも、それなりに見抜き方は聞いたことがある。だから聞きかじった判断方法をなぞっていく分には問題なそうなのだが、何しろ相手も100年の眠りから覚めたような相手だ、本当に魔王時代に教えてもらった知識が通用するのかわからない。

「ま、100年間雌伏の時を過ごしてきた魔族連中より、人間の方が進歩してるだろうけどね」

 エルリッヒや魔族にとってはたかが100年といってもいい時間の流れは、人間からしてみればとても長い時間だ。進歩していないはずがなかった。それは、この薬草一つとっても言えることで、元来、複数の薬効成分を持った自然の草花を調合してできているものだが、農場や薬草園では、品種改良でより強い薬効を発揮する草花も用いられていた。それが、今は各地に普及しているのである。

 希望通りならあまり進歩していない魔族側の魔法と、品種改良によって昔よりも強力になっている薬草。それは思いの外分の良い賭けだった。

「竜の息吹は……人が多すぎるしね……」

 命に別状はなさそうだとわかると、さすがにおいそれとは出来ない。人の目もあるし、何より男相手には、つい躊躇してしまう。フォルクローレには、二度も施したというのに。

「女の子同士の方が、その辺気楽だしなぁ……」

 つい、思考が逸れてしまった。今大事なのは、ゲートムントの容体と、ツァイネの戦いの行く末だというのに。

「二人とも、頑張ってよ〜!?」

 祈りを込めて、ゲートムントの手を強く握った。戦いは、まだ終わらない。




〜つづく〜

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