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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター12

〜中央通り〜



 ようやく少し回復したのか、ツァイネは立ち上がり、ヘルツォークを見据える。しかし、ゲートムントを救うため、自慢の剣は手放してしまった。もう一振りの剣もなかなかの逸品だが、それだけで戦うのは心許ない。

 それは誰が見ても明白で、ヘルツォークは余裕の笑みを浮かべ、周りの戦士たちは不安そうな目で見つめている。ツァイネの表情も、少し不安げだ。

(威勢のいいことを言ったものの、どうしようかな……)

 裏目に出そうな気配だったが、悩むことよりも先に動く、という信条だった。



「まさか、あそこまでするなんて……」

 物陰で見守っていたエルリッヒは、正直なところ驚いていた。いくら親友のピンチでも、自慢の剣を犠牲にしようとは。まして、あの剣は騎士団でも相応の立場にあるものにしか与えられないもので、親衛隊を辞めるときに、人柄を買われて特別に返納を免除されたものなのだ。青く輝く鎧と共に、ギルドでも唯一の騎士団中枢の出身者として名を馳せる一端を担っていた。

 自慢の一振りであると共に、あれもまた相棒だったのだ。

「……あの剣が砕けるなんて……」

 あの剣はただの名品ではなく、切れ味や刀身の強度も市販の剣とは一線を画す代物だった。それが、ヘルツォークの一撃を防いだことで、見事に真っ二つに折れてしまった。誰もが想定していなかったことだ。

「ツァイネ……大丈夫かな」

 心配しても仕方がないことだった。今、あれ以上の武器を手にしているものは、あの場にはいない。それは、全員が認めていた。だからこそ、尻込みしてしまうのだ。自分の武器は貸しても意味がない、自分が代わりに戦っても勝てない、と。こうなったら、あれを使うしかない。エルリッヒは決意した。

「本当は、これもいざという時のために取っておかなきゃだけど、今がそのいざという時だよね」

 一息深呼吸をすると、周囲に誰もいないことを確認して、右の手の平を地面に向けてかざす。すると、足元に波紋が浮かんだ。まるで目の錯覚のようなそれは、次第に周囲よりも暗くなっていった。

『大いなる裁きの力よ、今ここに顕現せよ』

 竜言語で紡がれたその呪文は、地面の揺らぎに吸い込まれるように消えていく。そして、その揺らぎの中心から、ゆっくりと、一振りの剣が現れた。

 竜王族に代々伝わる、秘伝の剣だ。かつて先祖が竜殺しの勇者を返り討ちにした際に手に入れたもので、今はエルリッヒに受け継がれている。

「久しぶりだね、これも」

 完全に地中から姿を現し、宙に浮いたままの剣を手に取る。ゲートムントの使う槍と同じ、竜殺しの力を秘めた剣。竜王族はそれを一族のルールに背いた同族を屠るために使ってきた。そして、今の継承者であるエルリッヒは、それを個人の裁量で自由に使うことができる。

 掟に背いた同族だけでなく、魔族であれば、これをふるうにふさわしい対象であるというのが今の判断基準だった。

「ツァイネを守って」

 祈りを込めて、冷たく光る刀身に口づけをすると、右手に持ったまま、思い切り振りかぶった。

「ツァイネー! 受け取れーーーっ!!」

 叫びとともに、ツァイネめがけて投げつける。それはまるで、先ほどのツァイネの行動をなぞるような行動だった。

「っ!! エルちゃん??? え? えっ??」

 物陰で見守っていると言って少し遠くにいるはずのエルリッヒが、突如として自分の名前を呼び、そして何事か剣を投げつけてきた。

 生半可な人間なら、まともにキャッチすることも適わないだろうが、スピード自慢のツァイネは、なんとかこれをキャッチすることができた。

 それは、見たこともない、漆黒の長剣。ハインツの大剣ほどではなかったが、普段使っているものよりも大きい。そして、つかに施されたシンプルだが豪奢な装飾が目を引く。

「エルちゃん、これって……」

「詳しい話は後でするけど、うちの一族に代々伝わる宝剣。ずっっっと昔、ご先祖様が故あって手に入れたものだよ。それを使って、あいつと戦って。ツァイネなら、できるよね?」

 この剣は元来人間が使っていたものだ。そして、大剣にカテゴライズされるほどの大きさではない。それならば、周囲の戦士の中では比較的小柄なツァイネでも、十分に扱えるだろう。

「なんだかよくわからないけど、ありがとう。やってみる。……けど、これって、ゲートムントの槍と同じだよね。あいつに効くかな……」

「さすがはツァイネだね。そうだよ。同じ素材かどうかはわからないけど、竜殺しの剣。前に倒したドラゴンだったら、絶大な効き目があるよ。でも、ツァイネなら、わかるよね。この剣は、竜にだけ強いわけじゃないってことくらい」

 黒い刀身が何より目を引くので、そこにばかり注目されるが、改めて見てみると、詳しく確認する必要などなかった。ツァイネほどの腕利きなら、それがどれほどの程度の武器か、一目で見抜くことができる。完璧ではないが、武器を扱う腕利きは、そのまま目利きでもあった。

「そうだね。訊くだけ野暮だったね。だけど、どうして俺に?」

「それこそ野暮だよ。ツァイネ、さっき自分の剣、折れちゃったじゃん。だから、少しの間貸してあげようっていうことだよ。その件には私の祈りも入ってる。絶対あいつを倒して。ね?」

 優しく微笑みながら、ツァイネを送り出す。慣れない武器を手にした姿は、少しだけ違和感を覚えたが、ツァイネであればすぐに使いこなしてくれるだろう。

 すべては、信じているからこそだった。

「さて、ツァイネはよし。みんな、ツァイネとあの魔族との戦いが始まったら、ゲートムントを助けてきて。それから、誰か薬草を持ってるでしょ? それを頂戴」

 残った戦士たちに向けて、テキパキと指示を出していく。戸惑う戦士たちを他所に、エルリッヒの目は真剣そのものだ。すっかり萎縮している戦士たちでも、ギルドに登録していろんな仕事をこなしている強者には違いないのだから、いざとなれば頼りになるはず。こちらもそう信じていた。

「まずは戦いが始まって、意識が向いてからじゃないと助けに行けないよね。だから、その前に薬草の準備をしておかないと。ほら、さっきも言ったけど、さっさと出して。みんな、持ってるんでしょ?」

 戦士たちの中には、当然エルリッヒのことを知っている者もいる。しかし、ゲートムントとツァイネほど親しくしているものはいないため、その認識は一介の食堂の主だ。それが、このような場で逃げもせず自分たちの戦いを見守るといい、今もこのような状況になっても冷静に振舞っていることに、戸惑いを禁じえなかった。

「エルちゃん、君は一体……」

「そんなの、今はどうだっていいでしょ。大事なのはあいつを倒して、みんなと街を守ること。ほら、さっさと出す! 今から準備しないと、ゲートムントを助けた時にすぐ治療できないでしょ!」

 赤いポニーテールを揺らしながら戦士たちをけしかける。まるで咆哮のような声に、戦士たちはハッと我に返った。今は戦闘自体はツァイネに任せることしかなく、それ以外のことに専念して戦いをサポートするのが筋だ。

「す、すまねぇ。俺が持ってる薬草はこれだけだ。使ってくれ」

「こっちはこれだけだ。足りるかな」

「おうっ、俺のも使ってくれ!」

「それで、ゲートムントを救い出す算段だけど、どうしたらいいかな」

「みんな……」

 及び腰だったみんなが、徐々に変わっていく。それがなんだか嬉しかった。薬草も、必要そうな分はすっかり集まっていた。これだけあれば、今はいいだろう。

「じゃ、助けに行くタイミングは戦いが始まったら指示するから、今のうちに足の速い人を二人選んでおいて。私は、それまで薬草を絞っておくから」

 元来は、傷口に塗りつけるような使い方をすることが多い薬草。これをきつく絞ることで、薬草のエキスが取り出せる。これは、通常の使い方よりも高い回復力を持つことが知られていた。ある程度数がないと、回復役として使うだけの量にならないのが難点だったが、今は十分に足りている。

 念のため、いつものフライパンを持ってきてよかった。エキスは、この上に集めればいい。

「あとは……ツァイネ、頑張って!」

 ヘルツォークに向かいゆっくりと歩み寄っていたツァイネが、再びその眼前にたどり着いた。

『ほう、武器を変えてきたか。よくもまあ、次から次と、強力な武器が出てくるものだ。やはり、大きな街を攻めることにしてよかった。このような武器は、残しておくことで同胞の命を奪いかねないからな』

「おしゃべりは、そこまでだよ。今度は俺が、お前に勝つ番だ」

 静かに、しかし力強く、ツァイネは言い放った。




〜つづく〜

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