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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター10

〜中央通り〜



 強かに体を打ち付けたツァイネは、よろよろと起き上がる。見るからに、大きなダメージを負っているようだった。

「ツァイネ!」

 相棒の負傷に、ゲートムントが駆け寄って肩を支える。

「大丈夫か?」

「なんとかね。ダメージは負ったけど、この鎧のおかげである程度は軽減されたよ。それよりも、ごめん。攻撃の糸口なんて、とても見つけられなかった。とにかく強かったよ。とにかく強くて、攻撃が重かった。それで、あの魔法。俺たち、勝てるのかな……」

 ダメージのせいもあるだろうが、すっかり気弱になっている。ツァイネが弱気になっているときは、相手が驚異的な力を持っているときだ。

 それをよく知るゲートムントは、口ぶりだけで相手の実力が十分に把握できた。ヘルツォークは、相変わらず涼しい顔をしている。ツァイネと交戦したことなど、ほんの軽い運動でしかないのだろう。

「何言ってんだ。俺たちが勝たなきゃどうすんだよ。城の騎士連中はお前に近い実力だろうけど、こんなとこにゃ来ねーだろーしな。ま、今は休んでろ。次は俺が入ってくるわ」

「無理だけは、しないでね」

「ゲートムント坊、お前も無茶する方だしな、気をつけろよ?」

「俺たちより若い奴が先に逝くなんてのは、認めないからな」

「でも、活躍は期待してるからな?」

 仲間たちに背中を押され、ゲートムントが立ち上がった。漆黒の槍を構え、ヘルツォークを見据える。そして、少しずつ近づいていった。

 緊張からか、全身に嫌な汗をかいている、

「よお。さっきはよくも相棒をやってくれたな。今度は、俺が相手になるぜ」

『ふ、よくよく飽きさせぬ人間どもよ。よかろう、次は貴様を叩き伏せてやろう。来るがよい』

 指揮官らしい落ち着いた態度でゲートムントを迎え入れる。少なくとも、ツァイネがなす術なくやられてしまったのだから、微塵も油断ができない。

「行くぜ!」

 気合いととも駆け出し間合いを詰めると、鋭い突きを繰り出す。しかし、剣の腹で器用に防がれてしまう。避けられるか鎧に当たるかのどちらかだと思っていたので、意外な防がれ方となってしまった。

 それでも、相手の剣に傷でもつけられればという一心で攻撃を続けていた。

『何っ?』

 次の瞬間、ヘルツォークの表情が少しだけ曇った。

『貴様、その槍はただの槍ではないな?』

「ああ。世にも名高い龍殺しの槍ってな! どうだ、ドラゴンでなくてもしびれるだろ? そらそらそらそら!! 防戦一方じゃ、そのうちご自慢の剣が砕けちまうぜ?」

 鋭い突きの締め括りに、一層鋭く重い一撃を繰り出す。軽快な金属音と共に弾かれはしたが、攻撃に合わせてステップを入れて間合いを取っていた。これ以上近づくのは、得策ではない。

『人間風情にしてはよい攻撃といったところか。しかし、この剣を砕くとは、大きく出たものだ……』

 そのようなこと、不可能に決まっている。決まり切ったことを確認するのバカらしかったが、刀身に目を向けてみた。すると、そこには無数の傷ができていた。とても小さく、それが元で砕けるというものではなかったが、驚きを与えるのには十分だった。

『このようなことがあるはずがない! 人間風情の攻撃が、魔界の鉱物でできたこの剣に傷をつけるなどとあってはならぬことだ!』

「半分は、この槍のおかげだけどな。それでも、残りの半分は俺の実力だ。あんまし人間を舐めないことだな。まだまだ行くぜ! 今度は、あんなもんじゃないぞ! でえりゃああ!!!」

 再び強く踏み込むと、またしても激しい突きを繰り出す。しかし、今度は剣で防ぐのではなく、全てを回避している。刀身についていたという細かい傷を気にしてのことだろう。

 とはいえ、攻撃を「受ける」のではなく「避ける」という選択肢を選んでいる。ということは、鎧越しであろうと当たると相応にダメージを受けるということだろうか。

 攻撃を続けている間はむしろ安全だ。その間にゲートムントは考え続けた。ヘルツォークが強いのは、巧みな身のこなしと強力な武器、そして人間には持ち得ない魔法の力、この三つがあるからなのではないだろうか。強靭な肉体に、頑丈さは含まれていないのではないだろうか。

(それなら、どっかで一撃かすらせることだけでもできりゃあいいんだな?)

 それとて簡単なことではないのだが、そうすれば、鉄壁の守りの正体がわかる。次に考えるべきは、どこにどうやって攻撃を当てるかだった。今こうしている間も、こちらの攻撃は一切当たっていない。奇をてらうような攻撃手段も持っていないし、これ以上速度を上げるのも難しかった。

(こいつぁ、一か八かやってみるしかねーな)

 ゲートムントはある一つの作戦を立てた。上手く行けば、攻撃の糸口が見つかるかもしれない。

「だりゃあ!」

 精一杯意表をつけるように、槍を大きく振り上げた。そして、虚をつかれたその隙を狙うように、今度はそのまま振り下ろす。そして、一歩後ろに飛び退って、そこから再び踏み込んだ。

『何をする気かは知らぬが、そのような攻撃は無駄だ! 今度は、こちらの番だ! 死ねぇ!』

 もう見切ったと言わんばかりに飛び上がり、まるで伝説の勇者のような構えで剣を振り下ろした。今までのヘルツォークらしからぬ、ダイナミックな動きだ。

「なっ! そこまでは、予想外だ!」

 突如飛び上がったのには驚きを禁じえなかった。それでも、半分は想定内だと言わんばかりに槍を両手で持ち上げ、ヘルツォークの一撃を防いだ。

 あまりの重さと切れ味に、さすがの竜殺しの槍も長くは持たなさそうだ。そう直感が告げていた。

 しかし、ここからが作戦の本体だった。ゲートムントは徐々に槍を持つ両手を狭め、そのまま相手の剣を挟み込んでしまった。

『何だとっ!』

「これなら、攻撃を防ぎながら、次の一手を封じられるぜ!」

 そして、今度は体を少し左にずらしてから右手を離す。そうすることで、相手の剣戟を受けずにその一撃をそらすことができた。これも、ツァイネとの交戦を見て速度を分析していたからこそだ。

「狙いは、ここからだ!」

 至近距離、左手に掴んだままの槍を大きく突き出した。狙うは鎧越しの相手の体。鎧のない箇所を狙いたかったが、そういうところは意識して防がれているようで、見るからに隙が少ない。しかし、鎧に包まれている胴体なら、今だけは狙い放題になっていた。

『ぐぁっ!!』

 そこには、確かな手応えがあった。初めての、有効打である。



「やったぞ!」

「ゲートムント坊が吹き飛ばした!」

「おお〜っ!」

「やるじゃねーか!!」

 ゲートムントの快挙に、遠巻きに見ていた戦士たちも興奮を禁じえないでいた。彼らも素人ではない。鎧越しの胴体への槍の突き攻撃がいかほどのダメージかということは、とうに見抜いている。それでもない、喜ばずにはいられなかった。

「いくらなんでも、あんなに大きく吹き飛ばせるなんてな」

「そうなんだよな。鎧ごしだとどうしてもダメージは減っちまうし、槍は点で攻撃する武器だから、貫くにゃ便利がだああいう攻撃は向いてねぇはずだ。あいつの鎧も頑丈なんだろうけどよ、ゲートムントが十分に強いってことも言えると思うぜ?」

「ゲートムント……すごいよ」

 周囲の戦士たちで一番よろこでいたのは、もちろんツァイネだった。自分がなしえなかった「一撃」を、どんな形であれ成し遂げたのだから。

 羨望のまなざして見つめた先のゲートムント本人は、険しい表情を崩していない。いくら強力な一撃で吹き飛ばしたからといって、大したダメージになっていないことはわかっていたからだ。

(狙いは、あいつの体の強靭さだ。当たりさえすれば勝てるってことだけでもわかりゃ、十分……)

「なっ! なんだ……これ……」

 吹き飛ばした先の瓦礫を見つめていたゲートムントだったが、次の瞬間力なく倒れた。そして、倒れたその場に流れ出る、血液。明らかに、何かの攻撃を受けていた。

「ゲートムントーーーっっ!!」

 ツァイネの悲痛な叫びが、響き渡った。




〜つづく〜

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