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  作者: やまだ
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プロローグ

 高橋は勃起をした。校門を一番に走り抜けた高橋は、校門前をジョギングしていた女性とぶつかり、薄いピンクに白い三本ラインの入ったショートパンツが高橋の首元にまたがるような形で倒れ下敷きとなり、勃起をした。そして、高橋は僕たちの前で弾けて消えた。まるで、パンパンに膨れ上がった風船が割れ、中から色とりどりのビー玉が飛び出してくるように爽やかに消えた。生まれてから当然のように共に過ごして来た友人が一瞬で弾け、3年A組・高橋を除いた28名が呆然としている中、高橋の着ていた学ランが風の中で風に誘われ舞い上がった。

「なんだよこれ。」「とにかく、学校から早く出るしかないですよ。」「行こう。」そう言って校門から走り抜け出した僕たちは、あれから何時間走り続けたのだろう。


 2022年。英・ケンブリッジ大学の女性学者が「人の幹細胞から精子を作成する事に成功し、女性由来の幹細胞から精子を作成後、人工授精という手順を踏めば、女性の体のみで子供を持つ事が可能である」という論文を発表した。


 この発表段階では「男は必要ないのではないか。」という疑問が世界中に浮かぶことはなく、女性同性愛者の間で少しばかり話題となり、世界で10組の女性同性愛者が人工授精の希望をし、実際に3名の女性が自らの幹細胞から精子を作成し出産に成功する。というニュースがテレビから流れる程度で世間も留まっていたのだが、その後研究は医学分野でどんどん進んでいき、そのうち自らの幹細胞で受精をし、出産する費用が通常の妊娠と然程変わらない価格で可能となり、その行為自体に【自給妊娠】という名が付けられ、自給妊娠希望者は徐々に増えていった。

 増えていったのは自給妊娠希望者だけではない。その人工授精に関する研究をする科学者が各分野で増えていき、各分野において「女性だけの社会になれば交通事故が7割減少する」「男性と恋愛をし、妊娠に辿り着く時間を省くと経済効果が数倍伸びる」といった研究結果がたちまち発表されていった。

 なかでも、男性の心臓を芯まで冷やす結果となったのは、

「自給妊娠では、遺伝子操作で子供の性別を選ぶ事ができる。」

というものであり、その発表がされる頃には、自給妊娠希望者も各国で増えており、女性が自給妊娠を行い、性別に女性を選択すれば男性たちの存亡が失われるのも時間の問題である事は容易に想像することが出来た。

 そして、その恐ろしい想像は次第に形を帯び始め、50年後。


 2072年。東京。


 東京で一年に産まれる男の子の数は、百人弱にまで減少した。

自給妊娠という言葉は世の中から消え、自給妊娠が通常妊娠となり、異性同士で性交を行い出産する事を【特別妊娠】と呼ぶようになっていた。ごく稀に一部の自給妊娠異論者だけが男性と交わり出産をしている状況となったが、世間からの冷たい視線は避けて通れるものではなく、男性と交際する事はこの社会で生活する上で支障を来たした。


 事実、女性中心の世界になってから様々な変化が起きており、例えば遺伝子を残す事に手間がなくなった女性達からは生物学的に性欲が著しく減少し、女性中心の社会となってから社会的自立の傾向が強くなり、犯罪は90%減少。世界規模で見ても戦争がなくなり、経済面において貧富の差もなくなり、全員が満足して暮らせる生活を手に入れられるようになっていた。


 一方で増えた犯罪もある。【強姦婦女暴行】

 10年後には、絶滅すると言われており、男であるだけで障害とまで呼ばれる世界において、男性は生存意欲からか性欲が爆増し、女性を襲う事件は「男性と女性が平等に暮らしていた」否、もっと言うのであれば「女性よりも男性の方が社会的に権限を持っていた」時代に比べて遥かに増えていた。もちろん、この強姦婦女暴行が現在『死刑』に値する罪と認識されているのは言うまでもなく、今では万引き一つとっても男性は危険人物者として、罰金・懲役に加え「去勢」という罰が与えられている。

 先ほど、東京で1年に産まれる男の子の数は百人弱と書いたが、日本において東京以外では0人である。これは思春期である男子と女子が日常生活において交わるのは危険であり、特別妊娠をする場合には東京の施設で出産を行い、そこで産まれた男の子達は18歳になるまで「東京男性保育所」から「東京男子高等学校」で学生生活を送らなければならないという法律がうまれたからである。


そして、今日その「東京男子高等学校」の内、去勢を行なっていない者が集められいる3年A組の長い1日が始まった

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