今日もいい天気だよ、
ある日のこと。僕はいつものように空気中を意味もなく彷徨っていた。風の流れに合わせると自然と身体はその流れに合わせて動き出す。僕は横になって力を抜いた。大きく息を吸ったあと深く長く息を吐いて身体が風と同化していくイメージをする。僕は風になった。そしてまた今日もあの子の元へ風となって向かうのだ。
彼女はまだ眠っているようだ。窓の外から彼女の寝顔が見える。病室の窓はとても綺麗で僕は嬉しい。いつも窓から彼女の顔を見ているからわかる。今日はいい夢を見ているはずだ。彼女とは随分長い付き合いなのだ。彼女がこの病院に入院してからずっと彼女の元へ向かうのが僕の日課だった。彼女とは本当に色々あった。悲しい時も嬉しい時もずっとそばに居た。僕たちは二人で一つだった。二人でいれば怖いものなんて何一つなかった。
ある日、僕と彼女は学校帰りに自転車で二人乗りをしていた。ちょうど彼女の好きなアーティストのCDが発売されるとのことでDVD屋さんまで直行した。僕は彼女の幸せそうな顔を見るのが大好きだった。彼女は僕の後ろで幸せそうな顔をしている。僕はそう思いながらDVD屋さんまで急いだ。だが、それは起こった。僕たちは大型トラックの交通事故に巻き込まれたのだ。僕はそこらへんの記憶はあまり覚えていないが、たしか僕たちが信号を待っていると前方からすごい勢いで大きなトラックがこちらに向かってきたのだ。僕は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが彼女も結果的に巻き込んでしまったみたいだ。
それから、僕が目を覚ますとそこは何もないところだった。とても曖昧な世界だった。そこには確かなものなんて何一つなかった。僕は彼女を探した。彼女はどこにもいなかった。僕はその深い迷宮の中で彷徨い続けた。しかし、ある日突然その曖昧な世界は終わった。僕は死んだのだ。まるで眠りから覚めるように僕は死んだ。それから僕は空気中に浮かぶだけのただの精神になった。なぜか心がここある。なんとも死んだのは身体だけだと言わんばかりに。それから僕は彼女を探した。彼女の病院は僕の病院からはかなり離れたところにあった。とても大きな病院だった。直感的に僕は彼女の場所がわかった。彼女は意識不明の重体らしく、今も眠り続けている。僕はそんな彼女を見守ることしか出来ない。あの時、こうしてればという後悔が消えない。彼女はそこにいるけどそこにはいないみたいだった。おそらくあのとき僕が経験した、迷宮の中だ。今も僕のことを探しているかもしれない。僕は彼女に死んでほしくない。どうか彼女が生きて、またあの幸せそうな顔がみたい。彼女の日常を奪ってしまった僕は、心だけが取り残された僕は、ただ見守り、祈ることしかできない。彼女は夢の中で今も彷徨い続けているのかもしれない。僕は今日も言う、「今日もいい天気だよ、はやく起きないと学校に遅刻するぞ!」