表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

第1編 ラクリモーサ 1話 エマの朝

「帝都気象台より、本日の天気をお知らせします。首都近郊は、一日中快晴の予報です。ですが、夜から朝にかけて風が強まり、西寄りの風が雨雲を運んでくるでしょう。西部地域に向かわれる方は、傘のご準備を……」


 ノイズ混じりの女性の声がラジオから流れていた。


「ん~~~~」


 窓際に置かれたベッドから、一人の少女が大きく伸びをして起き上がった。

 乳白色の壁紙に、木製の家具や調度品がいくつか置かれている、小さな部屋だ。そして、当の部屋の主は、起き上がるやいなや、慌てた様子で枕元の時計を覗き込んだ。まだ起きたばかりでぼやけた視界に、容赦なく時計の針が時間を指し示す。


「7時半! 」

 

 セットしていたアラームは今より20分前。ラジオもその時間からついていたはずなのに、全く気づかなかった。まぁ、昨日は遅かったから仕方ないか、と彼女、エマ・L・ストリックランドは自分に言い訳して、一瞬落ち着きを取り戻した。

 

 だが、かといって時間が止まってくれるわけでもない。ここから会社までは、自転車で20分。出社時刻は9時だが、エマはいつもそれより1時間は前に出社して、色々と準備をしているのだ。

 

だから、いつも通りの時間に会社につくには、あと10分で部屋を出ないと行けないのだ。頭の中で計算をしていると、再び眠気が襲ってきた。ベッドの誘惑は簡単には逃れられない。エマは自分に気合を入れる為に、頬を両手で挟むように軽く叩く。


「エマ。ボーッとしてる場合じゃない」

 自分の名前を呼んで意識を覚醒させると、今度はベッドからすくっと立ち上がり、そそくさと着替え始めた。

 もちろんその間にコーヒーを淹れるのは忘れない。

 ベージュのパンツに、ブラウス・シャツ。それに青色のネクタイをキュッと締める。

 そうこうしているうちに、やかんから湯気が上がった。

 

 空きっ腹にコーヒーを流し込むと、体がびっくりしたのが分かった。それと同時に、意識もスッキリとして、ようやく全身が眠りから覚めた気がした。半分になったコーヒーを傍らに置いて、チーズとパンをナイフで薄く切り取る。いつもの朝ごはんは、これにプラスして卵焼きや野菜も食べるのだが、今日はそれを準備している時間はない。

 パンとチーズを口に挟んで、時計を見ると、時刻は丁度7時45分。自転車を猛スピードで走らせれば、いつもどおりの時間に到着するはずだ。

 

 エマは勢い良くドアを開ける。

 

 外の空気は暖かい。春先の陽気だ。

 出勤時間にはまだまだ早いけれど、外を歩く人影は決して少なくはない。

 帝都に来て3年。

 この賑やかな街で、一番好きな時間はまさに今だ。

「よっしゃー! 今日も頑張るぞ! 」

 誰にともなく声を放って、エマもまたその喧騒の中に飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ