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危険な恋の四重奏(カルテット)~ 8 ~

 お酒の品質を守るため、照明が暗めに設定された店内には、ワインだけでなく日本酒からビール、ブランデー、紹興酒に至るまで、様々な銘柄のアルコールが所狭しと並べられている。


 「コッチなんかお姉さん好みじゃないッスか?」


 人好きのする笑顔を浮かべながら、試飲用のワインの入った紙コップを差し出してくる若い店員。


 「そう?」


 二口分程注がれたワインを呷ると芳醇な香りと共に、イヤミの無い渋みと甘さが口いっぱいに広がる。


 「コレも美味しい!うわ~どれにしようか迷うなぁ。」

 「でしょでしょ~お姉さんの好み分かってきちゃったよ。」

 「でも、気に入ったの全部とかなると、さすがにホテルに持って帰れないよね~。何より3人でも飲みきれないわぁ。」


 スミマセン、軽くへべれけ状態の鈴木すずき鈴夢りりむでお送りしております。

 いや~、ちりも積もれば山となる。

 少量のワインでも数本試飲したら酔っ払うもんだね。

 ワインのアルコール度数嘗めてたわ。いや、舐めたんじゃ無くて飲んだんだけどね~ハハッ!



 「大丈夫ッスよ、5本以上買って貰えば、ホテルまでお届けしますから。あ、それとも、コッチの白にします?コレも試飲ありますよ。」


 「ストーップ!ダメダメ。これ以上飲んだら潰れちゃうよ。マジで何処にも寄れずにホテルのベッド直行になるから~。」

 「ハハッ狙い通りじゃないッスか~。任せて下さい、美人なお姉さんもワインと一緒に責任持ってお部屋まで送っちゃいますよ、俺。」


 『も~、上手いんだから。』と笑いながら叩こうとしたチャラい店員の肩に、私ではない誰かの手が先にポンッと置かれた。


 「はは、ありがとう。でも、彼女も荷物も、俺が責任持ってお届けしますよ。」

 「ヒ、ヒッィィィ...」


 絶対零度の視線を受け、小さく悲鳴を上げて凍りついた店員の後から、こちらを覗きこむ様にソレは姿を表した。

 スミマセン、あなたの存在も記憶の彼方でした。


 「さぁ、鈴木さん。どれを購入されますか?喜んで荷物持ちしますから幾らでもどうぞ。」


 石のように固まった店員を他所に、騎星理事がにこやかに話しかけてくる。


 「い、いえいえいえ!そんな、とと、とんでもないです!!」


 一気に酔いが吹っ飛びました。

 ああ、10分いや、20分前の私を殴ってやりたい。

 何故、幻の貴腐ワインを入手&自宅郵送したあの時、サッサと店を出なかったのか。

 何故、机の上には十数本の試飲用のボトルがあるんだろう。

 ああ、それもこれも、この店の品揃えが私好み過ぎたのが間違いの始まりだ。

 その後、この接客上手な店員の勧めてくる物が私好みだったのも原因の一つだろう。

 ワイン目的で入ったのに、地酒まで呑んでいたような。美味しかったな。やっぱりワインだけしゃなくてあの地酒も買っていこう。いや、送った方が良いかな..。

 そうじゃなくって~こんな時に酔っぱらってる自分に、もっと反省しろよ私!!


 「あれ、やっぱり酔っ払ってしまったのかな。そうだ、僕が泊まっているコテージがこの近くなんだ。ちょっと休憩して行くと良い。さあこっちだよ。」

 「いえいえ、全然素面です!大丈夫、予定を続行しましょう!!」


 ハッ!思考を巡らしていた為に黙り込んでいた私を、酔っ払って寝ぼけていると勘違いした騎星理事がにこやかに爆弾発言をぶつけてくる。

 肩に回されそうになった手をガッチリと握りしめ、目当ての数本のビンを購入してから慌てて店を後にする。


 「お、お待たせしました。さあショップに向かいましょう。方向はこっちでしたよね。」

 「フフ、普段はキリッとしてる鈴木さんが酔うとこんなに真っ赤になっちゃうなんて、可愛いなぁ。コテージに誘ったのは下心があっての事じゃなんだけどな。でも、こんなにガチガチになるだなんて。少しは意識して貰っているって勘違いしちゃって良いのかな?」


 これ以上寄り道しないよう、先程の大通りまでの道をずんずんと歩く私に、半ば引っ張られる様に着いてきていた騎星理事が、クスリと笑みをこぼす。

 はぁ!?普通、肩抱かれそうになったり、コテージに誘われたりしたら慌てるものなんじゃないの!?

 っていうか、さっきは秘書さんに「結婚前の女性を部屋にあげるなんてできない。」って言ってたよね?私も一応、結婚前の女性のつもりなんですけど!?

 私って普段からそんなに「女辞めてます」オーラ出してましたか!?

 いやいや、学園の騎士ナイトと呼ばれてる、超フェミニストの騎星理事がそんな酷いこと言いませんよね...だとしたら、そんなに酷い泥酔状態に見たってことかな?

 つまり、普通に親切心で言ってくれてるのに、一人で勘違いしてる『イタイ女』って思われてる!?


 「あ、あ、あの!酔ってましたけど、ちょっとですから!べ、別にガチガチ何てなってません!!」


 って、ツンデレかぁっ!私、何言ってんだぁ!! 

 駄目だ、落ち着け私。下手に口を開くと墓穴を掘りそうだ..。

 そうだ、理論的に酔っ払っていないことを並べ立てれば。溢れ出ろ、我が知識!!


 「わたくし、全く酔っ払っておりません。ある程度のアルコールを摂取すると、体内の血流が改善され体表皮に著しい赤みを帯びるという事象が見られるだけで、未だ酩酊状態には至っておりません。」


 更に何言ってんだぁ!!...駄目だ、これ酔っぱらいあるあるの、カウンターで飲んでる時にガクンと足が落ちて「ちがう!酔っぱらって足が崩れたんじゃない。私はまだまだ素面よ。今のは勝手に足が落ちただけ!ほら、ほら!」と自分の素面をアピールする為に何度も足をガタガタ鳴らしちゃう。状態じゃないか!!


 「フフ、面白いね。鈴木さんって見てて飽きないなぁ。」

 「いえ、ですから本当に大丈夫なんです。っていうか、道順教えて頂ければ一人で..」

 「ほら、こっち。そこの角曲がったらすぐなんだよ。」


 って聞けやコラぁ!!

 私も結構話聞かないって言われるけど、あなたも大概、人の話聞かないよね!?

 騎星理事に手を引かれるままに、私は曲がり角にあった携帯ショップにたどり着いたのであった。

 後さぁ、携帯ショップなのに通りから死角にあるなんて、マジで商売する気あるの!?

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