危険な恋の四重奏(カルテット)~ 5 ~
「えっと‥」
あの、半ズボンの変態 妖精騎士とは違った方向にへと危険な成長しつつある困ったちゃんに、なんと言い聞かせたら良いものかと、少年の前にしゃがみ、ソッと肩に手を置き、なんとかミームの洗脳を解こうと言葉を探す。
「どんな事であれ、がむしゃらに、まっすぐ突っ走るのは悪いことなんかじゃ無い。でもね、ちょっと立ち止まって深呼吸してみることも時には必要なことよ。」
「うるさい!オレ様のに向かって、偉そうに説教でもするつもりか!」
やっぱり、小学生の高学年か中学生くらいになると、大人の言葉は煩いものよね。それは私も充分理解している。
「今のあなたは、未来の自分に誇れる姿?そんな訳のわからない設定に踊らされて、現実を見失っちゃ駄目よね。」
「訳がわからない使命なんかじゃないじゃない!」
「そう...受け入れるって難しいよね。でも、ちょっとづつ周りを見渡してみて。今後、大変な思いするのは君なんだよ。そんなに尖って周りを攻撃してちゃダメよ。」
「尖ってなんか無い!オレ様は、己に課せられた使命を果たさなければならないいから...。」
最初より、ずいぶん勢いの失われた少年の声に、微かだが手応えを感じる。
あれ?コレってちょっとづつ、自分の中の違和感に目を向けてきた感じ!?もしかしたら、このまま目を覚ましてくれるかも知れないわね。
「あなたが言う使命なんて何処にもないの。それにあなたが自分自身で気付く事が最初の一歩よ。」
「気付く事...」
何とか自分の妄想のにしがみつこうとする少年のその、強く握りしめた手を優しく包み、少し潤んだ瞳を真っ直ぐに見詰める。
「そう、だから、あんなウサハムの口車に乗っ‥」
「オレ様達の国、アクアトピアは本当に美しい国だったのだ...それが、それが..。あの日、オレ様のせいで、ギリガンにアクアトピアの宝珠を奪われ、優しかった父母や大切な民を暗黒の眠りに落とされた。なのに、王子たるオレ様だけが、こんな場所まで逃げのび、二本足に紛れておめおめと生かされているいる屈辱...刺し違えてでもヤツを討つ。そう思っていた..。」
「は..?」
「..そうか、オレ様は今まで、己の屈辱を果たすためにしか戦って来こなかったのか。
でもそうじゃ無いんだな。それでは、命がけでオレ様を逃がしてくれた者達に顔向けできないよな。ここで見つけた新しい仲間と力を合わせ共に奴を倒し、元の美しいアクアトピアの姿を取り戻す。ソコまでする事こそ、王子たるオレ様に与えられた使命なのだな!!」
初耳ワード&設定増えちゃってる!?あかんこの子、刺激したら悪化していくパターンアカンやつやー!!
このまま、ミームに植え付けられた、その新しい妖精騎士設定引きずって行くと近い将来、人生踏み外しかねないから、良かれと思ってどうにかブレーキかけようかと思ったけど、諦めた。っていうか、この子のご両親ゴメンなさい。変なやる気スイッチ押して、悪化させちゃったみたいです。
駄目だ、この子手遅れ。口車に乗りやすいにも程がある、将来大丈夫か。もしくは、少年の周囲が現実から目を背けたくなる程過酷すぎるせいなのかも知れないけど。
この騙されやすさ。きっとこの子がさっき愛瑠奈ちゃん達が言っていた4人目だよね。
あぁ、という事は、この子も着るのか、あのゴスロリコスチューム。
フリフリじゃない事だけ祈ってあげよう。わたしに出来るのはきっとそれだけだ。
「あぁ、うん。そうなんだ。分かった分かった。色々と煩く言ってゴメンね。立派な君を差し置いて、何も分かってない私が先頭切って行くなんて烏滸がましいよね。ミームの事は全面的に君に任した。
うん、君しかできないっぽいよね。邪魔なんか絶対しないから、君が思うままに思い切りぶつかったら良いと思うよ。じゃあ、」
そして、このどさくさに、このままフェードアウトさせて貰おう。
と、少年の前にしゃがんだまま、足元に落ちたスマホに手探りで手を伸ばす。
良かった、土の上で止まってて。もう少し先だったら結構深い岩の窪みに落ちる所だったよ。
「うわぁぁん!!」
「がふっ!!」
手でスマホを探り当て、手繰り寄せようとした瞬間、涙目の少年がタックルをかけてくる。
その瞬間、指先で手繰り寄せていたスマホを逆に突いてしまう。
カシャン、パリンッ!!
「っ!?」
「ありがとう!オレ様が変わることができたのは、お前のおかげだ!!」
岩の隙間に落ちた!!しかも、パリンって!!衝撃音じゃないよ、破壊音だったよ、アレ!
しかも、君の性格については、変わったんじゃない悪化させたんだ。この子のお母さん、お父さんマジでゴメンなさい。訴えて来ない様にお願いします。
後、行くならとっとと一人で行ってくれ、頼むから。
私にとっての最重要事項は、今、岩の窪みに落ちた私のスマホの安否確認だから。パリンって聞こえたんだよ!
「そうか、さっきピンク頭が言っていたのは、この事だったんだな..。」
あぁ。何を言ったか知らないけど、そのピンク頭って、100%愛瑠奈ちゃんの事だね。
いらんこと言ってない事を祈る。そして、ついでにスマホの無事も祈りたい。
後、私の腹に顔を押しつけるの、マジ止めて。そこは他人には触られたく無い、プニプニ危険地帯なの。
「一人の力は弱くたって、信じ合える者達が力を合わせれば、敵わぬ物はないのだと。1+1は無限大になるのだと!!」
愛瑠奈ァアっ!!(怒)
生まれない!!絶対生まれないからな!!
そして、どんなに頑張っても、1+1は2にしかならないから!そのピンク頭も交え、1から算数やり直してこい!
さらに言うなら、私達の間には1ミクロンも信頼とか生まれてないから。
「ありがとう。こんなオレ様を信じてくれて。」
だから、信頼関係は一切、無いってば!!
あかん、この子初めて知った友情ってもんに酔っちゃってる。(勘違いだけど)
ありがとうとか言いながら、全くコッチの話聞かない位の泥酔状態だ。(だから、勘違いなんだけど)