危険な恋の四重奏(カルテット)~ 2 ~
「美味~っ」
「美味しすぎぃ!ねぇ~こっちも食べてみてぇ。」
「この季節のマンゴーって神だわ。」
植物型魔痕や三色ロリータ少女、自称☆フェアリーデンのウサハム戦士を見なかった事にしたまま、土産物屋等が並ぶ中心街へと繰り出した私たち。
目当ての店もすぐに見つかり、それぞれに注文したジェラートを手に、カップルや家族連れで賑わうお土産屋等を冷やかしながらウィンドウショッピングを楽しむ。
はい、告白します。結構油断してました。
先ほど見た人物とか考えたら、宿でのんびりするっていう選択肢もあったと思います。
「あれ、もしかして鈴木さん!?」
その声を聞いた瞬間、頭の中で私のたのしいショッピングタイム終了のブザーが鳴り響いた。
油の切れた超合金ロボットの様に、ギギギギ...そちらに首を向けると、頭に『疫病』と名のつく神に繋がれた、私の運命の相手かもしれない、視界に痛いピンクの頭髪・フェアリーレッドこと、花園愛流奈が、嬉しそうに大きく手を振りながらこちらにかけてくる。
「すごい、奇遇ですね~。」
「花園...さん。」
満面のキラキラ笑顔で、子犬のように駆け寄ってくる愛流奈
ええ、可愛い女の子に懐かれて、嫌な気はしないんだけどね。
あんたの肩に乗ってる、一般人には見えないウサハム(ウサギ&ハムスター)までが、あなたと同じ顔でこちらを見てくる姿には、嫌なドキドキとイライラを抑えられないわ。
「ウン、ソウダネ。偶然ダネ。」
「やったぁ、こんなところで鈴木さんに会えるなんて凄いラッキー!鈴木さんたちは今日はこれからどこに行く予定ですか!?
私たち、あっ!実はキララちゃんとカナデちゃんも一緒なんですけど、この先のジェラート屋さんに...あぁっ!それ、『ジョリーボーン』のジェラートですよね!?やっぱり美味しそう~、鈴木さんたちも行ってきたんですね!?うわぁ、やっぱり美味しそうだなぁ。」
アナタはちょっと落ち着いた方がいいよ。
「ハハ・・・」
愛留奈の肩の上で此方をガン見しながらピョンピョン跳び跳ねて猛アピールしてくるミームを絶対見ない様、死んだ魚のような目をしながら遠くを見る私に全く気付きもせず、花園 愛流奈がハイテンションのままマシンガントークをぶつけてくる。
悪い子じゃないことは分かっているんだ。
わかっているんだけど、肩に載ってるウサハムともども、一度ゆっくりと説教したい。高校生らしい落ち着きと言うものを。
「ああ、やっと追いつきましたわ。愛流奈さんってば、いきなり走り出してどうしたんですの?」
「も~愛流奈ったら!一人で行かないでよ、びっくりするじゃないの。」
苦しげに肩で息をしながら、妖精使徒の残りの二人、肩につく位にカールされた金髪の天宮 星光と明るい青みがかった髪をポニーテールに束ねた七海 奏まで駆け寄ってくる。
愛留奈の肩に乗るミームを含み、日常で出来るだけ会いたくないカルテットが、目の前にそろってしまった。
「ははは、ごめんごめん、二人とも。でもでも、鈴木さん見つけちゃったんだもん☆」
「え?鈴木さん?あら本当に。こんにちわ、お会いできて嬉しいですわ。」
「もう、愛流奈ちゃんってば、鈴木さんの事大好きなんだから。でも、ここでもお会いできるなんて、本当に奇遇ですね。」
二人を置いて突っ走って来たことに、全く悪びれた様子無く笑う愛流奈。
慣れているのか、奏と星光は笑いながらこちらに笑顔を向ける。
ミームのせいで、単独行動取らされてる私が言えた義理じゃないが、あなた達、心広いね。
「リリちゃんってば、モテモテだねぇ~。」
「あ、もしかして、さっきの森の遊歩道のところで、知り合いっぽい人見つけたって言ってたの、この子達の事?」
何気なく言ったであろう美穂の言葉に、私だけでなく、愛流奈、奏、星光の三人の空気までもが、ビシリという音が聞こえそうな程凍りつく。
「え、私何か変な事言った?」
「さ、さぁ...?」
一瞬にして固まった愛留奈達に、能天気だった早苗と美穂の空気までこわばる。
しかし、二人をフォローする余裕は私もなかった。
美穂の言葉に動揺した3人が、コソコソと私の日常に優しく無い方向の新情報からだ。
「え‥でも。妖精使途の姿って、普通の人間には見えないってミームが言ってましたわ。ねぇ?」
フェアリーデンの住人が一般人の眼に見えない様に、変身後の妖精使徒の姿は、普通の人間には見えないのである。
そして、先ほど森の遊歩道にいた三人は、妖精使徒に変身していた。それが見えたなんて事になれば、フェアリーデンの関係者であると疑われかねない。
「その通りだミュー、妖精使途の姿が見えるのは『特別』な存在だミュー。えっと~た~と~え~ば~・・・」
しかも、愛流奈の肩に乗っかったままミームが、含みを持たせた言葉と共に、無駄にキラキラした目を私に向けてくるではないか。
今すぐ。コイツの顔面に拳をめり込ましてやりたい。
「え!?じゃあ、あの森での私達の姿が見えたとしたら、鈴木さんって!?」
「そうー」
「ゴホンっ」
「め"っ!!...」
振り上げそうになる拳を懸命に押さえながら、愛流奈の言葉に嬉々として答え様とするミームへと殺気を込めながら、咳払いを一つ。
私から滲み出す殺気を感じたのか、口をひらいたまま、ミームが青い顔で凍りつく。
普段から『妖精乙女の秘密は漏らすな。』と精神と体へ刻み込んだかいがあった。
「べ?べってなに?」
「ミーム?どうしたの?」
「凄い汗ですわよ?」
セリフの途中で、いきなりぬいぐるみの様に動きを止めたミームを、3人が不思議そうに眺める。
よしよし、ミームが怯えて口を閉じているうちに、何とか話を逸らす方法をひねり出さなくては。
「でも、残念~てっきり男の人だと思ったのにぃ。」
「もう。早苗ってば、そればっかり。」
何か、確実に疑われない嘘が無い物かと、懸命に頭をひねっていた私の耳に、何気ない早苗と美穂の言葉が飛び込んでくる。
それだぁっ!
「いやいや、私が見たのは、この子達じゃなくて男性。」
大袈裟に照れた表情を作りながら、照れ隠しを装いながら、わざとらしく手をブンブンと振る。
「やっぱり男性なのねぇっ!?呼び止めようと追いかけたりするくらいだからぁ、もしかしてぇ、イケメンだったりぃ?」
「へっ!?う、ううん...フツ―じゃないかな?同じ職場の人と会うなんて珍しいなぁって思っただけだし。」
思い切り食いついてくる早苗に、私がしどろもどろになりながら返事をしている後ろで、愛流奈たち三人が、小声で会話を続けている。
「良かった..見られたんじゃ無かったのね。」
「えー、ガッカリ~。てっきり鈴木さんが四人目だと思ったのにぃ。」
私の言葉に、先ほどまでコソコソとしていた奏が安堵の表情を浮かべたのとは対象的に、あからさまにガッカリした顔をしながら、愛流奈が不吉な言葉を呟く。
「え..四人?あなたたち三人だけじゃないかったの!?」
もしかして、妖精使途って、まだ居たの!?
うまく話を逸らす事出来て安堵しかけた私の耳に、危険な言葉が届く。
しかし、私が質問する前に、奏と星光の二人が、愛流奈の言葉をさえぎってしまう。
「愛流奈、シー!!」
「いえ、何でもないんですわ!!申し訳ありません、せっかくのレジャーなのに、お引き留めしました。私達はこの辺で!!」
うん、さっきまではさっさと別れたいと思ってたけど、ちょっと待って。
その「四人目」って話をもうちょっと詳しく聞かせてくれないかな、君たち。
しかし、引き留めるために声をかけようとした私を振り切り、不満顔の愛流奈を引っ張りながら、固まって動かないミームを小脇に抱え、あわてて別荘の立ち並ぶ区画へと去って行く二人。
そんな三人の後姿を、茫然と見送りながら、帰ったら物理的にでもミームをひねり上げて、『四人目』という恐ろしい言葉の意味を聞き出してやろうと、強く心に誓ったのであった。