危険な恋の四重奏(カルテット)~ 16 ~
「あーそうだったー(棒)。湖の乙女の伝言で『本当に必要としてる人に渡して欲しいってメイフェムさんに言われた』って言われたんだったー(棒)。」
「本当に必要な人..では、お前にもこれが必要だということなのか..。」
あ、駄目だ。こう言っちゃと、湖の乙女から直接渡された私が本当に必要な人って事になっちゃう!?
「いやいや、湖の乙女が、メイフェムさんから本当に必要な人に渡してって言われたから、必要な人に渡してって私も渡されたわけで...!」
いかん、既に自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
「フッ、そうか..。そうだったのか..。」
慌てる私をよそに、少年が少し苦笑いを浮かべる。
あ、あっさり騙された――――っ!って言うか、今ので理解できたの!?こんなんで言いくるめられちゃう君の中二病脳に、改めて感謝する。
「あの時の言葉はこの事だったのか。」
「はぁ!?私、まだ何か言ってたの!?」
ホッとした時に再びの爆弾発言が落とされた、心臓が本日何度目かのバックドラフト。
私、今日だけで、何年分の寿命縮めたんだろう。
「いや、お前では無い。妖精乙女の言葉なのだ。」
「あ、うん。そうだよね!メイフェムさんだよね。で、メイフェムさんは何て言ったの?」
バックンバックンする胸を押さえ、パタパタと手を動かす。
やっべーやっべー。衝撃の余り、つい本音が漏れた。
「フッ...嫉妬させてしまっただろうか。だがすまんな。あの時の事はオレ様と妖精乙女二人だけの秘密なのだ。」
マシで何やってくれたんですか酔っ払いの妖精乙女。後、今の質問のどこを取ったら『嫉妬』に繋がるんだろうか。君の妄想の翼が広がりすぎてて怖いんだけど。
しかし、これ以上聞き出そうにも『サンタさんと初めて秘密を共有した子供』並みにキラキラと目を輝かせる少年の表情にを見ていると、もうこれ以上は何を聞いても無駄そうだ。っていうか、誰にも語らない秘密だったら、少年以外に拡散する可能性は低いだろう。少年とも恐らく、いや、絶対今後会うことは無いだろうし。
...無いだろう事を祈ります、お願い神様。
宝物の様に水晶玉を胸に抱く少年を眺めながら、今まで一切お願い事を聞いてくれなかった神様だが、今度こそお願いしますと心の中で祈る。
「りり!」
「りりちゃぁ~ん!!」
「も~二人共、やっと戻ってきた‥え?」
と、丁度森の小道から聞こえてきた美穂と早苗の声に、足を向けようとした私の歩みは、2、3歩進んだ所で止まる。
此方に駆けてくる美穂と早苗。そしてその後からゾロゾロと現れる地元民らしき十数人、そして何故かその中に騎星理事の姿までが混ざっている。
.....なんだか、今から山狩りでも行われそうな大人数なんですけど。
「良かったよぉ~、りりちゃん、無事で良かったよぉ~。」
「ど、どうしたの、二人共?しかも、この人たちは..」
半泣きで飛びついてきた早苗を抱き止めながら訊ねると、美穂までが涙目でしがみ着いてくる。
「りり、本当に無事で良かった!」
しかし、早苗と同じ様な言葉を繰り返すばかりで、二人の取り乱し方の理由も、この地元民たちとの関係性も、全く分かりません。
「良かった、無事だったんだね鈴木さん。」
二人の普段にない取り乱し様に、私までがオロオロしていると、騎星理事が安堵の笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。
「えーと、すみません。全く状況が分からないんですが、何があったんですか?」
早苗はわんわんと泣いているし、美穂は私にしがみ着いたまま動かない。地元のおっちゃん達は元ギリアムの巨木に一心不乱に手を合わせる者、腰を抜かしつつも、何処かへ連絡を入れている者、魂が抜けた様にへたり込んで居る者と、普段なら静かな湖畔であろう場所が完全にカオスとなっている。
騎星理事は、チラリとカオスな人々に視線を投げたあと、少し困ったように微笑みながら状況を説明してくれた。
「うん、こんな事言って信じて貰えないかも知れないかも知れないけど、昨夜、この森にすごい閃光が走ったらしいんだ。一応、その時にも安全確認には来たんだけど、森の中は真っ暗過ぎて迷っちゃってね。明日の朝、改めて来ようって事になって、今朝、地元の青年団の人達と確認に来たんだけど..。」
へぇ、このおっちゃん達、『青年団』だったんですね。言いにくいんだけど、全体的に頭の薄い人の多い『青年』団だなぁ。
「その途中で、君のお友だちの彼女達二人と合流して、怪しい人物とか見なかったかどうか話してたんだけど..。そしたらまた、この湖の方角から、また光の柱が立ったから、みんなで慌てて、この場所に向かったんだけど、何故か同じ所を回らされている様で、なかなかたどり着けなくて...やっと今、たどり着いという事なんだ。」
「あーそうなんですかーー。」
湖の乙女ってば、もしかして今まで結界師的な物張ってくれてた?そうだとしたら、ありがとう。初めて心から感謝する。変なもの押し付けて言い逃げしたことは許さないけどね。
元はといえば湖の乙女が変な水晶玉渡してこなければこんなにも困らなかったんだけどね。
しかし、視界の隅で一心不乱に湖に祈りを捧げている一団(地元民)を見るに、光の正体が伝説の乙女だったとか言っちゃうと、ややこしい事情聴取始まりそうだな。
「はぁ、私も今まであの子といましたけど、光なんか見なかったですよ?」
ここは絶対、しらを切りとおした方が良いということを判断した私は、このカオスな状況下にもかからず、先ほどから貰った水晶玉をキラキラした瞳で見つめ、どっぷりと一人の世界に浸っている少年を指差す。
と、少年へと視線を移した騎星理事が目を見開く。
「アクア様、何故こんな所に!?」
「アクア、さまぁ!?」
様ぁ!?何、騎星理事が『様』付けするって、何処かの王族ですか!?
「おお、ゲン。お前も来たのだな。見てくれ!」
「って、そっちもゲンって!!」
ちなみに騎星理事の名前は『騎星 厳十朗』である。ビジュアルは爽やかな中世の騎士なのに、名前は厳つい戦国武将のようだなんて、新しい和洋折衷と言ったところだろうか。
そんな騎星理事の声に、やっと自分の世界から脱出したアクア君(名前判明)は優雅にこちらに近寄って来ると、水晶玉を騎星理事の前に掲げて見せる。
って、君も『ゲン』って、随分フレンドリーだね。
だが、このままでは!!只でさえカオスなこの状況で、私が湖の乙女から宝玉を預かってたとか言われたらまたややこしい事に!!
「あ、いや。それは!!」
「妖精乙女がくれたのだ。あの時言っていたのは、この清流水晶の事だったのだ!!」
コイツ言っちまいやがったぁぁぁぁぁぁぁ!!しかも、お前さっきは『妖精乙女との秘密★』って言ってたじゃねぇか!!既に騎星理事に話してるってどういう事だよ!!
そして、騎星理事も律儀に『妖精乙女から!?』とか話し合わせてあげるんですね。大人って優しいなぁ。昨日から、騎星理事の株がうなぎ登りだよ。
「ああ、こうしては居られない。オレ様は一刻も早く、清流水晶を国に持ち帰らねばならない。長い間、世話になったな、ゲン。 この世界を訪れた時、初めて出会った二本足がお前であったことがオレ様にとっては一番の幸運であった。」
「勿体ないお言葉。アクア様の国が一刻も早く立て直されますように祈っております。」
「ああ、必ず元の美しい姿を取り戻してみせる。」
少年の言葉に度肝をぬかれ、また、話を合わせてそれに膝を着く騎星理事にも、更に度肝をぬかれる。騎星コンツェルンのご子息にここまで言わせるって、この少年マジで何者!?
アクアトピアとかいう一部の脳内でしか存在しない世界は置いといて、少年の国は水不足で悩まされてるみたいだし、ハーレクイン系でポコポコ発生してるシークの息子って奴ですか?
でも、預かってたシークの息子をあっさり帰らせちゃって、良いの?やっぱり、騎星理事もコイツには手を焼かされてたんですね。
別れの言葉を残し、去って行こうとした少年が、ふと此方を振り返る。
「そうだスズキ!お前の事は改めて迎えに来る。無論、我が花嫁としてな!!」
ハアァァァァァァァッ!?
颯爽と去って行く少年の背に、私、美穂、早苗、そして騎星理事の奇声が上がる。
良かった、二人共泣き止んでくれたんだ。でも、泣きながらもこっちの話は聞いてたんだね。そして少年、私の名前ちゃんと覚えてたんだ。
「キャァァ、りりちゃん、どうゆうこと、どうゆうこと!?」
「りり、しっかり説明してもらうわよ!?」
「ちょっと待ってよ、二人共。あの子見たでしょ?子供よ子供。どう見ても小学生か中学生でしょ。」
泣きはらした真っ赤な瞳をしたまま、興奮を隠そうともせずこちらに迫る二人の剣幕に、さすがに腰が引ける。




