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危険な恋の四重奏(カルテット)~ 15 ~

 何者かの背後からのタックルにより、前方にはね飛ばされた水晶玉が、鳩尾にめり込む。


 「ゴフゥッッ!?」

 「やっと、やっと見つけた、オレ様のエンジェルフィッシュ!」


 人体には、いくら鍛えようとも、強化しきれない場所がある。

 これが、人間の急所である。

 遥か昔、神代の時代。不死の泉に浸かり最強の体を手に入れた、かの英雄アキレスも、泉に浸からなかった足首を射られて命を落とした。

 そんな急所の一つでたる鳩尾に、一撃を食らった全く鍛えていない一般人わたし。効果のバツグン具合は推して知るべし。


 「探していたんだ!!」


 鳩尾をえぐられ、全身に走る筋肉痛の痛みに、悶え苦しむ私の様子には全く構わず、ソイツは背後から鯖折りを決めてくる。

 苦しい!!後、腹肉を締め付けないで!こいつの腕、子供みたいに細いから余計にめり込むの!

 もうやだ、そこの肉掴んじゃ駄目!!違うの、贅肉っぽいけど、それはすぐ落ちるヤツだから!

 最近、魔痕ヴォルグとミームのせいで、運動不足だったから、ちょっと残ってるだけなの!来年の夏には綺麗に落ちる予定なの!!

 ボンレスハムを締め付ける網のごとく、腹肉を締め上げてくる細腕を、懸命に緩めながら視線を後ろに向けた私は、背後からの強襲者正体に、目を見開く。


 そこには、背後から私の腹肉にしがみつく、昨日の昼前に死亡フラグ乱立させたまま魔痕ヴォルグに突っ込んでいった厨二少年。


   って、お前かぁあぁぁっ!!


 「無事で良かった、オレ様の妖精乙女メイフェム!!」


 ドッキーーーン!!

 その上、少年の口から飛び出した言葉に、心臓が縮みあがる。


 「め、めめ、めぃ!?な、ななな、何で妖精乙女メイフェム!?」


 先程の湖の乙女といい、何で私=メイフェムだと分かった!?もしかしミームになんか聞いた!?いやいや。万が一、私の事喋った時の恐ろしさはしっかりヤツの体と記憶に刻み込んでるはずだから、それは考えにくい...。

 でも少年とは私の正体がバレる話なんか一切してないよね!?

 何で分かったの!?まさか、女王様が言ってた様に、巨木臭してる!?


 「ああ昨日の夜、魔痕四天王・緑のギリガンに窮地に追い詰められていたオレ様たちの前に颯爽と現れたのだ。」


 ギクギクーーーン!!


 先程の『湖の乙女』から聞いた魔痕ヴォルグと同じ名前に、只でさえバックンバックンしてる心臓が、口から飛び出そうな程に跳ね上がる。

 君もしかして、昨夜の現場に居合わせてたのかな?


 「妖精乙女メイフェム...あの勇姿がオレ様の瞳に焼き付いて消えない。」


 君の目には勇姿に映っちゃってたっ!?

 厨二な君のハートを焼き付けたって、とんでもなくアイタタな事やらかしてたって事だよね!?

 マジで、昨日の私は一体なにをやらかしたの?聞きたいような、聞きたくない様な、聞いたらコッチが再起不能になっちゃいそうな...。

 だが、ここで聞いておかないと、後日後悔しそうだ。仕方ない、聞くは一時の恥だ!!


「えっと、出来れば昨日何があったのか詳しく教えて貰えないかなぁ、なんて。」


 意を決して訊ねた私問いかけに、厨二少年は唇を戦慄かせながら目を見開く。


 「ばかな!あの目映まばゆく圧倒的な戦いを忘れたのか!?」


 マジで昨日の私、何やったの!!!!?


 「い..いや。忘れたというか、結構、泥酔してたみたいで..。」


 「でい..?まあ良い。ならば教えてやろう。そう..あの時、ギリガンの猛攻に倒れかけたオレ様たちの耳に微かな旋律が届いたんだ。次の瞬間、オレ様達を捕らえていた魔痕ヴォルグの蔦が一瞬で切り裂かれ、この場所に不思議な歌と共に光が光臨り立った...。」


 その時を思い出しているのであろうか、焦点の合わない虚ろな目で、一際高い木の上を指差す少年。

 ...ヤバい、登場シーンだけで、死ねそうだ。


 「そして、ギリガンの蔦に捕らわれていたミーム殿を、聞いたことも無い技で、その強靭な蔦を切り裂き、いとも容易たやすく救出した。」


 ああ、うん。アレだね。

 さっき湖の乙女(笑)から聞かせて貰った、トレイカッターとか顔面シャワーとかの、あのタブレット型玩具の声だよね?

 でも、技名付いてるけど、やってる事は単なるキックとビンタだと思うよ。


 「そして、奪われていた精霊樹杖エレメンタルワンドを一瞬で取り返し、力ある言葉と共に軽やかに舞った瞬間、妖精乙女メイフェムの体から更に溢れ出した目映い金色の光が...。」


 ..え、溢れ出した?真夜中だったよね?

 後、最初から光ってたって事は、件の女王様お手製の光ベールを被ってたって事だよね?そんで、アレ被った妖精乙女メイフェムさんの光って、後日ニュースになるレベルの発光パワーだったよね?


 いやいや、悲観的になっちゃ駄目よ、鈴夢リリム!!ちょっと光っただけじゃない!!少しだけ光っただけなら、『観光客がフラッシュたいたんだろう』位で騒ぎにはならないわ!!大丈夫、まだ大丈夫よ!!


 絶望に転げ回りたくなる羞恥心を抑えながら、少年の話の続きに耳をかたむける。


 「緑のギリガンを貫き、そのメタモルフォーゼさせたその光は湖面や周囲の森を一瞬で包みこみ..。」

 「ストップ、ストップ!!」


 うっとりと目を眇めながら当時を回想する少年から繰り出される危険ワードの数々に、さすがにストップをかける。

 あかん、フラッシュとかでは誤魔化せねぇわ。これ今まで通りのニュースになるパターンのヤツだ。


 「何だよ、聞きたいと言うから話してやってるのに。」


 自分の世界に酔いしれながら、気持ち良く語っていたのを邪魔され、不満気に唇を尖らせた少年がじろりと此方を睨む。

 悪かった。完全にトリップした状態から引き戻してゴメン。でも、こちらもNGワード(死語)がたっぷりで止めざるを得なかったのよ。


 「ゴメンね。でも、あの~光ったの?湖面どころか森も?ピカッ位だったかな?」

 「フン、妖精乙女メイフェムの輝きがその程度な訳があるまい。まるで、地上に太陽が降臨した様な輝きだった。オレ様も今まで生きてきた中で、あれほど凄まじいメタモルフォーゼ初めて見た。」


 特撮ヒーローを前にした幼児の様に瞳を輝かせる少年。


 終了ーーーーッ!


 駄目だ..夜中に旅行気分ではっちゃけ過ぎた観光客のキャンプファイアーよりもやったらあかんヤツやってもうとった..。絶対、騒ぎになったよね..。

 それに、妖精使徒フェアリーエンジェルも絶対現場にいたよね。..って事は事件&身バレのダブルパンチですか?

 あまりの絶望にがっくりと膝を付いた私を見下ろし、少年は「何だ、やっぱり見逃してたのか?まあ、落ち込むのもわかる気はするが。」等と、見当外れな言葉を呟く。

 だから、見逃したんじゃなくて、現場に居たみたいなんだけどね、覚えて無いのよ。ワインってアルコール度数高いのね、普段、 意識なくすほど酔っ払ったりしないから油断してたわ。旅先での油断と疲れで、意識全部持ってかれちゃったみたいね..。


 ..って...うん?『見逃したのか?』って言った?


 私=妖精乙女メイフェムって指摘しといて、『見逃したのか』って?おかしくない?目前でやらかしてた本人に対して、『忘れた』じゃなくて『見逃した』と?

 そういえば、今までの話では、妖精乙女メイフェム=私に繋がる場面が無かったよね?

 もしかして、私=妖精乙女メイフェムを暴いたのは、少年の厨二電波のなせる技であって、本当はまだ本人の中でも確証無いとか?

 うーん、藪をつついて蛇を出しちゃったりても困るけど、コレは私の精神衛生上、聞いておかないと。


 「あ、えっと。君は、その、メイフェム..さんとは、話したのかな?」


 内心ドキドキで訊ねると、少年はフッと笑みを浮かべる。


 「ギリガンをあの木にメタモルフォーゼさせ、さすがの妖精乙女メイフェムもパワー切れを感じたのだろうな。消えゆくギリガンに眠りの言葉を告げた後、俺たちには何も語らず、光のベールを纏ったまま姿を消したのだ。」

 少し寂しげに肩を落としながら、湖の中を指差す少年。

 その先には、アニメーションの巨匠が作った、ケモノアニメのご長寿杉もかくやという巨木がその太く雄々しい幹を湖の真ん中から空へと延ばしていた。


 へえ...アレって昨日生えたんだぁ。千年ぐらいここに生えてたっぽい感じで自然に景色に溶け込んでたから、分からなかったよ。ああコリャ、今日の地元紙夕刊のトップニュース決定だね

 そして何だか、昨夜は妖精乙女メイフェムさんはいっぱいやらかしちゃったみたいだなぁ。でも全部、光のベールを被ったまま終わらせたって事は、鈴木わたしさんは身バレして無いよね。それに、全く見に覚え全く無いから無関係って事で良いよね。

 ああ、勇気を出して聞いて良かった。少年が紛らわしい名称出すから、脇汗かいちゃったじゃない~。 顔見られてないなら、ごまかしちゃえばいいのよ。


 「やだなぁ、メイフェムなんて、『聞いた事も無い』、『何の関係も無い』人の名前呼ばれるから、ドキッとしちゃったじゃない。でも、何で私の事を『全く赤の他人』なメイフェムって呼んだの?」


 自分と妖精乙女メイフェムの関係性をキッパリと否定しつつさり気なく訊ねると、少年は照れくさそうに、ニヒルな笑みを浮かべる。


 「フッ!己の愛の言葉を繰り返されるのは少し恥ずかしいな。」


 君、羞恥心とか持ってたんだ。


 「自分愛しい相手を、唯一無二の存在である妖精乙女メイフェムにたとえるなど、世間では使い古された愛の言葉だったかな。」


 君の言う『世間』とは、私はいっさい関わり合い無いから、そんな妖精乙女メイフェム活用形、聞いた事ありません。

 あたかも全世界共通であるかの様に、フェアリーデン関係者の身内あるある引用するの止めてくん無いかな。


 「しかし、お前も無事だった様で本当に無事で良かったぞ。昨日の昼、あの場にお前を残し、襲い来る魔痕ヴォルグを退けた後、お前の姿が見あたら無かった時など、まさか魔痕ヴォルグに浚われたのではないかと心配していたのだ。」


 あの時、そんな危機的状況だったっけ?

 今まで私の前に出現してきた魔痕ヴォルグは平均、一殴ワンパンで小突いた位でへこたれる相手ヴォルグに、何を心配するのか。


 「へ、へえ..(君のイメージでの)魔痕ヴォルグって、そんなに危ないんだ。」

 「うむ、しかも四天王の一角、緑のギリガンは我がアクアトピアにとっての宿敵でもあったのだ。」


 少年は、緑のギリガンがメタモルフォーゼした巨木へ、少し寂しげな視線を向けながら語り出す。


 「美しく華やかなアクアトピア。深い海の底、賢い父王と穏やかな母王妃が治めていたオレ様の故郷は、あの日突如現れたギリガンの軍勢に襲われ、我が国の軍は崩壊。奴の手によって国中にまき散らされたけがれにより、全ての者が深い魔の眠りに落とされたのだ。」

 「軍勢?」

 「ああ、全てヤツの分身によって構成された、最強の軍勢だ。」


 もしかしなくても、君の言うギリガンの分身って、昨日の温泉に浮かんでた昆布みたいなのの事かな?摘まんでポイ出来たけど、アレを最強呼ばわりって、君の軍って、へなちょこ過ぎないかな?


 「へ、へえ。最強なんだ。それで、どうやって君は、『さいきょうのぐんぜい』から逃げられたの?」

 「ああ..オレ様は..ジェリー=フィッシュ将軍とサン=フィッシュ将軍によって城の隠し通路から城外に逃がされ...ブルーギル魔道師の助けを借りて人間界にやってきたのだ..。」


 う~ん。君の妄想では、防御力ゼロのクラゲと死にやすさナンバーワンのマンボウが将軍やってて、頭の悪さで定評のあるブルーギルが魔道師してるのかぁ。

 シャーク将軍とかシャチ将軍とかイルカ魔道師とかだったら、君の妄想国滅びなかったのにね。


 「だが、こうやってギリガンが滅びたのだ。今頃は我がアクアトピアを覆っていたギリガンの分身達も同じく朽ちているはず。」

 「なんだ、良かったじゃない。じゃあ君もさっさと帰らないと。」


 そういえば、二人と別れてから結構な時間が経過してる。景色を見ながらゆっくり歩いてたとしても、いい加減戻って来る頃合いだろう。なので、少年にも「お母さん達心配してるよ~」と帰りを促しておく。

 さて、後の問題は、筋肉痛の肩にめり込み、今後の肩こりの原因になりそうな、湖の乙女曰わく、おいしい水を作れる(らしい)水晶玉だけだ。


 「いやまだ、問題は山積みなのだ。ギリガンの軍勢を消し、奪われていたアクアトピアの宝珠・海真珠を取り返したとしても、汚され、力の弱まった海真珠では、国中に残るギリガンの魔素を消し去ることは出来ない..。だが、あの魔素をどうにかしないと、国の皆を魔の眠りから覚ます事が出来ないのだ。」

 「うーん、困ったねー」


 本当、この水晶玉どうしよう。もう、このまま此処に置き去りにして帰っちゃおうかな。

 でもな~。前に一度、妖精樹杖エレメンタルワンド棄ててきた時も、二本足のワニが家まで届けに来た事あったからなぁ..。ドア開けたらワニがペコペコしながら立ってた衝撃は未だに心の傷として残っている。

 となると、誰かにあげるか..。でも下手に地元民に渡して、今回の事件の足がついても困るしなぁ...。

 ....あ、そうだ!!


 「ねぇ君、良かったらコレ要らない!?」


 先ほどからボソボソと自分の妄想を語っていた少年に、水晶玉を差し出す。

 中二病って、訳わからない水晶玉とかの魔法グッズって大好物だよね。


 「なっ..コレは!!」


 案の定、引ったくるように水晶玉を掴んだ少年は、驚愕の表情で唇を戦慄かせる。よしよし狙い通り。しかも随分気に入ってくれたみたいだ。


 「お前!コレをどこで手に入れた!?」

 「お、おまっ!?君ね、大人に向かって『お前』はどうかと思うよ。ちなみに、メイフェムとか訳の分からない名前で呼ばれても困るんだけどね。」

 「そんな事はどうでも良い!なぜお前がコレを持っているんだ!?」


 水晶玉を掴んだ手と逆の手で腕を掴まれ、筋肉痛の体ごと、ガクガクと揺さぶられる。痛い痛い。君、結構力持ちだね。


 「い、痛い。マジで痛いんだから止めて!それに、『お前』と『メイフェム』は止めなさい。後、腕も放して。」

 「じゃあ、何で呼べば良いのだ。」


 私の注意に、しぶしぶ腕を離しながら不満げに唇を尖らせる少年。


 「『鈴木さん』って呼んでくれるかな。」

 「分かった、スズキ。それで、何故お前がコレを持っているんだ。」


 このガキ、全然わかっちゃいねぇ。その理解力の無さを見ると、君の妄想戦記でマンボウが将軍職つとまってるのも分かるわ。


 「何か、水色のドレスを着た女の子から渡されたのよ。」


 注意しても全く変わらない少年に、こちらも腹立ち紛れに投げやりな返答を返す。


 「湖の乙女が、コレをお前に?」

 「だから、『お前』って言わないで。」

 「コレは湖の乙女が『妖精乙女メイフェムに渡す』と譲ってくれなかった清流水晶セイレンオーブなのだぞ!」

 「ハアァ!?」


 そんな事、一言も聞いてないんですけど!


 「何故、妖精乙女メイフェムの手にあるべき清流水晶セイレンオーブがここに有るのだ!?」


 あの糞ロリババア、何て物渡しやがんだ!


 「あ、えっとね~」


 もう、こうなったら、合法ショタな名探偵ばりの演技で、誤魔化すしかない。

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