危険な恋の四重奏(カルテット)~ 14 ~
ルートマップに記載されていた『林道散策コース』。
森林に流れる川に沿って作られた小路を20分程歩き、森がきれた所に、朝もやに霞む美しい湖が広がる。
全長一キロ程の湖の真ん中には、樹齢千年はありそうな巨木が青々とした枝を天に突き出している。
着替えから到着まで、たった一人で『痛い痛い』を連発しながらもようやく到着しました、『乙女の湖』
「うへぇ、やっと着いたぁ。」
「うわぁ~おっきな木ぃ、スッゴい幻想的ねぇ~。早起きしてよかったぁ。」
「だね!朝の空気も気持ちいいし、この最高の景色を独り占めっていうのがいいよね。」
到着と同時に座り込んだ私と違って、美穂と早苗は、気持ちよさげに大きく伸びをする。
ちなみに私は全身筋肉痛のため、伸びをしたら死にます。
「うん、本当に良かったわ。触手とか焦げ目とかクレーターがあったらどうしようかって、内心ドキドキだったのよ。」
「え?」
「ナンニモナイデス。」
うまく聞き取れなかったのか、不思議そうに首をかしげる早苗を、慌ててごまかす。いけない、いけない。安堵のあまりにウッカリ口が滑ってしまいました。
だって毎回、魔痕と関わった後って、地面が抉れてたり、焦げてたり、草木が薙ぎ倒されてたりして、結構な騒ぎになっているのだ。
「フフ、へんなリリちゃん。」
「でもリリ、体痛いの大丈夫?」
「う、うん。この場所なら景色も綺麗だし、少しでも筋肉痛ほぐれる様にストレッチでもして待ってるから、良かったら二人はもう少し散策してきて。」
魔痕もフェアリーデン関係者も居ないみたいだし、早朝の気持ちいい時間をのんびりとさせてもらおう。
「そうね、一周徒歩30分って書いてあったし、運動がてら二人でクルッと一周してくるわ。」
「行ってきまぁ~すぅ。」
「はーい、いってらっしゃい。」
元気良く林の中に歩いていく二人の背中に向かってヒラヒラと手を振る。
「ふわぁ~気持ちいい。何か、やっと旅行に来たって言う気がしてきたわ。」
湖の周りは心地よい静けさに包まれ、時折鳥の鳴き声や葉擦れの優しい音が耳に届き、穏やかな風が前髪を優しく揺らして行く。
四つん這いの態勢で湖面の縁に寄り、中をのぞき込むと小さな小魚の群が日の光に鱗を反射しながらゆったりと泳いでいる。
昨日のウネウネ魔痕をけしとばしてくれたであろう、フェアリーエンジェル達に心から感謝しながら、この綺麗な空気を胸一杯に吸い込む。
「平和って素晴らしい...。」
『ええ、これもアナタがこの地に降臨し、魔痕四天王・緑のギリガンを葬ってくれたおかげ....。』
....マタ、変ナノ出マシタ。
湖の中からスウッと、ブルーのロリータファッションに身を包んだ、10才くらいの美少女が、とんでもないワードを語りながら満面の笑顔で現れました。
「........。」
『........。』
ちなみに、現在進行形でガッツリ目が合っちゃってます。どうやら、私に話しかけてるみたいです。
普通だったら悲鳴をあげて逃げ出してるホラーな状況だと思うんだけど、これを受けてる時点で、私も フェアリーデン関係者に随分毒されてきたって事なのかな..。
でも、先に言うけど、今回は絶対、私悪くない。斧とか投げ込んでないし!!ただ草の上に大人しく座ってただけなんだもん。
『こんな早くから妖精乙女に再びお会いできるなんて夢の様ですわ。』
「..本当、コレが夢であってくれたら、どれほど良かったか事か..」
呆然と一人ごちる私を他所に、湖の乙女とやらは水面を滑るようにこちらに近づいてくる。
ああ、今すぐここから逃げ出したい...。だが、全身の筋肉痛で思うように体に力が入らない。何故、先ほど私はここに残る事を選んでしまったのだろうか..ああ、馬鹿馬鹿、意気地無し!!筋肉痛位に負けた自分を心のなかで叱りつける。
そんな私に一切構わず、軽い足取りで陸の上に降り立った少女は、水色のドレスの裾をつまみ、優雅にお辞儀をして自己紹介を始めた。
『改めまして、妖精乙女。私、この湖で守り乙女をさせて頂いておりますわ。』
「湖の..乙女...?」
その様子を呆然と見つめる私の脳裏に、出発前にフロントで場所と一緒に教えて貰った、この湖に伝わる昔話が頭の中によみがえる。
昔々、侵略してきた敵軍の流した毒に、近隣の村々が苦しめられた時、宝玉を持った美しく清らかな乙女が湖から現れ、一瞬にして毒を祓った。
そして、宝玉から湧き出した温泉は、人々の傷をたちどころに癒やし、近隣の村々を救ったと伝えられている。
「それ以来、ここは湖の乙女の力が宿った霊水と、温泉の里として有名なんですよ。」
と語りながら、観光マップに可愛らしく書かれた巫女さん風湖の乙女を指差していた笑顔の似合うお兄さん。そんなあなたに伝えたい...。この湖の乙女は巫女装束じゃなくて、フリフリドレスのロリータファッションだと!!
『アクアト込ピアの宝珠だけでなく、炎の妖精樹の雫までを手に入れ、弱点であった火までを飲み込む能力を得た、魔痕四天王・緑のギリガンを、まるでコバエを払うが如く軽々と叩きのめし、辺りに充満していた魔素を吹き飛ばした勇姿、流石は伝説の妖精乙女ですわ。ああ、アナタに心からの感謝と祝福を。』
瞳を無駄にキラキラウルウルさせながら、縋るような視線を向けてくる湖の乙女。
こちらは一言も応えて無いのに半ば無理やりに会話にされてるっぽいんですが。
しかも、さっきからあなたが語ってくれている活躍には、全く身に覚えがないんだけど、絶対人違いだと思いますよ。
私は昨日の夜は、3人と地ワインで酒盛りをして..一本目が空いた所で早苗が出来上がって、二本目の途中でべろべろに酔っ払った美穂の愚痴が始まって..今朝起きたら、きちんと人数分敷かれた布団の傍に 四本の空瓶が転がってた....?
あれ?布団を敷いた記憶も、布団に入った記憶もない?何より、何で初対面のはずのこの子に、私=妖精乙女ってバレてるんだろう..?
『どうすればこの気持ちを感謝として表せるのでしょう。今後のあなたの手助けとなるようなものがあれば良いのですが..パワーアップする呪具はフェアリーエンジェル達にあげてしまいましたが、 あなた程の力があるのならば、そんなもの必要ありませんわね。』
「結構です。全く身に覚え有りません。絶対人違いです。」
無視しても無駄そうな上に、黙ってたら今までの経験上、とんでないもの押し付けられそうな予感いっぱいなので、しっかり人違いであることと、拒絶の意思だけは伝えておこう。
『いいえ!そんなわけにはいきませんわ、一番の恩人へ何もお礼をしないなんて、湖の乙女としての沽券に関わりますわ。』
返事はしてもしなくても関係無かったようです。 そして私の質問もバッサリと切り捨てられました。
マジで、フェアリーデン関係者は人の話聞かないよね。それとも、押し売りにありがちな『結構』を『素晴らしいもの』ととって押しつけてくる系ですか。
『やはり、感謝の心をお伝えするにはこれしかありませんわね!』
そして、全く私の話を聞いてない湖の乙女は、自分の首にぶら下がっていた、占い師が持っていそうな、でかい水晶玉サイズの青い石のペンダント(?)をこちらに差し出してくる。
本当にフェアリーデン関係者、話聞かないよね。いくら綺麗な石でも、直径20センチを超えると、装飾品じゃなくて置物だよね。只でさえ万年肩こりに悩まされてるのに、それを加速させる様な物、身につけたくないわ。
何より、今は絶賛筋肉痛。そんな重いもの首から下げたら痛みで死ねます。
『これは、私達水妖の長の力を凝縮した清流水晶と呼ばれるもの。コレを持っていれば瘴気や毒を祓うことができ、どこにいても美しい水が手に入ります。人間は水がないと生きられないのでしょう?』
「いりません。」
普通に暮らしてたら、毒とか瘴気とか関係ない。何より蛇口捻ればいくらでも飲み水が手に入ります。日本の浄水システム舐めんなよ。
それに、外出中に水出してもねぇ。マイコップを持ち歩けってか?天然水のペットボトル買うわ。
「貰っても迷惑だし、大切な宝玉を持って行かれたら貴女が困るでしょ。手放さず持ってるべきよ!!迷惑だし!!」
ハッキリと『迷惑』と言ってやった。大切な事なので、二回言ってやりました。
『ありがとうございます、妖精乙女。優しいのですね。でも、この位せねば、あの時の恩返しにはなりませんわ。』
でも、やっぱり通じませんでした。そんな事じゃないかとは思いましたけどね。なに?フェアリーデン関係者って、相手の話を聞いたら死ぬ系の呪いでもかかってるんですか?
「あの時って言われても、それ絶対私じゃないし..。」
『いいえ、あなたは残していってくれたでは無いですか、この素晴らしい神具を!!』
私の話を完全にスルーしたまま、湖の中からうっすらと虹色に輝く、見るからにプラスチック製のオモチャのデコタブレットを取り出し、胸の前に掲げる。
........神.......具?
あ...でも、そのデコデコ玩具タブレット、どっかで見かけた記憶が...?
どこだったっけ?と首をひねっていると、湖の乙女(笑)がおもむろに画面に取り付けられたらカラフルなボタンをタッチして、甲高いアニメ声を響かせる。
『エンジェルウェイトレス・チャチャムーン!!伝票通りに、只今おでまし!!』
...ああ、思い出しました。
アレ、早苗が昨日、宿で拾った他の宿泊客のオモチャだ。
うん、アレが有るって事は、私昨日の晩、確実に来てたみたいですね、ここに。
何とか証拠不十分でここには来てないと言う事に持って行こうと思ってたけど、言い逃れできない証拠が出てきちゃったね。
後、それ私のじゃないんですよ。返してくれないかな。
「神具..なの?それ..?。」
『ええ、あなたのフルパワーを間近で浴び続けた事で、コレは一晩にして清流水晶と同級の力を得たのです。』
「...は?」
『それだけではありません、このボタンを押すだけで...。』
「いやいや、そうじゃなくてっ、私のフルパワー浴びたらって何?初耳なんですけど。」
しかし、私の言葉を一切無視して、画面のボタンを連打する湖の乙女。
虹色の光を放つオモチャのタブレットから、キンキンしたアニメ声が断続的に結構な音量で響く。しかも、その度にタブレットが発光し、キラキラとした粉末が漏れだしている。
私のフルパワー浴びたら、おかしな機能付加されちゃうの?って言うか、ヤバくない?私のフルパワー...。今まで全く気にしてなかったんだけど..職場とかで漏れだして無かったよね...?
って言うか貴女、私の事、恩人恩人って持ち上げてくる癖に、全く話聞いてないよね。
『ああ、何て素敵なんでしょう!!間近で私に語りかけてくる声をがいつでも得られるだなんて...!!』
「ああ、もういい。変な機能付いちゃったから、色々諦めないといけない事だけは理解した。でもまず、何でそれをあなたが持ってるの?」
しかし、なんだか変なパワー得ちゃってるっぽいオモチャは諦めないといけないかなぁ..。ヘタに持ち主に返して第二、第三の妖精使徒とか、妖精乙女とか産まれちゃったらヤバいもんね..。後でオモチャ屋さん探して弁償するしかないか..。
でも、出来ればその玩具タブレットがどういう経緯であなたの手に渡ったのか、そのあたりの説明だけは、詳しく聞かせてくれないだろうか。
『ああ、素敵。いつでも声が聞こえるなんて、そばにお友達が居てくれるみたい...。』
「...ボッチの時間が余りにも長すぎて、 相手をしてくれるならいっそのこと無機物でも構わないって言う、変な方向にぶっ飛んじゃった訳か..。」
幸せそうに微笑みながら、玩具タブレットを抱きしめる湖の乙女。
絵的には美しいんだけど、玩具タブレットから延々と『トレイカッター!!』とか『ナポリタンウィップ!!』とか『ウォーター顔面シャワー!!』とかアニメの決めゼリフが発せられてるおかげで、全て台無し。
因みにアニメ見たことないけど、そのシャワーって、喫茶店で別れ話したカップルに時々見られる、顔面洗浄サービス的なアレかな?
『それに、声を聞きながらこうしてると...何だか暖かくなってくるの...。』
いや、単に機械が熱持って熱くなってるだけだよ。あんまりやりすぎると壊れちゃうよ。
だが、これ以上話していても、何の情報も得られそうもない。話の通じないレベルがミーム以上ね、この湖の乙女とやら。
それに、早く話を切り上げ無いと美穂と早苗が戻って来そうだ。
「あ~、分かった分かった。でも、電池無くなるからあんまりボタン連打しない方が良いよ。」
『まぁ、助言をありがとうございます。』
..こういう話には反応するんだね。
「それで、昨日の夜の事なんだけど。」
『でも、物々交換なんて、お友達みたい...。あ、『みたい』なんて言ったら、また怒られちゃうわ。』
聞ケヨッッ!!(怒)
こちらをチラチラ見ながら頬を染める湖の乙女(怒)
駄目だ、なんだか湖の乙女から段々とミーム臭してきた。ぶん殴りたい。
あと、物々交換が友情の証だなんて初耳だよ!!
『昨日、ピンクフェアリーが『一緒に戦ったら、もうずっと友達』って言ってたもんね。』
めるなぁあぁぁっっ!!!(怒)
あのやろう、デンパ少女にアンテナとり付けて行きやがって!!
手の着けられないレベルでパワーアップしてるじゃねぇかぁっ!!(怒)
『では、私からはこのペンダントをアナタへ..。』
「っふぐ!!!」
首にかけられたずっしりと伝わる重み。肩にめり込む鎖に、激痛が走る。
嗚呼、筋肉痛さえなければ、今すぐ湖の乙女に向けて宝玉ブン投げたい。
そして、痛みに蹲る私を置いて、湖の乙女は話を続ける。
『いいえ、礼には及びませんわ。これからの妖精乙女の道が勝利に彩られますように。』
次の瞬間、突然、光と共に水柱が上がり、その中へ消えて行く乙女。
呆然とソレを見送りながら、今朝、ミームをブン投げた事を今更ながらに後悔する。
『昨日のリムリンがうんたら~』って言ってたよなぁ..。てっきり、いつものように目開けて寝言いってると思ってスルーしてたわ。
でも、この鎖の付いた水晶玉もどうしよう..。ものすごくめり込んで痛いん。
一先ず水晶玉を外そうと、首にかかった鎖に手をかけた瞬間、私の腰に『奈良の鹿』級のタックルが加えられる。
すいません明日は絶対7時にアップします。




