危険な恋の四重奏(カルテット)~ 10 ~
「こ、ここまで来れば大丈夫よね?」
キョロキョロと慎重に辺りを見回しながら、周囲に誰もいない事を確認し、恐る恐るスマホを耳に当てる。
「もしもし...、ま、まだ通じてますか~?」
もしかしたら、ここまで走って来てる間にフェアリーデンからの電波状況が悪くなって、切れてくれてないかしら。
『ザザ...ザザザ...。リリム、聞こえて..か。私の妹姫..。』
...はい、フェアリーデンからの電波、結構頑張ってくれてました。あと、やっぱり何か聞き覚えのあるきれいな声?
「ハイハイ。こちら、産まれた時から一人っ子、しがない人間・鈴木です。それで、何でフェアリーデンの女王様が、しがない人間のスマホの電波乗っ取れたんですか?」
『これの中で、アナタとフェアーナイトのエナジーが混ざり合い、私と繋がる力を得たのです。』
「....は?」
.....ちょっと待って下さい。『力を得たのです』ぢゃねえよ。
あんたら束になって、私のスマホになにしてくれてんの。そんな迷惑な電波、一方的に受信させるのやめてもらえませんか。
っていう変態男のエナジーって何?アイツここに来てんの!?しかも何、近付いたら空気感染するって、アイツ、ウィルスの母体の親戚? 今まで普通に空気吸ってたんだけど、人体への影響とか大丈夫かな。
『さあ、早く妖精樹杖を取り戻さなくてはなりません。アレはアナタが実っいた妖精樹の一枝。アナタととても深い繋がりを持った存在なのです。』
「いきなり、そんなこと言われても、こっちも旅行中なんですけど、帰ってからにしてもらえませんか。」
あ~、タイムタイム。ちょっとその辺りで一旦止めて貰っていいですか。
只でさえ理解できてないのに、これ以上、凡人の脳ミソで受け止められない設定、増やさないでください。枝に実る人間とか、どっかの世界で聞いた設定、色んな意味でダウトと叫びたいんだけど。
しかし、わたしのお願いをスルーしたまま、女王さまは通話を続行する。
『このままでは、妖精樹杖の気をたどり、アナタの居場所がより鮮明に魔痕達に知られてしまい、あなたの身が危ないのです。。』
「それ、魔痕サイドに連絡して、今だけでも、来るのを中止できませんかね。さすがに友達の前で妖精樹杖フルスイングする訳にはいかないんですよ。それと、女王様って綺麗な声されてますよね。なんだかその声、聞き覚えがあるんだよなぁ..喫茶店のトイレとかで、私の頭の中に話しかけて来た経験とか、お持ちじゃありませんか?」
あと、妖精樹杖と同じ気って、どういう気?
産まれてこの方、二酸化炭素以外、吐いたこと無いんですが。...そうか、コイツらアレだ。フェアリーデンの住人は須く電波。 特に女王様のは、人間界でも一部の奴が持ってるような自分の頭の中だけで受診するだけのやつじゃなくて、 相手の脳みそ味まで影響及ぼせちゃう、超ハイスペックなやつみたいね。
女王様の言いたい事が何となく理解できちゃってるこれって、洗脳状態一歩手前とかじゃなかったりするよね...。
つまり、 あなたの電波を翻訳すると、仙人が持ってる棍棒みたいな妖精樹枝と私がそっくりで、私から立ち上る枝の臭いを辿った魔痕に居場所がバレちゃうぞと。
...ぃやかましいわ(怒)誰が枝女か!!人間界の名誉毀損で訴えて、人間界出禁にしてやんぞ。
後、今後絶対、人の頭の中に無断で話しかけてこないでくださいよ。絶対ですよ絶対ですからね!!これ芸人でいう、『押すなよ絶対押すなよ』系のネタ的前振りじゃなくて ガチで本気ですから!!
『リリム。鈴の音をもつ麗しき妹姫。人間界をたの..ザザ....』
「え、ちょっと、それだけ!?私の質問の答えは!?それに他に有用な情報ないの!?って、もしもーし....」
しかし、スピーカーからはその後女王様からの返答は一切無かった。
はい、言い逃げされました。これだけの情報だけでどうしろっていうのだろうか。せっかく降りてきたのに、またトリッキング行けってか?
早く奪われた妖精樹杖を取り返さないと、しないn、私から立ち上る『枝臭』辿って魔痕が来るわけ?妖精樹杖と似た気って何?どっしりとした雰囲気?匂い?凹凸の無い見た目?妖精樹って老巨木らしいから、どれが当たってもイヤだけどね。
そりゃ私だって木の香りは好きよ。良い匂いだと思う、思うけども、
『君は素敵な香りだね、巨木の香りがする。胸一杯吹こみたいよ。
とか、
『君は枝のようだね。抱きしめたら折れそうだよ』
とか...いや、逆か。
『君は巨木の枝の様だ。その太い幹の様な体を力一杯抱きしめたい。』
とか言われたらそこでその恋は試合終了でしょ!?ソイツは今後、一生の宿敵認定よ。
と一人やさぐれていた私の肩に、ポンっと手が置かれた。
「ヒイィィィィッ!?」
まさか、まさか!?噂をすれば影がなんちゃらってヤツ!?
「リリちゃん、見っけぇ~。」
「はへ?」
続いてかけられた声に、縮上がった全身から力が抜け、アスファルトに尻餅をつく。
「やっぱりリリちゃんだ~。良かった~。も~どこ行ってたの~」
「リリったら、携帯繋がらないし心配したのよ。」
如何にも『怒ってるわよ』と言いたげに頬を膨らませて見せる早苗と美穂の顔に、思わず安堵の笑みが零れる。
「よ...良かったぁ...。」
「なによもう、リリったら泣きそうな顔して。」
「よしよしぃ、そんなに心細かったならぁ、連絡すれば良いのにぃ~。」
力の抜けた顔をしていたのか、美穂と早苗が優しく頭を撫でてくる。
「連絡しようと思ったんだけど、公衆電話見つからなくて。」
『なんで公衆電話?』と揃って首を傾げる二人に、ひび割れたスマホを無言で差し出す。
「うひやぁ~バキバキ~。」
「どうしたのよ、コレ?」
「それがね....。」
・・・・・・・・・・・・
その後、3人で宿泊先の宿に帰る道すがら、山で見かけた魔痕やミームに騙されている可哀想な厨二少年の事などを一般常識というオブラートで軽く包んで説明する。
「まぁ、世の中にはそんな困った奴らもいるのね。」
「あんまり良くないお友達風だからやんわりと止めたんだけどさ、コレばっかりは本人が気付かないとどうしようも無いし。」
「うんうん、だよねぇ。そういう積み重ねが黒歴史重ねるんだよぉ~。その子も早く目が覚めるとぉ良いよねぇ~。はぁぁ~誰か早くぅ~タイムマシン作ってくてぇ~。」
笑顔で素振りを繰り返す早苗。フフッ早苗ったら☆ボール替わりにフルスイングされるのは誰なのかな?
どうやら早苗には私達の知らない闇が眠っているらしい。
「ま、まあ、少年期の黒歴史よりも今はリリのスマホでしょ。」
「リリちゃん!今回取った写真はぁ、後からラインでぇ送ったげるからねぇ。」
「ありがとう2人共。帰ったらすぐに近所のショップ行くわ。」
「だね、明日には帰るし、確か、駅前のショップあったわよ。」
「うん、いち早く新しいのに買い換えないとね。」
こんな、フェアリーデンとまで繋がっちゃう、嫌な繋がりやすさナンバーワンスマホ、いつまでも持ってたら寿命縮まるわ。
「でも、二人と合流できて良かった。安心したらお腹減っちゃった。」
「私も私もぉ~。今から帰ったら丁度ご飯の時間だよぉ~。ここのホテルのディナの~ジンギスカンが人気なんだってぇ~。」
「フフ、リリもサナも、さっきケーキ食べたばっかりじゃない。」
「もぉ~、甘い物とご飯は入るところが違うのぉ~。」
「ハハッ早苗ったら、それ使うところ逆だよ。」
3人でワイワイとホテルまでの道を歩いていると。
「ミーム、早く目を覚まして!?あ~どうしよう、アクア君は魔痕を追って行っちゃうし~
「ミームは助け出せたのに、逆にこっちの妖精樹杖を奪われるなんて、油断しましたわ。」。
「愛留奈そんなに揺すっちゃダメ。ソッと、ソッとよ!?」
と前方から、今は出来るだけ聞きたくなかった声が三人組の声が、近づいて来る。
はい、私の人生最大の懸念材料が、ネギ背負ってやって参りました。
ああ、災難は忘れた頃にやってくる。昔の人は上手く言ったものだ。
「どうしよう!?ミームじゃないと妖精乙女に連絡とれないよ~。早く『魔痕が妖精乙女の居場所をもうすぐ突き止めちゃう』って教えないと!」
おかげさまで、今伝わってます。先程、女王様から教えてもらったのよりも分かりやすく、緊急性の高い情報を有り難う。
でも、一つ文句言わせて貰うなら、なんでミームじゃなくて、妖精樹杖を取り返さなかったのか。
「ねぇリリちゃん~。前から走って来るのってぇ~、午前中に会ったリリちゃんの学校の子じゃなぁ~い?」
「あ...ウン。ソウ..ミタイダネ。」
早苗が私の肘をクイクイと引っ張りながら前方を指差す。
しまった..何気なく進路変更するつもりが、聞き耳をたてている間に早苗にまで気付かれてしまった。
「ほっといて良いの?何だか困ってるみたいよ。」
美穂までもが声を潜めて心配げな視線を私に投げかけてくる。
いかん、只でさえフェアリーデン関係者に通信傍受されたりスマホ壊されたりして楽しい旅行に邪魔が入りまくってるのに、これ以上下手関わって巻き込まれると、今後の日常生活にまで色々取り返しのつかない影響とか出そうだ。
「でも、せっかくの旅行なのに、職場の子達の事に関係ない二人を巻き込めないっていうか...。」
「なに言ってんの、リリったら。」
「そうよそうよぉ~。リリちゃんのぉ、学校の可愛い学生さんじゃない~。」
うん、普段はとっても可愛い子達なんだけどね...でも、魔痕とドンパチやってる最中のあの子達に近づくと、私の周辺にまで飛び火してくるから、今は全力で関わりたくないんだ。
かといって、ここで私が見て見ぬ振りをしたら、二人から見たら完全に冷たい人間だよね~。分かってはいるんだけどさ...。
友達との旅行の時くらい、そっとしといて欲しいだけなのに。ああ、完全に四面楚歌。
その間にも、3人は此方に近づいてくる。
仕方ない、こうなったら、腹を括るしかないよね..ついでに魔痕の居場所も、自然に聞き出さなくては。
「えっと..。」
「あぁ~!鈴木さんだ!!凄~い、またお会いできましたね!?皆さんは今からホテル戻られる所ですか!?」
声をかけようと口を開いたとたん、前方から来ていた愛留奈が飛び上がって満面の笑顔で走り寄ってくる。
君、頭のてっぺんに第三の目でもついてんの?ずっと腕に抱っこしてたミームを見下ろしながら歩いてたよね。後、星光ちゃんが『ソッとよ』って言ってたのに、腕に抱いてたミームぶん投げたよね。
見事な弧を描いてアスファルトに頭部から着地したミームを奏が慌てて拾いに行ってるんだけど。う~ん、私のミームに対する扱いも人の事言えない所あるけど、君も結構ぞんざいだよね。
「あなた達、リリの学校の子達だよね?慌ててどうしたの?困った事あったら力になるよ?」
「あ、えっと..困ってるっていうか..その...。」
優しく訊ねる美穂に、星光が言葉を探す様に視線を彷徨わさせる。
うん、そうだよね。『私達、正義の戦士なんですけど、妖精乙女に魔痕の魔の手が迫っているを伝えないといけないの!!』って、高校生もになって騒いでたら、カウンセラー紹介される方向に力になられちゃうよね。
「三人はそんなに急いでどうしたの?なんか『連絡しないと』とか『突き止める』とか聞こえたけど?」
「うんうん、困った事があったらぁ相談のるよぉ~?こういう時はぁ大人を頼ってぇ。」
ナイスに早苗!!ピンポイントに聞き出してくれるなんて、流石は友達よ!!
「う~ん..でも~」
「そうだ、鈴木さん達なら気絶してる動物の起こし方分かるかも..。」
何でも聞いてくれと言わんばかりの満面の笑みで待つ早苗に、どう答えようかと悩む星光に、奏が横から小声で囁く。
「あ、そうですわね!あの鈴木さん、私のペットがヴォ..凶暴な動物に襲われて、怪我は無いんですが、どうしても意識が戻らなくって...何か良い気付けの方法とか、ご存知じゃ有りませんか!?」
ああ、うん。アナタにしてはいい感じでオブラートに包んだけどさ、言い訳として『この近くに凶暴な獣がいる』みたいな説明の仕方はどうかと思うな。
「もし怪我してるなら動物病院に連れて行くのが一番だけど...。ああ、ゴールデンウィークだから、どこもお休みだわ。」
しかし、星光の結構なセリフを聞き流し、美穂はスマホで近隣の地図を表示する。
三色っ娘達も結構なキャラだと思ってたけど、美穂のスルースキルも結構なものだね。
後、そいつ動物病院に連れて行くのは止めといた方が良いよ。下手したら新しいUMAとして、治療じゃなくて解剖されちゃうから。
「あ、そういえばぁ~。美穂ちゃんのおばさんが昔言ってたよねぇ?イタチに襲われてぇ、グッタリした鶏の傷口にぃ辛子塗ってあげたらぁ跳ね起きたってぇ~」
「言ってたけどさぁ...。」
いや、どんな生き物でも、キズ口に刺激物塗りたくられたら飛び起きるよね。
「き、傷口に...」
「辛子..。」
日常的に愛留奈の突拍子もない行動にも笑顔で付き合っている星光や奏までもが顔をひきつらせている。
なのに、ただ一人、愛留奈だけは。
「え!!ホントですか!?星光ちゃん、辛子ならスーパー行けばあるよね!?奏ちゃんはミームと待っててね!」
「ちょっと待った!!いきなり辛子は駄目って!」
星光の手を掴み走りだそうとした愛留奈を慌てて引き止める。
普通、傷口に辛子塗るなんて治療法、激戦区でもそうそうやらないと思うよ。
ホント、大丈夫かこの子!?別に、ミームの傷口にからし塗りたくられても全く心動かされないけどさ。普通にペットとかにやったらショック死するレベルだからね。
その美保のおばさんの話でも、『次の日食卓に鳥の唐揚げが並んだのは、やっぱり死んじゃったのかなぁ』って続きあったよね!?
アレ、治療じゃなくて単なる気付けだから。下手したら悪化する系の、やっちゃ駄目なヤツだから。
良かれと思って行った善意でトドメ刺したら実行者も提案者も寝覚め悪いわ。
「そうですわメルナさん。もう少し優しく起こす方法を。」
「大丈夫だよ傷口無いし、口に塗る方向で行くから!」
どんな方向だ。
「早く目を覚まさせなくちゃ、妖精乙女が危ないんだよ!」
いかん、このままではミームが(精神的に)殺されそうだ。
只でさえアレな性格なのに、コレ以上おかしな方向に進化されたら手に負えん。
「えっとメルナちゃんだっけ?その『メイヘム』さんに連絡取りたいの?」
慌て過ぎて、結構トップシークレットに近い言葉を連発している愛瑠奈に美穂が遠慮がちに声をかける。
「リリちゃん~。そのメイヘムさん?のぉ、連絡先か知ってる人ぉ、誰か思い当たらないかなぁ?」
「...そんな、某忍者学園アニメのマスコットキャラみたいな学生は、聞いた事ないよ。絶対、断固として学校関係者じゃないな。それにスマホ壊れちゃってるから、誰かに聞こうにもラインできないし。」
「え...ライン..?」
スマホが壊れていたお陰で、『メイフェムさん知りませんか。』なんて、一歩間違えたら迷惑メールになりかねない内容メールを職場に送らないですんだ..と胸を撫で下ろしていると、何か思い付いたのか愛留奈がボンヤリと、呟く。
ちなみにこのにわとりの治療方法は、父の田舎の祖母が、鶏が襲われた時にマジで やったそうです。




