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お題小説

繰り返しの物語

作者: 水泡歌
掲載日:2014/04/26

不協和音が聞こえて振り返った。


そこには白いワンピースに五線譜が書かれた人が立っていた。


五線譜には滑稽な音符が並んでいて、顔を見ると口元だけが見えている。


私は直感的にそれが「神様」だと分かってしまった。


こんな老人に何のようか。


訊ねると神様はにやりと笑い、私に一枚のカードを差し出した。


そこにはこう書いてあった。


「D.C.(ダ・カーポ)」。




目が覚めると私はベッドの上にいた。


上を見るとくるくると楽しそうに笑っているうさぎやくまが回っている。


オルゴールの音が聴こえる。


ああ、これは私のベビーベッドだ。


母はどこだろう。


私は思いっきり泣く。


慌てた足音が聞こえてきて誰かが私を抱き上げる。


優しい声。


胸元に顔を押し付け、必死に手を伸ばし、小さな身体いっぱいに匂いを吸い込む。


思い出した、あなたはこんなに温かだった。


オルゴールの音が大きくなる。


私の意識はまた失われる。




目が覚めると私は木の上にいた。


半ズボンから見える絆創膏だらけの膝小僧。


足をぷらぷら揺らしながら私は町を見下ろしている。


友だちの声が聴こえる。


私を探している。


見つかった?


見つからないよ。


ああ、そうだ、私は隠れん坊が得意だった。


いつも見つかるのは最後だった。


帰りの音楽が聴こえる。


みんな困ったように言い始める。


もう帰らなきゃ。


一人、二人、足音が遠のいていく。


私は慌てて木を揺らす。


ここだよ。


僕はここだ。


でも、誰も立ち止まらない。


泣きそうな私に一人が足を止め、木を見上げる。


「みーつけたっ」


思い出した、こんな時、いつも見つけてくれるのは君だった。


君の笑顔と共に帰りの音楽が大きくなる。


私の意識はまた失われる。




目が覚めると私は高校の教室にいる。


窓際の自分の席から雨が降るグラウンドを見ている。


雨の音が聴こえている。


隣には高校の制服を着たあなたがいる。


ああ、これはあなたとの雨宿りだ。


雨、止まないね。


そうだね。


そんな会話を繰り返す。


次々とクラスメイトが帰っていく。


教室にはあなたと私の二人きりになる。


沈黙。沈黙。沈黙。


ちらりと見る机の横に吊るされたあなたの鞄。


あなたが折り畳み傘を持っていること本当は私も知っていた。


沈黙に耐えられなくなったあなたは鼻歌を歌いだす。


少しはずれた音。


思い出した、あなたはちょっぴり歌が下手だった。


浮かぶ微笑と共にあなたの鼻歌は大きくなる。


私の意識はまた失われる。




目が覚めると私は走っている。


スーツ姿で真夏の夜を必死で走っている。


ああ、これは君が生まれた日だ。


病室の扉を開ける。


赤ん坊の泣き声が溢れ出す。


あなたの手に抱かれる小さな存在に私も泣きそうになる。


オルゴールの音が聴こえる。


母がベビーベッドに私のメリーをつけていた。


くるくると誰もいないベッドでそれは回っている。


ベビーベッドの横で友人の君は何故か私より先に泣いている。


私は手を伸ばし、赤ん坊を受け取る。


思い出した、あなたはこんなに小さかった。


泣き止んだあなたは小さな手を私に伸ばしてくる。


溢れてくる涙。


オルゴールの音は大きくなる。


不協和音が聞こえてくる。


私は振り返る。


そこには「神様」が立っている。


神様はにやりと笑い、私に2枚のカードを差し出す。


「to Coda (トゥ・コーダ)」。


「Coda (コーダ)」。




目が覚めると私はベッドの上にいる。


心拍の速さを表す音が聴こえる。


目を動かすとあなたは泣きそうな顔で私の手を握っている。


その横には友人の君と大きくなった娘が立っている。


ああ、そうか、これが私の「今」なんだ。


娘の手に抱かれた赤ん坊がにこにこ笑って私に手を伸ばす。


私は笑う。


私のメリーはお年寄りだから君には使えなかったね。


友人がまた泣きながら私を見ている。


君は本当に泣き虫だ。


また笑っておくれよ。


あの頃、私を見つけたみたいに。


私の手を握る妻の力が強くなる。


あなたもそんな顔をしないで。


どうか、この沈黙に、この最期に、ちょっぴり下手な鼻歌を歌っておくれ。


神様が私の前に現れる。


自分の服の五線譜を私に見せる。


続いていた五線譜は終わりを迎える。


止まる音がする。


私の意識は遠のいていく。


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