封印
魔法の国カーラ。
戦争に出た魔法使いの半数以上が死に絶えた。
原因は不明。
分かっていることは全員が同じ魔法を使ったことだった。
カーラの王城では重役達と王が話し合いをしていた。
「神から授けられた魔法は我々を救済するどころか破滅へと追い込む物だったというのか…。」
「あの者は神などではない!悪魔だ!」
「そうだ!神がこのような魔法を授けるわけがない!」
皆が一斉にアイネスの事を神から悪魔へ認識を変え、悪魔アイネスの討伐について話し合いを始めた。
が、そこで扉がノックされた。
王が入出の許可を与えるまもなく、警備の者が入ってきた。
「お前!ここが何処だか分かっているのか!」
「誠に申し訳ありません!黒き翼を持つ者が現れました!」
「なっ!?あの悪魔か!全兵力をそいつにぶつけるんだ!アレは神などではない!悪魔だ!」
そう言うと警備兵は直ぐに走っていった。
一方アイネスはカーラの国の手前に降り立つと笑いながら何かを待っていた。
そして魂が狂気に飲み込まれながらも疼く。
―悪魔…―
―よくも殺しやがって―
―神よ。この悪魔に制裁を―
魂達は狂気に飲み込まれながらも皆揃ってこのようなことを言っている。
「悪魔ぁ?私は人間だよ?悪魔と人間の定義ってなんなんだろうねぇ?アハハハハ。」
呑み込まれる魂達とそんなやり取りをしていると国の外壁から大量の魔法使い達が出てきた。
「お?お?なにが始まるのかな?」
そこに魔法で拡声された声が響く。
「悪魔よ!今こそお前を神の名において討伐する!」
アイネスは声を拡声し、返答した。
「ねぇねぇ?私人間なんだけどさぁ?悪魔と人間の定義ってなんなの?」
「決まっている!たとえ人間だろうとも人の命を弄ぶものは悪魔だ!」
「なら戦争をして、それを指揮している者は悪魔ってことになるよね?それはどうなるの?」
「我々がしていることは聖戦だ!聖戦に犠牲はつきものである!」
「そうやって自分たちの汚い事は棚に上げて他人を避難するんだね。どいつもこいつも自分のことばかりで相手の事を考えないクズだらけで私は私達はあの楽しい日々を奪われたんだ、ならそんな人間に存在価値などないよね、そうだよね。私が全員殺してしまえばいいんだよ。歴史というものは勝者が作り語るもの。だから私が人間を殺して、人間は醜く、汚いものだと語ればいいんだ!フフフフフフ。アハハハハハハハハハハハハ!皆死んじゃえ!」
「攻撃!」
カーラに残っていた魔法使い達の魔法が一気に放たれた。
それは鋼鉄ですら貫く魔法や、アンチバリアなどの魔法も混ざっている。
それらがアイネスにぶつかる手前で見えない壁にぶつかり、爆発を起こした。
「その程度なのぅ?」
アイネスの声が当たりに響き渡った。
それと同時に地面が割れ、魔法使い達を割れ目へ落としていく。
指揮官が割れ目を目で追うと、街まで引き裂かれており国民や家などが裂け目に落下しているのが見えた。
もう一度地響きがなったと思えば裂け目は閉じ、裂け目に落ちた人は皆潰されて死んでいった。
「き、貴様あああああああ!」
「アハハハハハハハハハハハハ!これは楽だね!あの時もこれが出来たら楽だったのに!」
アイネスが空に手を向けると、たちまち空に暗雲が立ち込めてきた。
全員の第六感がこれは危険だっと判断し皆が障壁を張っていく。
わざと障壁の展開を待っていたかのごとく振り上げた手を下ろした。
下ろした瞬間強い光と轟音の雨が当たりに降り注いだ。
それは雷だ。
魔法などとは比べ物にならない威力の雷が魔法使い達の障壁を突き破り、雨となり落ちる。
雷を受けた魔法使い達はたちまち倒れていく。
即死せずとも何度も雷に撃たれた魔法使いは動かなくなっていく。
「な、なんという事だ…。」
「フフフ。もう一度聞くよ?悪魔と人間の定義…境界って何?」
「…悪魔め…!」
「…つまらない。さようなら。」
そう言うと指揮官に手を向けた。
すると指揮官の体はたちまち膨れ上がり内部から爆発を起こしたのだ。
皮膚と肉は全てはじけ飛び臓器と骨がその場に落ちる。
「脳が生きていれば死んだ後も少しは見えるんだよ?」
―ねえ?自分の姿どう見えてる?―
「アハハハハハハハハハハハハ!」
笑いながら手に神力を込めていく。
するとカーラを包み込むほどの巨大な魔法陣が構築された。
「さあ皆一緒になろう?」
そう言うと魔法を開放した。
その魔法は絵を消しゴムで消すかのような魔法だった。
一番高い城の天井から徐々に塵になっていくのだ。
それはゆっくりゆっくりと街へ降りてくる。
当然人々は逃げ惑い、街から出ようとした。
しかし、入り口には不可視の壁――障壁が張り巡らされており出ることは出来ない。
アイネスは魔法陣を上からではなく下から進むように変えると、街中から悲鳴が聞こえてきた。
街に居た住人たちは足から徐々に塵と化していっているのだ。
それから逃げようともがこうとしても足が魔法陣に塵にされ動けない。
やがて胸まで来ると心臓はとっくに塵になっているのに死なないことに恐怖を感じていた。
街中は更に恐怖で包まれていく。
アイネスに取ってはそれは心地よいものだった。
「ふふふ…もっと苦しめ!もっと悲鳴をあげろ!私達が味わった苦しみはこんなことじゃ済まないよおおおおお!」
やがて子供は完全に塵とかし、大人は顔の半分まで塵となっている。
声を出すことも出来ずただただ消えると言う恐怖に涙している。
そしてカーラと言う国は塵となり世界に消えていった。
アイネスは消えて行った者達の魂を吸収するとカーラが合った場所に魔法陣を敷いていく。
それと同時にアーチェに置いた魔力コンデンサより大容量のものを設置し、地面に穴を開け地脈へ接続する。
魔法陣は待機モードへ移行し、いつでも発動できるようになった。
準備を終えると次はネルビスに向かっていった。
ネルビスでは相変わらず原因がわからず、研究者は相変わらず忙しく原因を探していた。
しかし、それが核による放射能による汚染だということには誰ひとり気が付かなかった。
アイネスはネルビス上空までやってくると一つの魔法を使った。
それは記憶をトレースし、その者のトラウマを永遠と再生し続ける魔法だ。
しかも再生される事にそのトラウマは増していく。
そして一人だけその魔法を掛けなかった人物が居た。
それは核爆弾を手渡した科学者だ。
アイネスは研究所に行くと壁を破壊し中へ入り込んだ。所長の部屋に行くと案の定その人物が居た。しかし見るからに弱っているようだ。
「ふふふ。こんにちは。」
「お…おまえは…この声は…あの時の…。」
「ふふ。今この国で起きているのはあなた達軍が仕出かしたこと。私があげた兵器をよく確認せずに使うからこういうことになるのよ。それに製作過程で出来た失敗作やゴミは全て隔離処分してないでしょ?ぜーんぶあなた達のせいなのよ!」
「な、なんてものを…渡してくれたのだ!」
「あら?貴方たちは喜んでつかってたじゃない?」
「それは…。」
「それとー。死体処理を命じた人って何処に居るか知らない?」
「それは…この研究所の先にある…軍事施設の…グゥ……中佐だ…。」
「そう。ありがと。では良い夢を。…アハハハハ!」
マキナは所長に魔法を掛けると言われた施設へと向かっていった。
いかにも軍事施設と思われる建物を見つけると、扉を壊しつつとりあえず偉そうな人の部屋を目指していた。
司令室と書かれた部屋に入ると、そこで苦しんでいる人に話しかけた。
「貴方が中佐?」
「誰だ…?」
「中佐?」
「俺は違う…。隣の部屋にいる…。」
「あっさりしゃべるんだね。」
そう言うとアイネスは隣の部屋に入っていく。
そこには周りの人とは違い、元気そうな男が座っていた。
「あれ魔法効いてないの?」
「科学が生み出したアンチマジックシールドが無効化した。…だが壊れてしまったがな。」
「ふーん。所で森の死体処理を命令したのは貴方って話だけど?」
「森の死体処理?ああ。あの不法侵入者か。馬鹿な奴らだな。結局一人を残して全員死んで最後の一人は逃げたって話じゃ―――」
「あ”ぁ?」
中佐がその言葉を放った途端場の空気が凍った。
「そうだよ、みんな死んだよ。お前たちのせいだ。お前たちのせいで精神を病んで自殺した友達もいた。お前たちが薬を支給しなかったせいで二人の友達が死んだ。お前たちの撃った銃弾で足が腐り落ちた友達もいた。そして病んだ挙句襲われ咄嗟に向けたシャベルで殺してしまった。ふふふ…最後の一人は逃げた?ふふふ…。最後の一人は私なんだよおおおおおおおおお!!あッははハハハハハ!私が友達をコロシタンダヨ!お前たちのせいでおかしくなった友達をねえ!私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺した私が殺したフフフフフフフ!でも私は悪くない!悪いのはすべてお前だ、お前が悪い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
アイネスは狂気を滲み出しながら中佐に手を向けた。
中佐は咄嗟に銃を発砲したが、アイネスを守る障壁にはじかれ壁に跳弾した。
「魂まで消し去ってやる!お前はみんなと一緒の場所にイカセナイ!シネ!」
そういいうと中佐は量子分解していき、あっという間に分解されてしまった。
魂がその場に残ったが、膨大な神力をぶつけ崩壊させてしまった。
「ふふふ…やったよ!みんな!私たちをこんなにした奴を殺したよ!仇はとったよ!あは!ははははははははは!」
そうしてアーチェ、カーラ、ネルビスの三国はたった一人の狂った少女に滅ぼされたのだった。
もちろん神も黙っていなかった。
神の遺産を正しく使わなかった者に罰を与えるために準備をしていたのだ。
もちろんそのことさえアイネスにはわかっていた。
アイネスはカーラとネルビスの中央に位置する海の上に止まっていた。
その時空から声が響いてきた。
「アイネス・クロイツ。貴殿は多くのものを殺し、世界を破滅へ導いた。よって我々神々が直々に罰を与える。」
「神が私に罰ぅ?何を言ってるの?馬鹿なの?私がどんなに苦労して友達がどんなに苦悩して苦労して苦しんで助けを求めていたのにお前たちは何もしなかったじゃないか!」
「…六芒神域結界を発動。悪魔アイネス・クロイツをこの界に封印する。」
「やってみろ!糞神よお!カーラ、ネルビス魔法陣発動!すべてを破滅へと誘え!ハルマゲドン!」
神々たちが六芒神域結界を発動させるより前にアイネスの魔法が発動した。
それは神々がいる神界と現世の空間に穴をあけるとそこに流れ込んだ。
発動準備をしていた神々は一切抵抗できずにアイネスの発動した魔法に飲み込まれていく。
魔法は発動場所にとどまらず、神界にある建物を根こそぎ壊していく。
「アハハハハハハ!神も脆い者だね!上級神!お前も殺して世界を終わらせてあげる!こんな誰も救われない世界なんて壊れてしまえばいいんだ!あはああああああああああ!」
アイネスは裂け目に飛び込むと神界まで移動した。
神界はアイネスの放った魔法により瓦礫の山となっている。
そんな中傷一つついていない建物があった。
「そこにいるんだね!」
その建物にはそれなりの障壁が張ってあったが、アイネスは手をねじ込むと両手で引き裂いてしまった。
「よくぞ来たな。世界の感応者。」
「うけけけけけけ!お前を殺せば終わりだ!こんな腐った世界なんて滅ぼしてやる!」
「滅ぼした後どうするつもりだ!」
「私の中の魂たちと楽しいひと時を過ごすんだよ?私の中の世界でね!アハハハハハハ!」
「もはや…しょうがないか。」
「それじゃ…シネ!」
アイネスは全力で神力を込めると上級神に向かって魔力でできた極太のレーザーを放った。
それは建物を貫通し、すべてを消し去っていく。
「アハハ!死んじゃえ!私の邪魔をする奴は全部死んじゃえ!」
そういいながら込める神力をあげていく。
「待っててね。アンリ、デイジー、アルミー、アルベルト。今私の世界でまた一緒に慣れるから!ふふふふ!」
アイネスの魔法が止まるとその影響で建物が崩れだした。
外に飛び出るとそこには上級神の姿はなかった。
「これで私の邪魔をする奴はいなくなった…。これでまたみんな一緒に暮らせるね!」
狂気に満ちた笑顔でそうつぶやくと現世へ戻ろうとした。
その時だった。
空から紫色の雷が降ってきたのだ。
アイネスは咄嗟に障壁を張るが、その雷の威力は先ほどのアイネスの攻撃と比べ物にならないほど強力であった。
「なに!なんなのよ!なんで私の邪魔をするの!」
そういいながらアイネスは現世へと押し込まれた。
「お前を救えなかったのは私の力量不足だ。せめて安らかに眠れ。いずれ起きた時には――――」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!どうしてどいつもこいつも私たちを虐めるの!どうして!人間も神も!こんな世界なくなってしまえば良いんだ!あああああああああああああああああああああ」
アイネスが声を上げると同時に障壁が砕け雷がアイネスを包み込んだ。雷は海へ落ち、落ちた場所から紫色の水晶へと変わっていく。
水晶の先端がアイネスの足を包み込む。
それは包み込まれた先から感覚がなくなり、そこに足が本当にあったのかさえ思うほどであった。
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だよぅ!なんでやっとみんなと一緒に慣れたのにこんな目に合わなきゃいけないの!なんで!なんでなのよ!どうして私たちだけがこんな目に合わなきゃいけないの!」
そう空に投げかけながらも水晶はアイネスの胸あたりまで包み込んできている。
もはや頭だけしか動かせない。
「嫌だよ!嫌だ!助けて!アンリ!デイジー!アルミー!アルベルト!誰か助け―――。」
そして水晶がアイネスを覆った。
「許せ。アイネス。」
そう空から声が響いたが、アイネスにはその声は届かなかった。
創造神はアイネスを封印し、二人の人間を再編した大地へ産み落とした。
それはアダムとイブ。
二人に知恵と言葉を授け、アイネスのことを教えた。
やがて二人は子を成し、一人、二人、三人と数を増やしていった。
そして神アイネスの事も代々、受け継がれて行く。
そしてアイネスの封印を囲うように神殿が作られ、神アイネスのようにならない様に皆で協力し、助け合う文化を築いていくのであった。