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一人、二人、三人、四人…皆死んだ。





枯れ木の森や池の周りに有った青々と茂っていた木々は皆切り倒され、地面が平らに整地されていた。


そして死体が続々と運ばれてきた。


死体は焼けただれて服と皮膚が癒着してしまっている死体や、不自然に胸に大穴が空いている死体、体がバラバラな死体など色々な死因の死体が運ばれてきた。


「うっ…」


それをみたアンリは胃の中の物を吐き出してしまった。

しかし軍人達はそんなアンリも容赦せずに髪の毛を引っ張りシャベルを持たせ穴を掘らせた。


アンリは嘔吐しなから作業を続けている。

それを見ていたアルベルトはアンリの分まで働くと交渉している。


「いいだろう。お前があいつの分まで働け。サボった場合、あの女には二倍働いてもらう。」

「分かった!」


そう言うとアンリをテントで休ませてアルベルトが再び働き出した。

皆が終わった後もアルベルトは仕事をしていた。

アンネの分まで死体がつまれた場所から持ってきては地面に埋葬し、運んでは埋葬を繰り返していた。


やがて死体が無くなった頃には二四時を過ぎていた。

アルベルトがテントに入るとアンネがテントの端で体育座りをしていた。


「アンネ…。」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」

「…アンネ…。」


アルベルトはアンネを宥めながら夜を明かしていった。


一方アイネスはデイジーとアルミ―の面倒を見ていた。


「大丈夫?痛いところ無い?」

「うん…平気だよ。」

「私も平気…。」

「そっか…ごめんね。こんなことになっちゃって。」

「お姉ちゃんは悪くないよ!あの軍人さんが悪いんだ!」

「そうだよ!」

「ありがとね…ありがとね…。」


三人は体を寄せ合い夜を過ごしていく。


そして次の日。

池の水で体と服を洗い、身を綺麗にしている女性陣の姿があった。


透き通るほど綺麗な水で有ったが、今では砂埃や落ち葉、血などで少し変色し始めている。


服や体を洗い終えると、男性陣がでてきた。

アルベルトは片足を引きずっている。

銃で撃たれたからだ。


アンリは相変わらず暗いままでアルベルトの手を握っていた。


「アンリ。昨日は良く寝れた?」

「…寝れるわけ無いでしょ…寝れるわけ無いでしょ!!」


アイネスを含む全員がその声に驚いた。


「私のせいでこんなことになって寝れるわけ無いじゃない!!」

「アンリ…。」

「アンリ…お前は悪くない。夜言っただろ?」

「でも、私のせいで…私のせいで…。」

「アンリ!しっかりしなさい!」


こんどはアイネスが怒鳴った。

その声にビクリと反応し、アルベルトの背に隠れた。


「いつまでもうじうじしてないで前を見なさい!誰もアンリを責めてない!なのになんでアンリはいつまでもそうしているの!」


「…。」


アンリは涙目になりながらテントへ戻っていく。


「ありがとな。」


アルベルトはそう言い残すとテントへ戻っていった。


その後持ち物の食料と水で昼食を済まし、明日に備えてシャベルの準備や早寝を行った。


四日目…その日は雨だった。

相変わらず五体がバラバラな死体や頭が半分無い死体、体が両断されている死体など戦場ではありえない死体までもが運ばれてきた。

中には元人だったのかわからない肉塊も存在していた。


五人は手分けして人間だったものを地面へ埋葬して行く。


軍からのトラックは一日に五回ほど山のような死体を乗せてやってくる。


その度に五人は穴を堀、死体を埋葬している。

五度目のトラックが行った時トラブルは起きた。

デイジーが突如シャベルを落としたのだ。

不思議に思ったアイネスがデイジーの手を見ると、手の皮が捲れているではないか。


「デイジー!こんなになるまでやってたの!?」

「…でも働かないと!」

「デイジーはもう休みなさい。後は私がやっておくからね?」

「お姉ちゃん…。」

「アルミー。デイジーをテントまで連れてってあげて。」

「わかったよ。デイジー行こう。」


そう言うとデイジーはアルミ―に連れられてテントへ入っていった。


一人欠けたことによりアイネスはもう一人分の頑張りをしなくてはいけなくなった。

地面を掘るスピードを若干上げるとテキパキと死体を埋葬して行く。


こんな日々が毎日何週間も続いた頃、アンリの様子がおかしくなっていた。

誰も居ない所で喋っていたり、いきなり暴れだしたりと様子がおかしいのだ。

アルベルトも止めに入るが支離滅裂な言葉を発しアルベルトを拒絶したりもしている。

拒絶したかと思えばいきなりベッタリになったりと今までのアンリとはどこかが違うのだ。


そしてアンリの奇行が続いてから五日経った日の事だった。

突然アンリが笑い出しセンサーに向かって走りだしたのだ。

アルベルトとアイネスは懸命に止めたが、アンリの体のどこに力があったのか二人を振り切りセンサーへと向かっていってしまった。


走っている間にも言葉を発していた。


「お母さん!お父さん!今帰るからね!待っててね!アハハハハハハハハハハハハハハ―――――。」


その瞬間爆発音が響いた。

アンリの首に着けられていた首輪型爆弾が爆発したのだ。

その衝撃によりアンリの首は千切れ、吹き飛び、頭と体がわかれてしまったのだった。


それを見ていた四人は唖然とした。


自分たちの首に着けているものは本当に爆弾なのだと。

いつでも自分たちは死んでもおかしくないっと。


少し時間が経過すると軍人が二名程やってきた。


「あーあ。せっかく隊長が注意してくれたのに自分から突っ込んだのか。」

「お前ら!こいつの死体も始末しておけ!」


そう言うとアンリの体と頭をこちらに投げてよこしたのだ。

あまりの出来事にアイネスの体は動かず、涙を流しながら笑ったままのアンリの頭を見ていた。


その時頭のなかにアンリの声が聞こえた気がした。


「ハヤクコッチニオイデヨ。」


その言葉が聞こえたと思った瞬間アイネスの意識は闇に落ちていった。




アイネスが次に目を覚ましたのはテントの中だった。アイネスは三人に囲まれ心配そうに見られている。


「あ…。」

「…大丈夫か?」

「大丈夫?お姉ちゃん。」

「大丈夫?」

「あ…うん…大丈夫。アルベルトこそ大丈夫?」

「……あぁ。いつかはこうなるとは思っていた。」

「思ってた?」

「そうだ…あいつは最近親が呼んでいると言い出したんだ。この間も元枯れ木の森の方向に向かって親がいるかのように話していた。」

「…。」

「ひどくなってくると話しながら少しづつ歩き出しても居た。その度に俺はアンリを止めていたが…まさかあんなことになるなんて…。」

「…アンリの遺体は…?」

「埋葬してあげたさ…。」

「ありが…とう…。」




戦争は終わる兆しを見せず、未だに続いている。

アンリが自爆してから一週間が経った頃、またしてもトラブルが発生した。

それはデイジーが高熱を出したのだ。


軍人に事の容態を伝えたが薬も貰えず、働けの一点張り。


アイネスは納得できずも働いた。

看病はアルミーに任しているため、二人分も働かなくてはいけない。


現在は大量に運ばれてくる死体を二人で処理しているのだ。

もちろんそんな量を処理することは出来ず、死体はどんどんと溜まっていく。

それを見た軍人は補給物資を減らした。


アイネスはデイジーの病気のために自分の食料を減らし食べさせていた。

そんな時アルベルトが咳をしていた。


「ちょっと大丈夫?」

「…あぁ、大丈夫だ。」

「…ちょっと傷口見せて。」

「…大丈夫だ。」

「見せて。」

「…。」

「見せて。」

「…ほらよ。」


アルベルトが傷口を見せると、傷口は紫色に変色し、所々茶色くなっていた。


「アルベルト!」

「恐らく手遅れだ。こうなった以上切断するしか無い、だが切断する道具もないし切断したら働けなくなる。」

「アルベルト…。」

「俺はあいつらの分も頑張らなくてはいけない。だから俺はどんなに苦しかろうと耐えてみせる。」

「…。」


そう言うとアルベルトは自分のテントへ戻っていった。


それから五日が経過した。

デイジーの容態は良くならず悪化の一途をたどっていた。

看病していたアルミーにも感染し、二人が寝こむ羽目になってしまった。


そしてアルベルトは既に片足が上がらないのか引き釣りながらも作業を続けている。


アイネスの精神もそろそろ限界だった。

いや、ここに居る四人とも限界だろう。


それを辛うじて保っている程度だ。


やがて埋める場所がなくなりセンサーの範囲が広げられた。

しかし、トラックが死体を下ろす場所は最初の場所と変わらず、穴を掘る位置から遠いのだ。


アルベルトはその度に顔を歪ませ、作業をこなしていた。


そしていつの間にか綺麗だった池や周りの空気はすっかり濁り、池はしたいから出た血で赤く染まり嫌な匂いを発している。

地面からは腐敗臭がただよい、辺り一面から臭う。

埋める深さが甘かったものは地面が膨れ上がり、そこからウジ虫が這い出ていたりもした。



更に一週間後。

デイジーとアルミ―が病死した。

デイジーとアルミーの墓はアンリの隣に作られた。

せめて亡くなってからも寂しくないようにと二人で作ったのだ。

既にアルベルトの片足は使い物にならなくなり、片足には蛆虫が湧いていた。


軍人から辛うじて火を貰うと、腐りきった片足をシャベルで切り落とし、火で炙り血を止めている。


アルベルトが苦痛で顔を歪ませ何度も気絶をしているが、それを行なっているのはアイネスなのだ。

今にでも発狂しそうな精神を沈め作業に没頭する。


やがて治療とも言えない治療を終えると落ちていた枯れ木の枝とデイジー達の服を使い、腐っていなかった太もも上部に固定し、粗末な義足として使用した。


だが作業効率は今までの十分の一。いや二十分の一まで落ちておりとても二人では死体を処理できなくなっていた。


更に補給物資が減らされ、一日の食料は二人合わせて水入りペットボトル一個、レーション一個である。


アルベルトはアイネスに四分の三を譲り自分は四分の一を食べている。二人は最初と比べると見るからに痩せこけており、同じ年の人間が並んだとしても同じ年とは思えないだろう。



二週間後。


死体の数は少なくなってきたが、アルベルトの様子がおかしい。

まるでアンリの様な言動を起こしている。


その夜アイネスのテントに誰かが入ってきた。

それはアルベルトだった。


アルベルトはシャベルを振りかざし、アイネスへ向かって振り下ろした。

アイネスはなんとかそれを避けるとアルベルトを突き飛ばした。そして自分の横にあったシャベルを手に取るとアルベルトに話しかけた。


「どうしたの!?」

「………………。」


何かを言っているようだが小声過ぎて聞き取れない。


再度アルベルトが襲ってきた。だが義足のせいで思うように動けず

にいた。

だが暗闇に足を取られアイネスは転倒してしまった。


そこにアルベルトのシャベルが振り上げられる。

アイネスは反射的にシャベルの先をアルベルトに突き立てた。


シャベルはアルベルトの腹に刺さり、底から生暖かい血が流れ落ちる。


アルベルトの手からシャベルが落ち、アイネスに倒れ込んだ。


「あ、あ、あ、あ…。」


アイネスが自分の手とシャベルを見ながら恐怖しているとアルベルトが何かを呟いた。



「あ…りが…とう…これ…でアンリの…へいけ…。」

「嘘…嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


アイネスはアルベルトを退かし起き上がると三人が眠る横の地面を掘り出しはじめた。

十分な深さを掘ると底にアルベルトを入れ土をかぶせた。


アイネスの顔は無表情で目からは光が消えていた。

そして処理できずに積み上がられていた死体を淡々と処理し始めたのだ。


二日後軍人が来てみると死体の山が消えており、更には処理係として奴隷扱いをしている人数が減っていることに気がついた。


その事にアイネスに問いただすと、こう答えた。


「アルベルトは私が殺しました。」


そう言うと新しい穴を堀にシャベルを持ちながらふらふらと歩いて行った。


軍人はアイネスが答えた時の顔を見て恐怖していた。

人間があんな顔をできるのかと。


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