自然の感応者
ネルビスから少し離れた枯れ木の森の中。
そこは光が降り注ぎ、とてもこの世とは思えないほど澄み渡った空気と池が有った。
そこでは天敵である肉食動物が居る中でも草食動物なども池に集まり体を休めている。
そしてそこには五人の少女たちが居た。
少女達の年齢は十四~十六歳だろうか。
彼女たちは池に集まった動物達と戯れていた。
中にはクマも居たが、少女たちを襲うことはなく爪を立てないように戯れていた。
「うーん。やっぱりここはいいなぁ。」
「でしょー!来てよかったでしょ!」
もう一人の女の子が話しかけてくる。
私は正直にその女の子に感謝を伝えた。
「うん!ここはとっても綺麗で動物さんも皆穏やかで楽しいね!」
アイネスはそう答えた。
アンリはその反応を見て喜んでいた。
アンリがにこにこしているとアルベルトが隣までやってきた。
「こんな場所がまだ残ってるなんてな。」
「私も最初は驚いたよ。ネルビスにこんな自然が残ってるなんてね。」
実はネルビスには自然はほぼ残って居らず、ここまで空気や水が綺麗で動物が居るのは珍しいのだ。
工場の汚水で川は汚れ、開拓のために木は切り倒されてしまっているからだ。
「でもなんでここの動物たちは種を超えて共存しているんだろうな。」
「わからない。でも私達にとって、世界にとってはこれが理想なのかもしれないね。」
そうアンリは呟いた。
そこにデイジーやアルミ―あが声をかけてきた。
二人は動物とじゃれ合っており、とても楽しそうだ。
「三人もおいでよ!楽しいよ!」
「今行くよ~。」
アイネスはそのまま動物の群れの中へ入り込んでいった。
「私達はどうしようか。」
「そのへん見て回ろうぜ。他にも何か有るかもしれないしな。」
そう言うと二人は池の周りを歩き出した。
「わぁ。熊のお腹柔らかい。」
アイネスは熊の腹を撫でている。本来なら反撃されるだろうが、何故か反撃もせずに只々横になっている。
警戒心が全く持ってないのだ。
デイジーやアルミ―は狼の背中に乗ってはしゃいでいる。
「ねえ?熊さん?なんであなた達はそんなに仲が良いの?」
話しかけても答えてくれる筈もないのに"ただなんとなく"声を掛けてみたのだった。
「グォ…【私達最後のオアシスだからだ。】」
「え?今なんて?」
アイネスは驚いていた。
熊に話しかけたと思ったら直接脳内に語りかけてくるような声が聞こえてきたからだ。
「…【お前…私達の声が聞こえるのか?】」
「え?また…もしかして熊さん?」
「【やはりか…人間にもまだ居たのだな…自然の感応者】」
「感応者?」
「【そうだ。感応者は我々と意思の疎通ができる。魔力を持たない人ならではの能力だ。】」
「超能力みたいなもの?」
「【いや、正確に言うならば魔力がある方向に特化した結果が感応者ということだ。】」
「へぇ…。」
「【何々?何を話しているの?】」
熊の上にリスが上がってきた。
「こんにちわ。リスさん。」
「【こんにちわ~。】」
「【この人間は感応者だ。我々の言葉がわかる。】」
「【おお!このご時世に自然の感応者なんて珍しい!】」
アイネスが話していると狼に乗った二人がこちらに来た。
「お姉ちゃん。何お話してるの?」
「もしかして言葉がわかるの?」
「えっと、どう行ったらいいかわからないんだけど私って自然の感応者って奴みたいで動物とお話ができるみたい。」
「えー!すごいじゃん!」
「お姉ちゃん。この子たちは何を言ってるかわかる?」
「ん?どれどれ。」
アイネスが狼に話しかけるとこんな反応が返ってくる。
「【少々重いな。そろそろ降りてくれるように言ってくれると助かる。】」
「【こっちは女の子だからまだまだ余裕は有るぜ~。】」
「そっかそっか。」
アイネスは少し苦笑いをしていた。
「お姉ちゃんなんて言ってたの?」
「えっとね、アルミ―の方の狼さんは少しつかれたから降りてほしいって。デイジーの狼さんはまだまだ余裕だぜ~って言ってたよ。」
「本当!ごめんね狼さん。今降りるからね。」
そう言うと狼は喉を鳴らしながら地面に伏せた。
「そういえばアンリとアルベルトは何処に行ったんだろう…。」
アイネスは気がつくと二人が居ないことに気がついたのだ。
辺り一帯を見渡しても二人の姿は見れず、心配になった。
「動物さん。アンリとアルベルト何処に行ったか知らない?」
「【それなら森の奥に入っていったよ。】」
「そっか。まぁ一応アルベルトは銃持ってるし大丈夫かな?」
「【あまり森の奥まで行かなほうがいいと思うが。】」
「え?なんで?」
「【この森は人間の軍事基地に挟まれている。だから奥まで行き過ぎると見つかる恐れがある】」
「え?じゃ、なんでこの場所は大丈夫なの?」
「【あまり分からないが、どうやらここには何かを阻害する効果が有るみたいだ。ただ、人の目による認識は阻害出来ないみたいだが…。】」
その時森に銃声が響き渡った。
「な、何?銃声?」
「お姉ちゃん。どうしたの?」
「今の音って銃?」
「わからない。でもアンリに何か有ったのは…。」
「【お前たちは逃げなさい。】」
「え?どうして?」
「【ここに先ほどの二人意外の足音が聞こえてくる。】」
「でも!」
「【はやく!】」
「おーい!皆!」
「アルベルト!」
「ここは危ない!早く逃げるんだ!」
「アイネス!早く逃げないと!」
「どういうこと?」
「軍の人間がこっちに来ているんだ!いきなり撃ってきて…!」
その時木の間から軍の人間だろう人が数人出てきた。
軍の人間は皆アサルトライフルで武装している。
「本部、民間人を見つけた。どうぞ。」
「-了解した。拘束し、暫しまたれよ。-」
「だそうだ。」
無線での話が終わったのだろうか、軍人はこちらにライフルを向けてきた。
「【お前たち逃げろ!】」
熊が軍人に襲いかかると同時に当たりに居た肉食動物たちも一斉に動き出した。
軍人が引き金を引くと動物たちはたちまち血を吹き出し、倒れていく。
大型である熊はライフル弾を体に受けても止まらずに軍人へ襲いかかる。
しかし、近距離に接近してきたため銃弾の集弾が上がり、ついには頭を撃ち抜かれ脳を撒き散らしながら倒れていった。
草食動物は一斉に逃げ出した。
アイネスたちは目の前で繰り広げられている状況が理解できず、動けないでいた。
そんな中アルベルトだけがいち早く復帰できた。
「お前たち逃げろ!」
そう言うとアルベルトは腰のホルダーから拳銃を取り出した。
そして兵士に銃を向けるが、それより早く軍人のライフル弾がアルベルトの足を撃ちぬいた。
「うわああああああ!」
「アルベルト!」
アンリがアルベルトに駆け寄る。
デイジーとアルミーは目の前で起きた動物の虐殺やアルベルトが撃たれたことに頭が追いつかず固まっている。
「動くな。動けば反逆罪とする。この地帯一帯は一般人立ち入り禁止区域だ。私達はお前達をスパイとして今ここで始末することができる。」
「っ!」
「-警備部隊、侵入者には例の作業をやらせる。場所はそこでいい。-」
「本部了解。」
片手で足を抑えながらもアルベルトは片手で銃を構える。
「近寄るな!」
「武器を捨て給え。例え君がこちらの一人を殺した所で我々の仲間が君たちを撃ち殺すだろう。」
「くっ、分かった…但し仲間には手を出すな!」
「いいだろう。銃を池の中に捨てろ。」
そう言われるとアルベルトは銃を池の中に投げ込んだ。
ぽしゃりっという音を立てながら銃は池底へ沈んでいく。
「さて、お前たちには罰を与えなければならない。」
「仲間には手を出さない約束だろ!」
「手を出さないが銃弾が出るかもしれないがな。」
「…糞が!」
「君たちは立ち入り禁止区域に入った。よって君たちには死体処理の業務を行なってもらう。これは強制だ。」
「し、死体処理?」
「そうだ。我が国と妄言を垂れ流す彼の国と戦争をしている事は知っているな。その時に死んだ同胞の処理だ。最近墓地が埋まってしまってな。この辺りに墓地を作ろうかと思っていたのだ。シャベルと食料とテントは用意してやる。お前たちはそこで寝泊まりをし、作業をしろ。」
「そ、そんな!いきなり!」
「いきなり立ち入り禁止区域に入ってきておいてなんだね?そんない死に急ぎたいか?」
「…。」
「それで宜しい。見張りを残しておく。これから器具を持ってくるが、余計な真似はしないことだ。」
そう言うと隊員と喋っていた軍人が元北方向へ引き返していった。
帰りながら無線越しで何かを喋っていたが聞き取れなかった。
「ごめんね…皆ごめんね…。私がここに連れてきたせいで…。」
「アンリ。貴方のせいじゃないよ。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」
アンリは自分を責め始め、最後には謝罪の言葉しか言わなくなってしまった。
後ろではデイジーが泣き叫んでいる。
それを泣きそうになりながらも必死にこらえアルミ―がデイジーをあやしている。
アルベルトは撃たれた場所の止血を行なっていた。
シャツを裂き、傷口に巻いている。
幸いアサルトライフルの貫通力のお陰で体内に銃弾は残っていない。
残っていた場合鉛中毒や炎症を起こす場合がある。
それから数十分後背中に荷物を背負った隊員達が戻ってきた。
荷物を渡されると中身を確認させられる。
中身はシャベルと保存食、テント、水だけであった。
「それだけだ。補給物資は定期的に届けてやる。後これを首に着け給え。」
そう言うとリング上の物を首にはめた。
はめている時に他の隊員は林の中に何かを設置していた。
「はめたな?それは爆弾だ。」
「なっ!?」
「このように投げると…。」
そう言うと自分たちの首に付いているものと同じ物を林に向かって投げつけた。
そうすると小規模の爆発を起こしたのだ。
「このように爆発する。首を飛ばす位の威力はあるから安心し給え。作業は明日からだ。この周辺は我々が整地する。お前たちは死体を地面に埋めていけば良い。」
そう言うと軍人たちは去っていく。
「そうそう。その首輪から音が出ている時はセンサーが近い証拠だ。死にたくなかったらそれ以上近づかないことだ。」
それだけ言うと軍人は去っていった。