主人公殺しVS神
当時の俺に勝てる奴などいない・・・
そう言う意味では俺は孤独だ
俺の気持ちを理解できる者や、能力で匹敵出来る奴などいないと思っていた
だが、ある日を境にその考えは撃ち砕かれる
・・・
・・・・
俺と服部が出会ったのは中学一年生の時だった
確か一学期の終わりごろだったような気がする
静かに机に座って本を読んでいた俺に服部が話しかけてきたのだ
ちなみに本は有名な心理学者の難しい本だ
勿論中学生が読む内容でも理解出来るものでもない
「よお、君が平岡達也君?」
当時別々のクラスだったため、俺は中間、期末テストでしか彼の名前を知らなかった
勿論、興味が全く無かったとは言えないが、気にするレベルでもないと思ったいた
中間テスト五教科一位 五百点 平岡達也/白銀服部
期末テスト六教科一位 六百点 平岡達也/白銀服部
これの貼り紙を見て「勉強」だけが俺と同じような奴がいると思っただけだった
その同じような奴が今、俺に話しかけている
俺は本を読むのを止め、彼を見ていた
なぜか彼の視線から目が離せなくなったのだ
カリスマ力とでも言うのだろうか?
「そうだけど、君は白銀君か?」
「鋭いな!!そうそう俺は白銀服部!よろしくな」
なぜかあの時俺はホッと胸を撫で下ろしていた
ようやく自分と同じような奴と出会えたことにだ
あの時、話してみて、コイツは決して勉強だけが特別で無い事に達也は無意識に感じ取っていた
「と言う事で達也君、一緒に帰ろうぜ」
「・・・いいけど、白銀君、帰りに本屋に寄るぞ、俺は」
「いいよ、俺も丁度本屋に行こうと思ってな」「それに服部って呼んでくれよ」
こうして終業式(思い出した)の帰りに一緒に本屋に寄って帰った
それから俺達は中学を卒業するまでの三年間ずっと一緒に居た
お互いがようやく退屈から抜け出した瞬間だったのだろう
そんな訳でついに運命の歯車は回り始める
いや、恐らくは達也と服部が出会った瞬間から回り始めていたのだろう
------「主人公殺しVS神」------
・・・
・・・・
達也は宿で休んでいた
最後の戦いに備えて魔力を完全に回復させていたのだ
魔王戦ではあまり魔力を消費しなかったとは言え、服部相手に油断は禁物
レベルが??になるような奴に半端な状態で挑む訳にはいかない
しかし、昔の事を思い出すとはな・・・
何か因縁めいたものを感じるな・・・
アイツと中学の時に出会い、高校になってバラバラになって、このRPGの世界で再開し、一度殺されかけて今、奴と最後の戦いを行おうとしている
これも運命なのだろうか?
ハハッ、服部とは何度も競ってきたが、今回ばかりは命懸けの真剣勝負
殺した方が勝ち、殺された方が負けるのだ
俺は絶対に負けない、負ける訳にはいかないのだ
服部に勝ち、俺がこの世界の主人公共を皆殺しにしてやるんだ
達也はベッドから立ち上がり、支度をして宿を後にした
静かに扉は閉まり、戦いの火ぶたを切ったかのようだった
・・・
・・・・
服部が居ると言われている「決戦の地」
そこは、このPRGの世界で最も広い土地を有しており、偉大な「宮殿」がそびえ立っている・・・らしい
らしいとは曖昧だが、何せ今までに立ち寄った事が無いのだから仕方がない
だが、通信機により場所の特定は簡単に可能だ(勿論、たどり着けるかどうかは実力によるが)
俺はそこに数日間かけて向かう事にした
満タンにした魔力に万全な体調
準備は万端なハズだった、が
道中、達也は何か物足りないような感じがした
まるで足りていないパズルのピースのように・・・
歩きながら達也は思う
「・・・・俺の隣には何か居なかったっけ?」
ミ○○ーと○ロー○○トと○○ーム○○・・・
いや、気のせいだろう・・・
頭には何も乗っていないし、隣に歩いている何かも最初から・・・いない・・・ハズだ
・・・・殺した、のか?
そうだ・・・俺は殺したのだ
今まで一緒に冒険してきた魔物達を・・・
いやいや、今は服部との戦いに集中しよう
雑念は即、死につながるからな
達也は街を越え、さらに街を越え、村を通り過ぎ、砂漠を歩き、草原を渡る
数日間にかけて、達也は歩き続けていた
まるで仲間を殺した雑念を追い払うかのようにひたすら歩き続ける
途中途中、ライズアップを使用して移動時間を短縮した
勿論、魔力の無駄遣いをしないように調整をしながらだが
そして、ついにこの場所にやって来たのだ
「決戦の地」
達也はその場所の中心地へ向かって行った
・・・
・・・・
乾いた風が乾いた土を通り抜け、葉の無い枯れている木を大きく揺らす
空は薄暗く遠目に大きな「宮殿」がある全体的に気味の悪い所だ
これは乾燥地帯と言った方が的確か・・・
そこに一人の人物が待っていた
白銀服部
そう、最強の主人公、ただ一人が達也を待っていた
服部から口を開いた
「久しぶりだな、達也」
「ああ、何ヶ月振りだな」
「・・・ところで仲間はどうしたんだ?」
服部と最初に出会っている時、ミクシーが居たためそう聞いてきたのだろう
今は居ない
「殺した・・・」
短く達也はそう言い切る
「!!!・・・・」「堕ちたな、達也」
服部は少し残念そうな顔をした
「お前だけは俺の気持ちを理解できると思っていたのだが・・・残念だ」
「復讐か?」
この高度な会話に誰がついていけるのだろうか
勿論、服部は達也の父親が坂田に殺された事を知らない
だが、誰に聞いた訳でもなく、状況を理解していたのだ
鋭い観察眼、人間界の坂田、達也の中学時代の態度、それらの全てを「復讐」として結びつけたのだろう
「勘が鋭い・・・お前とは無駄な話しをしなくて済むな・・・」
「いつだってそうだっただろ?達也」
「フン、ならこの先の結末がどうなるか分かっているだろ?服部」
「ハッハッハ、この先の結末、ね・・・」
服部は笑い、意味深に「結末」と言う
その様子が達也は気に食わない
「何が可笑しい?」
「いやいや、主人公殺しであるお前に勝つ俺の姿しか浮かび上がらなくてな」
「・・・上等だ!それが悪夢だって事を身を持って体験させてやるよ!!」
「達也、今のお前じゃ、俺に勝てない・・・」
「言ってくれるじゃねーか、服部」
この達也のセリフを最後にお互いは向き合う
静かになり、乾いた風だけが音を立て緊張感を増していく
ダッ!!!
先に動いたのは服部、地面が大きく抉れ、近づいてくる
ライズアップ顔負けの身体強化をしているのか!?
しかし、それを冷静に目だけで追う達也
「クリアアビリティ!!!」
達也は身体能力を強化してこちらに向かって来る服部に手を向ける
瞬間、スローモーションのように服部の動きが遅くなる
スピードの落差によってそう見えているのだろう
「どうした?服部」
達也は同時にライズアップを発動して服部を殴り飛ばす
服部は数十メートルばかり飛ばされて、地面に衝突する
まるで水切りをした石のように何度も跳ね返りながら
「ぐあ・・・・くっ・・・」口から血を垂らしている
「ククク、大きな口を叩いていた割には大した事ないな!」
ピピ
レベルスコープを達也は見る
「白銀服部 レベル??
武器 ゴッドバスター スキル 全てのスキル
防具 ゴッドアーマー 魔法 全ての魔法
装飾品 ゴッドピアス 」
レベルこそ最後まで見れなかったが、ようやく服部の装備と能力が明らかになったな・・・
いかにも「神」と言った感じだ
確かにお前の装備と能力、見えないレベルは脅威だ
だがな、お前ら主人公はこの俺が皆殺しにする!!!
グググ、と力を入れ起き上がった服部が話し出す
「お前は気付いていない!」
「?」「何の事だ??」「あまり調子に乗った事を言うなよ?」
劣勢のくせに意味の分からない事を・・・
突如、服部の姿が消えた
服部は恐らく魔王と同じようなテレポート魔法を使っている
「チッ、魔力を消費するが仕方がない」
テレポート自体クリアアビリティで無効化にするつもりの達也
しかし、思考を読み取ったかのように、服部の声が聞こえる
「お前の主人公の能力を無効化する力は万能じゃない」
知った風な口を!!
だが、確かに対象者を目で捉えて、対象者にクリアアビリティを含んだ魔力をぶつける必要がある
そのスピードは並大抵では、避ける事が出来ない
しかし、テレポートの領域で移動されると目視できない
「ライズアップ!!」
達也は身体能力を強化し、見えない攻撃に備えた
「落ちて来い!灼熱の太陽よ!!」
声がして達也が上を見上げた時には、服部が巨大な魔法を唱えていた
比喩などではない
本当に太陽みたいな球体で何千度もの温度でこちらに迫って来る
勿論、ライズアップ無しではこの熱さには耐えれない
くそっ何て規模だ、逃げなければ!!
「何!?」達也は動けない
下を見ると足がガチガチに凍っていた
膝から下が動かない!!!
「その氷はブリザード」「コロナがぶつかるまで絶対に溶けないぞ」
「くっ・・・」
いや、まだ手はある!!!
この魔法にクリアアビリティを当てて解除をすれば・・・
達也は片手を空に、片手を地に向ける
「クリア・・・」
「能力は解除させん!!」
服部はクリアアビリティに魔力を注いだこの瞬間を見逃さなかった
テレポートの光の速さで達也を殴り飛ばす
ライズアップ状態にもかかわらず、達也は遠くに吹き飛ばされる
恐らくは光速により威力が何倍にも跳ね上がる
「ぐはっ・・・・」
ライズアップ状態でも口から大量に出血する程強力な攻撃だ
達也は地面に倒れた
そしてコロナは地面に衝突し、ブリザードを破壊して地形を変える
「クククク、上等だ!!!」
達也は笑いながら、全身をライズアップで強化して起き上がり、向かって来た服部と殴り合う
ドガガガガガガガガガ!!!!!
激しい殴り合い
レベル50以下の主人公が一撃で死ぬレベルの殴り合い
しかしなぜだ!?
なぜ、俺が押されている!?
今、クリアアビリティを発動する事は出来ない
この殴り合いの最中、発動する瞬間をさっきのように狙われてしまう
「くそぉおお!!なぜこの俺が!!!!」
服部は蹴りをこめかみに繰り出し、達也を吹き飛ばす
大きな砂煙が地面に勢いよくぶつかったのを物語っている
乾いた風が一気に砂煙を流し出す
「ハァ、ハァ、ハァ」達也の息が荒い
「お前は復讐にとりつかれ」
服部が話し出す
「あ?」
押されているイライラがそのまま言葉になっている達也
「仲間の魔物を殺した」「恐らくは魔王も手にかけたのだろう?」
「それが何だって言うんだッ!!あんな無能なカス共は死んで当然なんだ!!!!」
「出しゃばる奴が居るから!!無能な奴が居るから!!!正義ぶる奴がいるから!!!!俺の父親は死んだんだぞ!!!!!」
「俺にとっては敵だが、達也」「お前にとっては味方であったハズだ・・・」
「だから、味方でも仲間でもねェよ、無能な奴はゴミだって言ってんだろぉぉが!!!」
(ミクシー、フローライト、バハームート、魔女、魔王、本当にソイツらはゴミだったのか!?)
何今更言ってんだ!?もう一人の俺の声か!?くそっ!!戦闘に集中出来ねぇから消えろ!消えろ!!
「おおおおおおおお!!!!!!」
達也はライズアップを発動して服部の元に駆け出す
服部も達也が来る前に構えて殴り合う
ドガガガガガガガガ!!!!!
先程と同じように力いっぱい殴り合う
唯一違うのは服部が魔法を発動した事だ
「最強雷魔法、神鳴」
殴り合いの中、達也に最強の雷が襲う
大きな雲を作り、黄色く光る稲妻が見えてくる
服部はテレポートで避けて、達也だけが雷に打たれる
ズドォォォォォォォン!!!!
まるで核爆弾が落ちたかのような轟音が響く
雷の速さをかわす事も出来ず直撃する達也
ライズアップ状態でなければ即、チリと化していただろう
「ハァ、ハァ、ハァ」現時点で生きている方が不思議なくらいだ
黒い煙を口から出しながら達也は思った
なぜ服部についていけない!?
「お前が仲間達と一緒に戦っていればどうなっていたか分からんかったな」
「何?」服部を睨みつける
「少なくとも一人でも昔のお前のように復讐にとりつかれてさえいなければ・・・良い勝負は出来た」
「仲間を見捨てる奴はクズだ」
うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ
「うるせぇぇんだよッッ!!!!」
お前に俺の何が分かるってんだ!?くそっ
「たつやーー!!」「達也!!」「達也・・・」「達也君」「達也君!」
何でアイツらの呼ぶ声が聞こえるんだよ!?止めろ!!ヤメテクレ!!!キキタクナイ!!!!
(敗因は復讐にとりつかれ、仲間まで殺した事)
また俺の声が・・・
違う!!何が敗因だ!!俺は負けない!!!
正義ぶる奴は皆殺しなんだよ!!!
「ライズアップ!!!・・・!?」
ガクン、達也の態勢が崩れる
魔力が!!!なんで?
いつもより消費量が多い
そうか!!!あれ程の大きな攻撃に耐え、思ったよりも魔力を消費しているのか
それともダメージが大き過ぎて、ライズアップでも耐えられなかったのか!?
チッ、なんで膝を付いてんだ俺!?立てよ!!早く!!!
アイツはまだ涼しい顔してんだよ!!早く立ち上がれ!!!
「うおおおおおォォォォ!!!!!」達也は力いっぱい叫ぶ
やれば出来るじゃねーか!!!俺!!
「まだ立ち向かうか達也」「俺の魔力も半分を切った所だと言うのに」
二人は近寄りまた殴り合う
ワンパターンなこの攻撃はお互いの優劣を簡単に分からせてくれる
ドガガガガガガガガガガ!!!!!
一瞬のスキを付いてクリアアビリティを発動できれば俺の勝ちだ!!
達也は殴り合いの中、スキを覗う
あちこちをお互いが殴り合う中、わずかな隙を狙う
この際、一発くらい喰らってもいい!!
ここだ!!
達也は片手の攻撃を止め、クリアアビリティを発動する
服部に手を向けクリアアビリティを唱える
「クリアアビリティ!!!」
ズドン!!!
「ぐふっ・・・」達也は内臓が破裂したような嫌な音を聞いた
当てる前に重いのを一発喰らったが俺の勝ちだ!!
「くそっ、力が!!」服部は力が抜け、膝を付く
「ハァ、ハァ、ハァ」吐血しながら達也は服部を見下ろす
「結局は・・・ハァ、ハァ、俺が、ハァ、ハァ、ハァ、勝つんだ!!!」
言葉をしゃべることすら困難
「ハハハ、良い勝負だったな達也!!」「一足先にあの世に逝ってるぜ」
服部は潔く負けを認めているようだ
それもそう、今はクリアアビリティを当てられて、ただの人間と化している
「俺はまだ死なねーよ」「バー・・・カッ・・・」
「冷たい目だな達也・・・復讐にとりつかれた目」そう服部は思った
達也はライズアップで強化した右手を服部に思い切りぶつけた
その拳を服部は瞬きをする事無く見つめていた
ドゴォォン!!!
地面に深く、服部はめりこみ絶命した
「ハァ、ハァ、・・・れの・・・ちだ」「俺の勝ちだ!!」
「ククククク、ハハハハハハハ、いい気味だ」「散々、セリフを吐いて結局は俺が勝った!」
服部の死体を見下しながら、達也は笑い出す
口から血を流しながら笑う事を止めない
もはや、前の達也の面影は無い
「ガハッ、ハァ、ハァ、ハァ」
達也は口から吐血しながら、息を切らしている
魔力よりも傷の方が深いみたいだ
「しかし、かなりの傷を負ったな・・・魔力も相当消費したしな」
その時、前方から、いや、後方からも大きな音が聞こえた
何の音だ?




