アンタも殺すよ・・・
平岡達也 18歳 スキル モンスタースカウト・クリアアビリティ・ライズアップ
仲間 ミクシー、フローライト、バハームート・・・死亡
数日間宿で休んだ達也は次のターゲットを決めていた
決戦の地に居る白銀服部ではない
まだ、自分の腕試しに使える奴が居ただろ?
ソイツを殺しに行くのさ・・・
ゆっくり目的地まで歩いて行った
魔力は十分に回復した・・・
だから、この間の坂田のようにギリギリで節約した戦いなんて事は起こらない
クククク、今の俺の実力がどの程度なのか楽しみだ
達也は一人で静かに笑い、歩きだして行った・・・
その先は戻ることの出来ない深い深い闇であった
・・・
・・・・
魔王城
魔王と側近魔女はいつもの場所で話していた
魔王が魔王の席に座り、側近魔女がその側で話すというごく一般のあれだ
「魔王様、達也君から最近連絡がありませんね・・・」
口調を重みのあるようにして、いかにも達也に何か起こったかのように側近魔女は言う
無理もない、最後に連絡を取った後から一週間は経っている
「ふむ・・・確かに心配だが迎えに行く事も安否を確認する事も出来んからの」
ブラックホールテレポートは向かう先を指定しないといけない為、どこに居るのか分からない達也を迎えに行くことは不可能、当然安否を確認する事も出来ないのだ
「四天王にやられてしまったのでしょうか?」
今考える中で、達也と連絡が取れない理由
それは四天王に殺されてしまったこと、その可能性が一番高いだろう
「確かに相手はカーティスだったからの・・・それに新しい四天王に倒されたのかもしれんな・・・いやいや、そんなマイナスの事を考えてどうするのだ?」
「ですね・・・無事に帰る事を祈るしかありませんね」
それを聞き、魔王は無言でうなずき何かを飲んでいた
そして、すぐに吹き出してしまった
「あつっ・・・お前、やけにこのスープの温度高くない?ぬるくって言ったじゃんよ!」
「すみません、まもうさま・・・」
「いや、もういいけどさ・・・ギャグなんてかましている場合で・・・」
魔王と側近魔女のふざけたやり取りの直後だった
ギィィ・・・
魔王城の正面の扉がゆっくりと開いた
開け慣れているハズのドアに恐怖を覚えた
勿論二人とも・・・
「誰だ?」
魔王がスープを置いて問う
だが、疑問はすぐに解消された
「おお!!達也君か!!!心配したぞ」「ずっと連絡が取れなくて・・・」
異変に最初に気がついたのは側近魔女だった
「おや?達也君、魔物達はどうしたのじゃ?」
それに、魔物だけじゃない、達也の纏っているオーラみたいなものが、一週間前とはまるっきり違う
なんだかドス黒い闇を抱えているようなオーラだ
「魔女、魔王・・・アンタらを殺しに来た」
予想していたどの言葉とも違った
今、師匠でもあり、達也の面倒をずっと見てきた魔王には信じられない言葉だった
だから、雰囲気が一気に変わる
「何があった、達也君?」
空気がピリピリしたものになり、緊張感が増していく
無論、達也ではなく魔女と魔王の緊張感が増していっているのだ
達也の脈拍数を今測ったところで全くブレていないに違いない
それ程に達也は黒いオーラを纏っているのだ
「何もない・・・ただ、服部と戦う前に力試しがしたいだけだ」
力試し=魔王を殺す事に繋がるとは恐ろしいものだ
「四天王との戦いで何があった?魔物達はどうした?」
「殺したよ・・・何もかも!!」
!!!!!
平気で、息をするかのように放たれた言葉に魔王と魔女は唖然とする
何もかも・・・それはすなわち、魔物達も殺したというのか!!
魔王は拳を握りながら怒りを堪えているかのように見えた
「冗談なら許してやる・・・訂正しろ!」
「冗談?クククク、ならそれを今証明してやるよ」
瞬間、達也の姿が消えた
魔王はそれが、強化されて正確なコントロールで可能となったライズアップの仕業だと分かった
・・・・
ドスッ!!!
魔王の隣に居る側近魔女に達也のブラッドナイフが突き刺さる
あまりにも一瞬の出来事で、魔王は庇う事が、魔女は防ぐ事が出来ない
「グフッ・・・達也、君?」
水属性を付加させたブラッドナイフが魔女の心臓を貫き、薔薇色の血が魔女の体を染めていく
達也は無言でブラッドナイフを抜き取る
ズボッ・・・
魔女はその場で倒れる
「なんだ・・・この魔女もその程度か・・・」
この魔女
と言う事はすでにフローライトも手に掛けたという事になる
「貴様、ワシの一番嫌いな事をしてくれたな・・・」
仲間殺し
それは魔王が一番嫌いな事であった
信頼していた側近魔女もそうだが、今まで達也について来てくれた魔物をいとも簡単に殺した
「だったらどうなんだ?」
「制裁を加えるまでだ!!!!!!」
ゴォッ!!!!!!
と台風のような空気が通り抜ける
実際に台風が起こった訳ではない
魔王の覇気と言うのか、何度か味わったことのある奴だ
服部から助けてもらった時と、修業の時の威嚇の計二回
昔はその威嚇に冷や汗をかき、尻もちをついていた達也だったが今回は違った
「ワシのスキルが効かないのか・・・確かに一筋縄じゃいかんな」魔王は心の中で思った
「よかろう、達也君」「貴様が白銀服部と戦う価値があるかどうかワシが戦って確かめてやろう!!」「ただし、今ワシは最高に怒っているから命の保証はせんぞ!!!」
「上等だ!!」
ピピ
レベルスコープが反応する
主人公にしか反応しないハズだが、この間の戦いの時にも反応したのだ
魔王だけは作った本人なので特別なのかもしれない
「魔王 レベル90
武器 無し スキル 強力な覇気 デビルマインドジャック・・・その他
防具 無し 魔法 ブラックホールテレポート 上級魔法全て・・・その他
装飾品 禍々しい呪宝石の指輪 」
相変わらず装備無しのスキルや魔法が多すぎて全て見えなかった
だが、今回も装備無しとは、いきなりとは言え難易度が一気に下がった気分だ
「ワシの装備を心配しているのか?」
そんな達也の心を読んだかのように魔王は言う
「アンタも死にたがりだと思ってな・・・」
魔王はニヤけて、片手を手にかざす
「ワシの能力は知っているハズだがのう!」
魔王の手には杖があった
「ブラックホールテレポートには達也君もお世話になったハズだが?」
忘れていたよ・・・
しかも、その能力自らがワープするだけじゃなく、対象物までこちらにワープさせる事が出来るのか・・・
それに魔王が持っている杖が最悪だ
「スキルの杖」
世界三大武器の一つである
カーティスの黒刀とコイツのスキルの杖
カーティスの黒刀の能力は闇の能力を授けるものだった
コイツのスキル杖は能力を三つ会得できるもの、しか知らない・・・
つまりまだ何かあるという事だ
でなければ、所持しているだけで魔力をガンガン持っていかれるこの杖を装備する意味がない
それにコイツの装備も変わったな
「魔王 レベル90
武器 スキルの杖 スキル 強力な覇気 デビルマインドジャック・・・その他
防具 異空間の鎧 魔法 ブラックホールテレポート 上級魔法全て・・・その他
装飾品 禍々しい呪宝石の指輪 」
異空間の鎧・・・
聞いた事も見た事もない鎧だが、見た目は普通の私服のようなものだ
「さて、達也君、そろそろ行かせてもらうぞ!!」
来る!!
火、風の上級魔法を一度に操り達也に向ける
火を風によってさらに強くする
畑のゴミを燃やしていた時に風が吹いて「危ない」とかの規模ではない
上級魔法がさらに強くなった感じだ
「喰らえ!!最上級魔法ファイアストーム!!!」
名の通り炎が竜巻のように風を纏い襲いかかって来る
この規模では人間界の軍隊とも容易に戦えるほどだ
魔王城をバラバラに壊しながらこちらに向かって来る
ライズアップ!!!
達也は全力で魔王城から脱出する
跡形も無くなった魔王城を後にした
そして、修業の時にも使用した、草原のような場所に移動した
・・・・瞬間だった
「!!!!!!!!!何っ!?」
背後にはもう、魔王が居たのだ
さっきまで魔法を唱えていたくせに、背後には魔王
「真空波!!!」
聞いた事のない技名、恐らくはスキルで見え切れなかったものか!!
ズドッ!!!
見えない何かに、というより、まさに真空波とも言うべき何かに吹き飛ばされた
何十メートル先の岩に激突しかけた時、魔王が背後に居た
また!?
トンッ、と達也の背中を押さえて吹き飛んでいる動きを止める
勿論、助けた訳ではない
「波動砲!!!」
突如、背中に痛みが走る
そして空中から地面に叩きつけられようとした時
魔王が追いかけ背後から追い打ちをかける
そのまま攻撃され、地面にめり込む
全てライズアップで受けたからいいものの、生身だったら最初の一撃で死んでいる
「くそっ!何だあのスピードは!?」
「簡単だよ、達也君」「ブラックホールテレポートで背後にワープしただけだ、しかも、スキルの杖のおかげで全てのスキル、魔法の威力やクオリティが上がる」「よって精密なコントロールで瞬時にワープも出来たり、合体魔法も出来たりするのだ」
つまり、スキルの杖が無ければ、あそこまで正確にワープ出来たり、合体魔法など使えない訳か・・・
なんて厄介な能力と武器・・・
だが、奴の方が魔力を消費しているハズだ!長期戦に持ち込めば・・・
「あー、長期戦に持ち込めば、とか思っているのなら勘違いも甚だしいぞ」
チッ、思考が読まれている・・・こうなればもう奴のスキルと見た方がいいな、思考を読むスキル
「ワシがスキルの杖に注ぐ魔力を無くせば、ただの杖になるからな・・・」「本来、本人の意思に関係なく魔力を吸い取るこの武具は、ワシの装飾品の禍々しい呪宝石の指輪によってスイッチのオンオフが利くようになっているのだ」
装飾品は魔力を余分に吸い取られない為のコントロールのようなものだったのか・・・
つまり、常に魔力を使わせるように全力で攻めなけらばならないって訳か・・・
ライズアップ!!!
達也は魔王の方に全速力で駆けだす
ワープのように速くはないが、凡人なら目で追えない速度
魔王の目の前で一気に足に力を入れ、背後に回り込む
これも凡人から見たらワープと大差ない
だが、恐らく魔王は見えているだろう
抵抗をしていないのはワザとか?
達也はそのまま背後からパンチを当てる
威力は申し分ないハズだが、全く抵抗もしない
見えていなくて反応が出来なかっただけか?
ズドォォン!!!!
魔王の背中にパンチが当たった時だった
「!?」
手応えが全くない
この感覚、魔王に触れたハズだが、それすらないような・・・
「甘いな、達也君」「ワシの装備を見てみろ」
戦闘中に悠長に会話とは
それでも達也は言われた通り防具を確認する
「異空間の鎧」
異空間の鎧、聞いた事もないが一体どういう能力だ!?
「能力を知りたいようだな・・・」
思考を読み取りやがって!!不快な能力だ
「この防具はな」
勝手に話を続ける魔王
「物理攻撃、魔法攻撃、補助魔法、あらゆる攻撃を異空間に飛ばす防具だ」
!!!!!!!!!は!??
そんなもん反則にも程があるだろ!?
「そうだ、この防具は反則だ」「ワシが魔力さえ注いでいれば最高の防御力を誇る鎧となる訳だ」
「ちなみに飛ばした攻撃はどこかよそにぶつかるようになっている」
魔王が遠くの草原を指差した
達也はそれを見ると
草原の地面が大きく凹んだのが見えた
「つまり、今の達也君の攻撃はあそこの草原の地面に飛ばされたって訳だ!!」
魔王、やはりコイツとんでもない奴だった
だが、こんな所で負けていては、俺は服部には勝てない
「ようやくワシの恐ろしさを知ったか?」
「ああ、やはりアンタは強者だったな・・・四天王の何倍も!」
「知った所でお前は殺すからな?達也君」
「構わないさ!俺は死なない」
「その余裕、いつまで続くかなッ!!」
魔王が消える
ブラックホールテレポート・・・
落ち着け、必ず俺の三百六十度のどこかに現れる
その瞬間、クリアアビリティを当てればいい
達也は目を閉じた
何となくだが、そうした方が良い気がしたからだ
どうせ目を開けた所で見えないなら、集中して目を閉じておこう
一秒が何十秒にも感じられる
背後に気配がした
達也は振り返る!!
実際には魔王は居なかった
恐らく、反応が早すぎたのか、違う場所に変えたのかだ
スッ、と達也の足元に影が出来る
しくじったな!!上か!!!
達也は上を見上げる
だが、そこにもいない
ズドッ!!!
達也の背中に衝撃が走る
「ぐはっ・・・!!!」
ライズアップを攻め用に発動していたから、同時に守りにもなった
しかし、口から吐血している
良い所にパンチが当たったようだ
振り返ると、魔王が距離を離して立っていた
「達也君、君は本当に恐ろしいよ・・・」「ワシがこの能力を使ってから一体何秒生き残っているんだ?」
戦闘時間は単純に数十分程度か・・・
「この武具は分かると思うが、魔力を大量に消費してね、しかも武器と防具を同時に装備したのは久しぶりでもう魔力がない」
やはりそうか・・・
この間、俺もスキルの杖に触れたことがあったが、魔力が空の状態で触れた瞬間倒れたからな
それを魔力が万全の状態と言えど、武器と防具同時装備なんて一体どれ程の魔力を消費する事やら
いや、今はそんなことどうでもいい
恐らく、魔王は魔力を節約するために、武具に注ぐ魔力を解除するハズだ
そこを狙う
集中して魔王を観察
その時、魔王から力が解除されたような気がした
気がしただけだが、その勘を信じてみよう
ライズアップで一気に近寄りクリアアビリティを当てる
「しまっ・・・」
やはりそうだった
魔王は節約の為に武具に注ぐ魔力を解除していたのだ
しかも今は、クリアアビリティが当たった状態
魔力を注ぐ事も、スキルや魔法を使う事も出来ない
達也は思い切り魔王を殴り飛ばした
ライズアップを手に集め渾身の力で
ズドォォォォン!!!!!!!!
「ぐはっ!!!!」
魔王は何十メートル先まで吹き飛び、地面を滑る
ズザザザザー
「はっ、はっ、はっ・・・達也君め!!四天王と戦い、さらに成長しよって!!」「杖と防具が無いとヤバいと思ったがやはりその通りだったか・・・」「大体、最初の最上級魔法で死ぬと思っていたからな・・・完全に達也君の力量がワシの考えを越えていたのか」
魔王の前に達也が立つ
「魔王、その程度か?」
「ガッハッハ!!強くなったな!!達也君」
「俺もアンタの強さを改めて知ったよ・・・」
「そんな余裕顔で良く言うわい」
「アンタに質問だ、どうしてそんな燃費の悪い装備で戦った?」
「なあに、そうでもしないとお前さんに勝てないと思ってな・・・」
「・・・・」
「じゃあ、ワシも達也君に質問だ、どうして仲間を殺した?」
「役に立たなかったから・・・」
「・・・・そうか」「ならワシも殺せ、達也君の役に立てそうにない」
「最初からそのつもりで来たんだがな」
「フン、そうか・・・いらん心配だったか・・・」
「世話になった、服部は必ず倒すからあの世で応援でもしていてくれ」
そう言い、達也はありったけのライズアップの拳を魔王にぶつける
大きな轟音と共に魔王は散った
生死を確かめもせずに達也はくるりと向きを反転して、最後の場所に向かった
「決戦の地」へ
・・・
・・・・
あー・・・達也君は強くなったな・・・
本当は師匠として達也君の過ちを正してやりたかった
殺すつもりは無くとも、思い切り反省させてやるつもりだったが戦っている内に
達也君がワシの最高の攻撃を凌いでいる内に気が変わっていったのだ・・・
達也君なら白銀服部に勝てるのではないか?と
本来、ワシは仲間殺しは許せない
だが、ワシが昔、敗れた白銀服部を倒せるのでは?とそんな最低の弟子に思ってしまったのだ
我ながら情けない・・・
説教どころか殴り飛ばしてやらんといけないのに・・・
だから最後の会話で達也君の本当の気持ちを知りたかった・・・
だが、彼は本当に深い闇に迷い込んでしまっていた
戻ることのできない深い闇に・・・
だがもう良いわい・・・
例え達也君が負けたとしても
白銀服部に敗れたとしても、あの世でもう一度皆で仲良くやれるのなら・・・
・・・・
魔王はスッと息を引き取っていった




