最後のスキル
アランを殺してから2日目の朝
ノースエデンではその事は騒ぎにすらなっていない
理由としては、ここに住んでいる人々はそもそもにアランの姿を見た事が無いからだ
それでも一昨日草原に移動する際、目撃した人もいるだろうが、まず四天王であるアランが負けるとは誰もが思っていないだろう
そんな訳でノースエデンでは特に騒がれる事もなく、時間が流れていった
「しかし・・・」
最近では(いや、魔王との修業の時からか)魔力を使っては寝込んで使っては寝込むの繰り返しだな・・・
我ながら情けないとは思うが、誉めてやりたいと言えば誉めてやりたい・・・
さっそく四天王の1人目を倒したのだからな
カルヴァンの時よりもさらにギリギリの戦いで、倒した後によく倒せたと自分で感心した
向こうは何年、何十年と主人公をやっているハズだ
それに最近この世界に入って来たような奴が勝つとは、魔王のおかげもあるが信じられないだろう
まあ、そんな事を言ったら服部はどうなる?って感じだが・・・
アランにせよ、パワー、スピードなどが俺達を凌駕していた
正直、クリアアビリティを会得していなかったら惨敗も良い所だ・・・
魔王いわく、クリアアビリティもとい魔法を限界に近いまで使用する事で(死にかけるからリスクはもちろんある)魔力の最大値が微量ながら増えていくという
レベルアップという奴か?
今はそれによって魔力の最大値が増えている事を祈るまでだ
魔力の最大値を増やす修業もしないとな
そう思っていた矢先
通信機が光る
魔王だ
というか昨日光った時は達也が寝ていたため、フローライトが代わりに出たという事を聞いていたな
起きた時にかけ忘れたのだが
「達也君!!無事か!?」
「ああ、なんとかな・・・」「四天王、相当な実力者だった」
「らしいな・・・フローライトちゃんから聞いたよ」
「正直こんなのがあと3人も居るとなると殺していく自身が無い・・・」
「・・・・安心しろ!!ワシの魔力が回復した」
「本当か!?なら、最後のスキルが会得できるのか?」
「ああ、まさか回復まで一カ月以上かかるとは思わなかったがな!!」
クリアアビリティを会得してから、魔王が杖に触れられるまで一カ月以上かかったという訳だ
どんだけの量魔力を消費するんだよ・・・
考えただけで死んでしまいそうだ
しかも、確か世界3大武器の1つとかいっていたな・・・
どういう経路で手に入れたのだろう?そんなレア武器
「分かった、今から戻る」「迎えには来なくていい、そこまで遠くないからな」
「そうか?だが、危険を感じたらいつでも呼んでいいぞ」
・・・そう言えば忘れていたが、スキルの杖を使った後の魔王は魔力の量が著しく低下する
すなわちブラックホールテレポートが使えなくなる
アラン戦で仮に俺達が負けかけたとしても魔王を呼ぶ事が出来ないのだ
それは、これからの四天王戦でも言える事だろう
今からスキルを会得すれば魔王はまた大きな魔法が使えなくなる
戦闘力が著しく低下するのだ
これでは魔王単体でも四天王に勝てるか分からないほどだと自分で言っていた
つまり、スキルを収得したら後は自分の力でやるしかない
「分かった、ありがとう」「通信を切る」
ブツン!
「ミクシー、フローライト、この町を出る」「支度してくれ」
「うん」
「ええ、分かったわ」
達也達は宿で朝食を取り、荷物をまとめてノースエデンを後にした
やはり周りの人々は普通であった
ノースエデン
もう四天王アランを倒したからノースエデンとは言えんな・・・
カンの良い魔物ならこの町に強者がいなくなったと悟り、攻めてくるかもしれない
そうなると一般人を傷つけることになるのか・・・
それではなんだか居所が悪いな
達也はノースエデンの近くの草原に魔物がいないか探した
・・・・
居た!!
案外早く見つかるものだな
レベルスコープは魔物のステータスを見れないので強さは分からない
達也は近づいて話しかける
「おい!そこの魔物」
多分言葉は通じるだろう
魔物はビックリした様子でこん棒を構える
「何だよ!?アンタ勇者のくせに気さくに話しかけてくるんだな」
「いや、俺は勇者じゃない」「むしろ逆の・・・」と言おうとした時
「あ!俺達魔物の中じゃアンタ、有名だぜ」「勇者を殺す人間が居るってな!俺達の救世主でもある」
「そうか、この間も四天王アランを殺したんだがな」
これは自慢で行った訳ではなく、話のつなぎとして言った
「マジかよ!?あの四天王を!?アンタ、めっちゃ強えぇんだな!!」
「ああ、そこで頼みがある」
「何、何?救世主の頼みごとなら何でも聞くぜ?」
案外性格の良い魔物だな・・・
「ノースエデンに住んでいる一般人に危害を加えないでくれ、それをこの辺の魔物に伝えてほしい」
「え~!?食いもんとか盗んでやろうと思ったのに!?」
「だから頼み事だと言っている、金ならやる」「一般人まで殺されると俺も気分が悪い」
「・・・分かったよ」
「助かるな」
そう言い達也は大きな金貨を渡した
これは少し前にノースエデンでお金と変えたもの
人型に近い魔物なら買い物くらいできるだろう
「ならさ、もし約束破ったらどうする?」
・・・
・・・・
「殺すぞ?」
達也は本気の殺意を込めてそう言った
それは脅しなどではない、本気だと口調が語っていた
ドサッ
ネオゴブリンはおもわず尻もちをつく
「う、う、うそだよ・・・冗談、そんな本気な目で見るなよ!?なっ?」
「もちろん冗談だが、約束を破ればお前達は死ぬぞ?」
達也はお前達を強調して言う
「分かったよ・・・」
「こんな奴に逆らうと本当に死んでしまう・・・四天王を倒す奴だぞ!?」心の中でネオゴブリンは思った
「じゃあな、頼んだぞ!!」
「はい、分かりました・・・」
これで一安心
主人公共が勝手に死ぬのは構わんが、俺のせいで一般人が死ぬのは後味が悪い
ピピ
突然レベルスコープが反応する
「バリー レベル42
武器 鬼の金棒 スキル エアバイク カースピン 兜割
防具 黒のジャケット 魔法 中級雷魔法 エンジンターボ
装飾品 バイク(乗り物) 」
初めて見たな・・・珍しい・・・
乗り物メインの主人公で年も50近いか?
スキルもバイクに乗って発動する奴が多いみたいだ
「ん?」
魔物と戦っているのか?
ってさっきの奴と同じ種族の魔物じゃないか
駆け足で向かう
「おい、そこの兄ちゃん!!丁度良かった」「兄ちゃんも勇者ならちょっと手伝ってくれ!」
しかもこのおっさん、俺の事を味方だと勘違いしている
魔物の目は俺という援軍に絶望したかのようだが違うぞ
俺はお前らの味方だ
「残念だがバリー、俺はコイツらの味方だ」
「何で俺の名前を!?」
「俺は勇者狩りだからな」
「って兄ちゃんが最近噂の勇者狩りなのか!?ったくまいったぜ」
余裕の発言だな・・・いいのか?これから死ぬんだぞ?
とは言え達也の魔力は半分程度しか回復していない
クリアアビリティなど使ったらマズいから、周りの魔物と協力しようか
「おい、魔物!!名前はなんて言うんだ」
さっきの奴に聞いとくべきだったな
「ネオゴブリンとボスネオゴブリンだが、アンタ、勇者じゃないのか?」
「いや、お前らの味方だ!!信用していい」「協力してコイツを倒す、いいな!!」
その瞬間、ネオゴブリン達は湧き立つ
達也のカリスマは中々のものだ
「殺せーー!!!!」ボスネオゴブリンはそう言いネオゴブリンの指揮をとる
「面倒だが、俺とバイクのコンビを倒せるのか?」
バリーのバイクはスキル「エアバイク」によって空を飛べる
・・・確かにバイクに乗られると面倒だな
やはり使うべきだな!
達也は手をバイクに向ける
乗り物に魔力を注いで強化するのなら、乗り物を使いものにならなくしてやる
乗り物だから消費魔力は半分で良い
クリアアビリティ!!!
ブルン、ブルン、ブルン、とバイクのエンジン音が鳴る
が、
ブルルン・・・・止まってしまう
「何!?なぜだ?」「今、空を飛ぼうとしたのに!?」
止まったバイク、無防備で油断している主人公
駄目だろ?バイクが動かないくらいで取り乱したら・・・
ネオゴブリンが一斉にたたみかける
バイクに降りる間もなく攻撃される
バイクと共に転倒しこん棒で殴られる様はまるで集団リンチ
「ぐああああああ!!!!!!!!!!!!」
流石にレベル40代とはいえ魔物の一斉攻撃には耐えられないか・・・
どさくさにまぎれて雷属性を付加したブラッドナイフをかすらせていたから、体が痺れてまともに動けない(抵抗できない)だろうな
悲鳴はしばらくして聞こえなくなる
また草原が赤い草になったな・・・
ったく相変わらず汚くしてくれる・・・
1番最初のネオゴブリンにした説明をもう1度ネオゴブリン達にしてこの場を去った
ネオゴブリン達は感謝して何回もお礼を言っていた
つくづく人間みたいだな・・・
・・・
・・・・
かくかくしかじかで達也達は魔王城に戻った
途中面倒事があったがまあいいだろう
「魔王、帰ったぞ」
「おお、達也君」「帰ったのか!」
「ああ、3つ目のスキルを頼む」
「決めているのか?」
「ライズアップ、俺の身体能力を上げる強化魔法だ」
「なるほどな、それはいいかもな!」
魔王の言う通り、我ながら良いスキルだと思う
なぜなら、身体能力が高くないとこれから戦う四天王達には敵わないと思ったからだ
肉体強化とでもいうか、魔力を使って力から防御から素早さまで全てを強化する
それにより、攻撃パターンが増えるとともに致命傷まで避けられると考えた
今思えば、このスキルを会得してからアランと戦っていればどれだけ楽だった事か・・・
「クリアアビリティ同様、強力な魔法は魔力をかなり消費する」「ワシも達也君も」
「だろうな・・・属性剣を使っている時も魔力を消費し続けるが、それの比ではないだろうな」
「ああ、だから長時間使い続けるのは・・・・ってまあ良い」「実際に訓練してみるか」
魔王はそう言いスキルの杖をかかげる
「平岡達也、最後のスキルはライズアップ!!!その身に捧げよ」
ってかさ、本当にこんな便利な杖に「女が惚れるように」って使ってしまった魔王って馬鹿だよな・・・
スキルを会得してもらう度にそう思うよ・・・
アンタが強いだけに残念だな・・・ま、それが魔王だから仕方がないが
達也の体が光に包まれる
やはり見た目に変化は無い
よし、使ってみるか!
クリアアビリティの時のように魔力が足りないって事はないだろう、流石に
「ライズアップ!!」
おお!すっげ!!魔力がどんどん減っているのが分かる
逆さまにしたペットボトルの水がよくこぼれていくかのようだ
だが、力がみなぎる
達也は力を入れて足を一歩前に出した
ビュン
な、何!?
たったの一歩で10メートルくらい前に進んだぞ!?
ありえるのか!?
まさかと思い
今度は床にデコピンをしてみる
なんとなくデコピンにしないとマズい気がしたからだ
ボゴォォン!!!!
は?
マジかよ!?
地面が吹き飛び煙を上げる
デコピンで手榴弾を投げたみたいに地面がえぐれたぞ!?
ってやば・・・
魔力が・・・
急いでライズアップを解除した
クリアアビリティ同様、魔力をガンガン消費する
すでに全体の30%を切った
マズい、フラフラしてきた
ガクンと膝をつく
「達也君、今日はもう無理だ」「魔王城でゆっくり休みたまえ」
いつの間に背後にいたんだ?
「はぁ、はぁ・・・ったく俺の魔法はつくづく燃費が悪いようだな」
「休まさせてもらうよ・・・」
達也はそう言うと立ち上がり、姿を消した
・・・・
俺の魔力の量は少ない
もっと長時間戦えなければ四天王には勝てない
「本当に大丈夫なのか!?」「不安になって来たな・・・」
達也は魔王の部屋で休むことにした
魔王はどっか適当な場所で寝るだろ・・・・
・・・
・・・・
次の日、魔王と修業した草原に来ていた
ここでライズアップのコントロールを魔王とする
「達也君、ライズアップをしたままワシと組み手をしてもらう」
「そうもたないぞ?この技は」
「だからこそだ!クリアアビリティで無力化した後、ライズアップで止めを刺すスタイルが基本だ」
確かにクリアアビリティからのブラッドナイフは心許無いからな・・・
アランの時もそれで何回か失敗している
ブラッドナイフで刺す寸前に避けられていたからな・・・
俺がクリアアビリティをちゃんとコントロールして強力にすれば結果は違って来るが、ライズアップで止めを刺した方が無難か・・・
「だけど、そんなことしたらすぐに魔力が空っぽになるぞ?」
「ふむ、だから修業をするのだ」「ただし、他の四天王にアランとやらが死んだ事がバレるまでの間だがな・・・うーむ、3日間が限界だ」
今日から3日間魔王と修業か
「よし!分かった」
「かかって来い!達也君!!」
こうして3日間、達也と魔王は修業をした




