びくびく
「あっ」
「どうした?」
「白くまくん食べたい」
「寒くないの?」
「だって仕方がないじゃないか」
「なんで?」
「二人の関係が熱すぎるのさ」
「……」
「二人の関係が「聞こえてるから」」
なんとなく空を見上げる。
星の間に線を描く。
肩を落として息を吐く。
もしかしたら、溜息かもしれない。
だって仕方がないじゃないか、外はこんなに冷たいのさ。
「それでね、一つお願い」
申し訳なさそうに見え、その実甘えがのぞく表情、憎めない表情で、彼女はしゃべる。
「……なんだよ」
そんなのに慣れっこの私は、警戒を解かない。
「財布忘れた」
忘れた、か。
この場合私の部屋ではないだろう。
そもそも……まあいいか。
「アイスくらい買ってやるよ」
「ホント? ありがとう!」
「あれ、そういえばこの前の肉まんのとき……」
「あ、肉まんも食べたい!」
「……この豚野郎」
そうこうしているうちに、コンビニの目の前にたどりつく。
そのとたんに、彼女の態度が変わってしまう。
「どうした? 入るよ?」
「まあ、待ってくださいよ」
わたしの問いかけにも、彼女はただコンビニを眺めている。
「おや、これはいけない。聞こえませんか? 悲鳴ですよ。ちょっと人助け行ってきます。おつかいよろしく」
早口でまくしたてると、謎の空耳を信じ早足で道を戻っていく。
おつかいなんてしゃくだが、手ぶらのわけにもいかない。
決して寒かったとか、そういうわけではない。
振りかえり、店舗の中をのぞく。
なんてことはない、どこにでもある普通の量産型だ。
店員が私たちの同級生であることをのぞけば、だが。
なんだか目が合ってる気がする。
溜息がまた出た。
気乗りしないのはお前だけじゃないぞ。
そう思いながら、ドアをくぐる。
「いらっしゃいませ」
無視しようとも思ったけど、踏みとどまって小さく手を振った。
相手もにこりと返す。
視線を突き刺したままアイスの吟味をして、つまみにあたりめ、チューハイ二本、手に抱えながらレジへと向かう。
「お久しぶり。肉まんとあんまんも一つずつね」
「久しぶりだね」
この子とは一年間クラスが一緒だった。
内気で、おとなしく、友だちもいるけど、隅で本を読んでいるような子。
今は眼鏡も外し、雰囲気も前とは違って明るくなっている。
「さっき隣にいたのって、七瀬さんだよね?」
声の主のバーコードを読みこむ手つきは、まだぎこちない。
たぶんなれていないだけなのか。
「うん、そうだよ」
小銭を漁りながら、何気ないような口ぶりで、私は答える。
「そっか。元気?」
「憎たらしいくらいね」
「そ、そうなの……」
笑わせようとしたつもりが、レジを叩く手を一瞬止めて、困惑した表情を作らせただけだった。
「まあ、彼女は彼女でなんとかやってるよ」
代金を渡し、思ってもみないことを口にする。
「わたしね、わたし」
おつりをもらい、ブツを回収して早々と帰ろうとしてたのに失敗した。
二人はお客さまと店員さんではなくなった。
「謝ろうと思ってたの」
今にも泣きそうな声が、店内を流れるバラードと共演する。
「2年のころ、別のクラスだったよね。そのとき、わたしが本橋さんたちから無視されてたときも、七瀬さんだけ話しかけてくれて。でも、今度は七瀬さんがあんなことになるなんて思わなかった。それなのに、わたし」
ドアが開く音がする。
新しい客のようだ。
「ごめんなさい。こんなこと、工藤さんに言っても仕方ないのに」
ほんとうだよ、の言葉は呑み込んだ。
「今度会ったときにでも連れてくるから」
「ありがとう。許してくれるかな?」
返事をしないで、聞こえないふりをして外へ出る。
マイページにも書きましたが週末更新するつもりです。
あと2、3話でひとまず区切りをつけるつもりです。
おつきあいのほどよろしくお願いします。