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もくもく

「今なら世界救えそう」

大きなあくびをひとつして、彼女はそう答えた。

うちのテレビを乗っ取る、その気力のない声の主に目をやる。

彼女越しに、黒の下地に様々な色の文字で人の名前が書かれている、テレビの映像が見えた。

8ビットの音楽がピコピコと、妙な懐かしさをかもし流れていく。

彼女はコントローラを手元に置き、それを茫然と眺めている。

要するにエンディングというやつだ。

私は漫画のページをめくる。

「おい、なんか反応しろよ」

彼女は怒ったように言う。

中二と言う気も起らない。

私は漫画のページをめくる。

「まずさ、この世界には足りないんだよ」

彼女の独り言が続く。

それをいつものように聞き流す。

私は漫画のページをめくる。

「なんていうかさ、竜王? シドーとかさ」

時計が鳴った。

もう3時か、眠くなるわけだ。

私は漫画のページをめくる。

「私なんてなくても変わりないし」

お風呂とかどうしよう。

入ろうか、いや、もう、めんどい、かな。

私は漫画のページをめくる。

「あー勇者なりてー」

彼女は立ち上がり、こちらへ向かう。

それに気づかないふりをする。

私は漫画のページをめくる。

「そもそもさ、わたしたち社会人になれるのかな?」

彼女は隣に座り、ベッドが深く沈む。

体が自然と彼女に傾くので、座り直す。

私は漫画のページをめくる。

「それおもしろい?」

とりあえず漫画をつかむ彼女の手を払う。

眠たいまぶたをこする。

私は漫画のページをめくる。

「ていうかさ、それ読んでるの? 早いね」

「うっさいな。勝手にしててよ」

ついにわたしは彼女の顔を見てしまう。

それがうれしいのか彼女は笑う。

「え、なに、図星?」

「だから違うから」

「じゃあ、どんな話?」

「パイにする魔法が最強だって話」

「なにそれこわい」

「お前の漫画だろ」

「そんな着眼点で見てないから」

「ほら、ゲームしてな」

「エンディング見てからどうしろと?」

「新しいゲームしてろよ」

彼女は漫画を覗きこもうとする。

彼女の顔をおしのける、暗いし、顔近いし。

私は漫画のページをめくる。

「指きれいだよね」

やわらかなほおの感触はなくなる。

彼女が私の手を観察しているのを、横目で見る。

私は漫画のページをめくる。

「わたしの手を見てください。私の手は、まっしろだ」

私の手を離すと、彼女は自分の手のひらを見せてくる。

視界の隅にそれを捕えても、反応はしない。

私は漫画のページをめくる。

「手に職つけません……って見とけよ」

あくびをかみ殺す。

残りもあとわずかだ。

私は漫画のページをめくる。

「……」

「ねえ、なにがしたいの」

熱い視線がうっとおしくなって、口を開く。

もちろん向こうは見ない。

私は漫画のページをめくる。

「そうだよ、わたしなにがしたいんだよ!」

彼女は目を大きく開き、深夜にもかかわらず大きな声をあげる。

壁薄いんだから勘弁してほしい。

私は漫画のページをめくる。

「わたし、やりたいことがない!」

「耳元でうるせえな」

そんなすごい発見だったか?

私が漫画のページをめくる前に、彼女は畳みかける。

「なんでゲームなんてしてるんだろ?」

「知らねえよ」

「誰も教えてくれないよ、なんだよ将来とか!」

「酒でも飲んだ?」

「学校って答え覚えるだけじゃん、でもそんなの普通ないよ!」

「ああ、なんかのどかわいた」

「みんな同じように教えられるのに個性求めんじゃねえ!」

「よし、なんか飲みもの買ってこよう」

「そばにいてよ!」

「一緒に行くか?」

「うん!」


けっきょく漫画は読み切れない。

はじめまして!

こんにちは!

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