ハネムーン
新婚旅行って楽しいのですかね?
独身の私にはわかりません。
結婚してから色々なことがあった。
祝福のされない結婚だった。
彼女は私と違って裕福な家庭で育ち、高学歴で美人。およそ大半の女性が羨望と嫉妬の眼差しを向けるような、神様がパラエメータ配分を誤って生まれた恵まれた理想の女性像。
そんな女性を前にすれば、大半の男は霞む。特に私は平凡という言葉がこれほど似合う人間もいないだろう。特別な技能も無ければ、学歴も平凡、さらに容姿は……これ以上言わせるな。悲しくなる。
じゃあどこでこんな素敵な女性と私が出会う事ができたのか、と知りたいだろ?
教えてあげたいんだけどよ、話すと長くなるんだよ。だから割愛させてもらうけど、端的に言えば運がよかったんだ。
ただ、運を使い切った。
二人の関係は良好だった。だが、彼女の両親が別れるように誘導するような圧力から耐える日々だった。そして私と彼女は半ば駆け落ちのような形で結婚することになった。
彼女の両親が参加しない結婚式は、なかなか強烈だったなぁ……
それでも、祝福されない結婚だったとしても、幸せだけは手に入れてやろうと努力はした。
でも、現実はそんなに甘い物じゃないんだ。衣食住を確保するだけでも苦労した。
来ている服は粗末。
毎日の食事も質素。
住んでいるのはボロアパート。
結局のところ、彼女の両親はこの状況になるのが分かっていたのかもしれない。不釣り合いの男女が結婚しても、幸せな未来なんてないと。
伊達に苦労して生きて来た人間の助言なんだ。重みがあって当然だったのかもしれない。その助言を蔑ろにしたのは私だ。
それでも、私たちはようやく初の新婚旅行にやって来た。
困難かと思われていたペアチケットが入手で来たのが幸運だった。もしかしたら目的地まで別々になる可能性もあったのだが、本当に運がよかった。
私たちは混雑するエアポートにやって来た。ここはいつでも混んでいるのだろう。若い人から老人までさまざまな人たちがここにいた。
「なんか、初めての新婚旅行なのに、手ぶらで来ちゃったね」
彼女の少し疲れたような表情を見ると、本当に苦労させたと胸が痛くなった。
「向こうに着いたら、たくさんの楽しいことが待っているさ」
私は少しでも明るい声を出して彼女を元気づけようとした。
彼女は「うん、そうだね」と笑顔を向けてくれた。その笑顔にどれだけ救われた事だろう。
私たちは手を繋いでゆっくりとゲートを潜った。持ち物検査で引っかかるわけが無い。手ぶらなんだから。
そして外に出ると、私たちは係員から真っ白の羽を背中に付けてもらった。
係員が「では、良い旅を」と営業スマイルを向けて来た。
私たちは手を繋いで頷き合い、翼を羽ばたかせ、大空の先にある楽園に向かって二人の人生で初めての新婚旅行に向かったのだった。
後味の悪い作品はあまり書かないので、この手の作品は書き手としても読み手としても苦手です。