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短編2

魔法学園入学者の皆さまへ

作者: 猫宮蒼
掲載日:2026/04/26



 はい皆さま、まずはアルティリエ魔法学園、入学おめでとうございます。

 貴方たちは今日から魔法使いとしての第一歩を踏み出す事となりました。


 えぇ、魔法、便利ですよね。

 便利だけれど、使い方を間違えれば危険なものなのは言うまでもありません。

 魔法学はそういった基本的な事からきっちりと皆さまに伝えていく学問です。


 それから魔法薬学。こちらも扱いを間違えれば命を失うかもしれませんから。


 はい、そうです。


 知識はあって困るものではありません。

 それは皆さまを守る盾であり、時として剣となるのです。



 早速実践的な授業を……というのを皆さまも期待しているかもしれませんが、今日のところはお話だけです。


 そうですね、魔女について。

 これも重要ですよ。私たちは魔法を扱い始めてまだたった数百年程度の素人ですが、魔女は違う。

 彼女たちは生まれたその瞬間から魔法を本能で扱い、そしてその力の研鑽を惜しむ事がありません。

 えぇ、下手に敵に回してはならない存在だと、皆さまも各々幼い頃から聞かされてきたかと思います。


 魔女の大半は森の奥深くだとか、山の洞窟だとか。

 ともあれ人目につかないような場所でひっそりと暮らしている事が多いです。

 なので直接見た事がある、なんて人は意外と少ないのではないでしょうか。

 時々人里近くで生活している魔女もいるけれど。


 でも、そういった魔女と言葉を交わして意思の疎通ができるからといって、理解した気持ちになってはいけませんよ。あれらはあくまでも言葉が通じるだけで、本当の意味でわかりあおうとするのは困難を極めます。

 ちょっと意見が一致して気が合うかも、なんて思ったからとて油断しないように。


 今から皆さまにお話するのはそんな、魔女を魔女だと本当の意味で理解できていなかった愚かな人間の話です。えぇ、いつ私たちがそうなるかもわかったものではない、という教訓ですね。

 ちなみにこの話をした後でやらかしても、当学園は皆さまを必ずしも守るとは限りません。気を付けていてもやらかしてしまった場合ならいざ知らず、この話を聞いてそれでも甘くみた者に関しては見捨てます。


 本日欠席者は無し、という事で後から聞いていない、は通用しませんよ。



 さて、この話に出てくる魔女は、森の奥で過ごしていました。人の目には滅多に触れず、というか人里に出てくる事はほとんどなかった。

 森の奥の少しだけ開けた場所に家を建て、庭で小さな畑を作り、そうしてそこで暮らしていた魔女の存在に気付いたのは、近くの村の数名だけでした。

 森に入り植物を採取し、時として森の動物たちを狩る。そんな風に生活していた村の人間が、うっかり迷って奥へと行ってしまった時に、魔女の存在に気付いたそうです。


 その森の近くにある村の誰も知らなかった、というのだから、魔女はほぼそこから出てきた事はなかった。

 自給自足の生活です。


 人里に出てきて誰に迷惑をかけるでもない、無害な魔女ではありました。


 村の人間たちも、魔女がいる、と知りはしてもそれだけです。

 下手に藪を突いて蛇を出そう、なんて考えはなかった。


 けれど、ある年、村は飢饉に見舞われました。

 雨が降らない日が続いて作物が枯れて、その後に雨が降ったかと思いきや大嵐が数日続いて。

 村で育てていた作物は全滅。森で採れた果物も嵐でダメになってしまって、せめてと狩りに出ても森の動物たちは見つからない。

 嵐で巣の奥深くから出てこないのか、それとも死んでしまったのか。もしかしたら他の場所へ逃げたのかもしれない。


 ともあれ、村は食料不足に見舞われて、食べる物に困っていた。

 他の町や村に助けを求めに行こうにも距離がある。それでなくとも嵐はその村だけを襲ったわけじゃない。

 他の場所に助けを求めたところで、助けてもらえる可能性は低い、とわかっていました。


 国に助けを求めるにしても、被害が多すぎて国も対処に追われていたそうですからね。当時。

 ちっぽけな田舎の村に真っ先に支援の手が差し伸べられる事なんて有り得なかった。


 食べる物が底を尽き、かろうじて水だけはあったけれどそれで生き延びられる時間はあまりにも短い。

 事実体力のない幼い子供や老人は衰弱して、ロクに身動きがとれなくなっていました。


 そこで森の奥に住む魔女の存在を思い出した村人は、藁にも縋る思いで魔女の元へと行きました。

 今の今までこれといった交流もしていない相手が助けてくれると何故思ったのか……極限の状態だからそこまでは考えていなかった、という事もあるのでしょうが、ともあれ彼らは数名で魔女の元へと足を運び、そこで見たのです。

 魔女の家の庭にある畑に、たっぷりと作物が育っているのを。


 全部は無理でも少しくらい分けてもらえないだろうか。

 そんな風に思うのも、まぁ仕方がない話かもしれません。


 そこに何もなければ諦めもつきますが、あるのだから。


 村人の一人が魔女の家の戸を叩きます。

 そうして出てきた魔女に、村人たちは自分たちの惨状を訴えて食べ物を分けてほしいと言いました。


 村の人間全員分の食べ物なんて魔女だってそんなに備蓄はしていません。

 だから魔女は断りました。

 まぁ当然でしょう。親しい友人一人くらいなら助けてあげられるかもしれませんが、特に親しくもない他人、それも複数名分ともなれば家の備蓄もごっそり消えます。

 それに下手に少量分けたところで、それで終わるとも思えませんからね。

 後からまた理由をつけてずるずると援助を頼まれるのも考えようによっては面倒な事になりかねない。


 魔女は言いました。うちは自分で食べるだけの分しかないよと。

 対する村人は言いました。

 あの畑にある作物を少しだけでいい。

 けれども魔女は首を横に振りました。


 あれは食べる物じゃないよ。


 村人は嘘だと言い募りました。

 だってどう見ても、それは村人が知る作物だったから。

 けれども魔女は譲りません。


 あれはあんたたちが食べていいものじゃない。

 話がそれだけなら帰っとくれ。


 そう言って魔女は家の戸を閉めてしまいました。


 その様子に村人の一人が憤慨しました。

 なんてやつだ、こっちがこんなに頼んでいるというのに!

 あの魔女は自分だけであの作物を独り占めしている。なんて強欲な奴なんだ!


 勝手な話ですよね。

 魔女が魔女の家の庭で育てているんだから、独り占めして何の問題があるのでしょう。


 ともあれ村人たちは一度引き返しました。


 そうして日も沈んで夜になって。

 月と星の輝きですら届かない森の奥深くに、昼間の一件を知った村人たちが再び魔女の家へやってきました。


 飢えた彼らにとって食べられるマトモな物は魔女の庭にある作物くらいなのです。

 知らなければ無い物だったけれど、あると知ってしまった以上諦められるはずがありませんでした。


 そうして魔女の家にやって来た村人たちは、家の中の様子を窺いました。

 魔女は眠っているのか、静かなものです。

 今のうちだ、と思った村人たちは庭に入り、そうして作物を引っこ抜きました。


 最初に素直に少しだけ分けてくれればこんな事をしなかったのに……なんて言い訳をしながら、村人たちは根こそぎ引っこ抜いていきます。

 そうして持っていた麻袋にそれを詰め込んで、村人たちは帰っていきました。


 無事に村に戻った彼らは、早速その作物を鍋で煮て、村の皆で分けて食べ、飢えを満たす事ができたのです。



 ところが。



 異変はその後起きました。

 魔女の庭で採ってきた野菜のスープを食べた者たちの姿がみるみる変わっていきます。

 人間とはとてもじゃないけど言えない姿になっていって、村人たちは慌てました。


 そこに魔女がやってきたのです。


 あぁ、なんだい。やっぱり食べちまったのかい。

 あれは使い魔の食べ物だっていうのに困ったものだね。

 まぁいい。今からお前さんたちもアタシの使い魔だよ。

 ほら、キリキリ働きな。


 逆らおうにも村人たちの姿はすっかり変わってしまって、以前のようには動けません。

 魔女の言葉に逆らおうとしても、身体は言う事を聞いてくれませんでした。



 そうして魔女は、労せずして大量の使い魔を得る事ができたのです。



 え? どうしてそうなったのか?


 魔女は村人に言ったでしょう。

 あれは食べる物じゃないと。

 それは人間が食べるものではない、という意味が含まれています。

 あんたたちが食べていいものじゃない、と念を押すようにも言っていました。


 人間が食べていいものではない、と魔女は魔女なりに伝えていたのです。

 わかるわけがない? もっとハッキリ言わなきゃ?

 魔女からすればそこまでの義理はありませんよ。

 駄目なものは駄目って言ってるんだからそこで理解できない人間にわかるまで懇切丁寧に接してやる必要性が、魔女にはなかった。それだけです。


 どうして村人たちが使い魔になってしまったのか?

 使い魔が食べる餌を食べてしまったから、それを食べた者は使い魔である、と定義づけられたようですね。

 無茶苦茶だ?

 でも魔女ってそういうものですし。魔法もそういった人間に理解できない法則が含まれてたりもしますし。

 理解できない面をなるべく理解できるように理由をつけていこうね、っていうのも魔法学の一面です。


 いいですか、人間だって人間同士のコミュニケーションで自分の伝えたい事を正確に伝えられる事はほぼないです。自分がきちんと伝えていても、受け取る相手がそれを思わぬ方向性で受け取って曲解するなんて事もザラです。

 人間同士でそれなんだから、魔女なんていう異種族と意思の疎通が正確に行われるなんて思ってはいけません。


 この話の魔女は駄目って言ったし理解しただろうと判断しています。

 それを人間側が勝手に独り占めするつもりだ、とか勝手に別の理由をつけて自分たちが食べて問題の無い物だと思い込んだ結果がこれです。


 駄目な理由を正確にわかりもしていないのに、勝手に判断した結果ですね。

 どうして駄目なのかをもっと深く突っ込んで聞ければ違った道もあったかもしれませんが……

 魔女からすれば断った時点で終わった話だし、それ以上食い下がられても無い袖は振れない。

 庭の作物は使い魔用で人間の食べ物ではない、と説明してやる義理も特にない。


 駄目って言ってるのに盗んで食べる方が悪い。

 結果として人間卒業して使い魔になったところで、魔女が悪いわけでもない。


 騙して食べさせたならともかく、村人たちは自分の意思でこっそりと魔女の家にやってきて、そうして自分たちの意思で盗んだのですから。


 人が暮らしている場所でこれみよがしに育てていたわけでもないから、間違って食べてしまった、なんて事にもなり得ない。


 はい、そういうわけで、魔法に関して学ぶ際は、自分の中だけで自己完結してやらかしたらこういう事に繋がる可能性もあるので気を付けて下さいね。



 え?

 その話はどこから広まったのか?


 あぁ、貴方たちを怖がらせようと思って作り話をしているとか思ってます?


 まさか。


 この魔女も、使い魔になってしまった村人たちも存在しておりますよ。


 えぇ、学園長のおばあ様の茶飲み友達がこの話の魔女ですもの。

 ちなみに時々授業を担当してくれます。

 なので甘くみてると色々なものが終了する可能性が普通にありますので。


 これからはきちんと気を引き締めていきましょうね。

 次回短編予告

 恋人と別れる原因に至ったのは、彼の吐いたちょっとした嘘からでした。

 ほんの小さな嘘。人によっては些細なそれ。

 けれど彼女には耐えられなかった。


 次回 嘘つきの代償

 失った初恋に未練なんてなかった。


 ※これだけだととても恋愛風味ですが実際恋愛っぽくないのでその他ジャンルあたりに投稿されます。

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― 新着の感想 ―
みーのむし、ぶらりんしゃん、食ーろてはならぬ と歌ったのは「かまいたちの夜2」だったかな。 飢えても食べてはいけない物がある。というおとぎ話。
少なくとも餓死は免れた。そういうことだろう。
食べられる野草や、迅速に育ち尚且つ或る程度以上の収穫が見込める作物(例えばトウモロコシ)についての知識でも請うていたら、違っていたかもと、こなみかん。 飢えを凌げるポーションなどというものが有るなら、…
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