最適化計画
ミズナギ・フィナンシャル・コーポレーションの発表は、簡潔だった。
「AIの導入により、五千名分の業務を自動化いたします。対象従業員には、新たなキャリアパスをご用意しております」
新たなキャリアパス。
タナカ氏は、その言葉を三回読んだ。二十二年間、事務センターの端末に向かい続けた男には、少し時間が必要だった。
説明会で人事部長が微笑んだ。「リストラではありません。進化です」
退職金の上乗せはない。代わりにあるのは、個人営業のノルマだった。月に金融商品を三百万円分。「十分、達成可能な数字です」と人事部長は言った。引き続き微笑みながら。
四月一日、タナカ氏が長年所属した「事務グループ」は、名前ごと消滅した。
フロアを歩くと、かつての同僚たちが携帯を握っていた。顔色が、全員すこし違った。人間がまだ新しい仕事に慣れていないときの顔だ、とタナカ氏は思った。それから、慣れることは一生ないだろうとも思った。
三ヶ月後、タナカ氏の同期が十一人、「自己都合退職」した。
退職金の上乗せはなかった。もちろん。それどころか、自己都合退職なので、30%減額された。
その日、銀河標準取引所でミズナギ株は一・八パーセント上昇した。
投資家Aが買い、投資家Bも買い、どこかの年金基金も買った。外国人投資家たちも買った。AIによるコスト削減と、人員の「最適化」が評価されたと、金融端末は告げた。
タナカ氏が段ボール箱を持ってビルを出るころ、株価はまだ上がっていた。
誰も悪くなかった。
資本主義システムが、正しく、動いていた。




