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刻印式でくしゃみ事故に遭ったら、銃しか召喚できない【判定不能:ランクI】でした。  作者: 仲村千夏


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33/39

31 模擬ダンジョン最速踏破記録大会

 学院中央塔の大鐘が、いつもより長く鳴り響いた。


 普段の授業開始を告げるそれとは違う、祝祭めいた音色。

 廊下を行き交う生徒たちの足取りも、どこか浮き立っている。


 模擬ダンジョン最速走破記録大会。


 学院が管理する地下模擬層を使用し、班単位での走破時間を競う恒例行事。

 戦闘力だけでなく、索敵、罠解除、判断力、連携――総合力を試される。


 そして最深部には、魔力制御された模擬ボスが待つ。


 今年は例年と違い、上級生も公式記録更新枠として参加している。


 掲示板前には、すでに人だかりができていた。


 大きく書かれた現在の最速記録。


 上級三年・蒼刃班

 記録:三十二分十四秒


「三十二分か……」


 リヒトが低く呟く。


「去年より五分縮んでる」


 カミラが腕を組む。


「走破だけならいけるかもしれないけど、ボス込みだろ?」


 エルナは静かに紙面を見つめる。


 マティルナは少し離れた位置からそれを見ていた。


 三十二分。


 数字は冷静だ。

 感情も誇りも乗っていない。ただの結果。


 だがその裏には、積み重ねがある。


「焦るな」


 背後から声。


 振り返るまでもない。


 ナク先生だ。


「この大会は走るだけではない」


 淡々と続ける。


「罠で足を止めれば意味がない。無駄な戦闘も減点対象だ」


「減点……?」


 エルナが首を傾げる。


「模擬ダンジョンは学院が監視している。必要のない交戦は時間以上に評価を落とす」


 つまり。


 “戦わない判断”も評価対象。


 マティルナは静かに頷いた。


 単独訓練で叩き込まれたこと。


 撃つべきか、撃たないか。

 踏み込むか、待つか。


「先生」


 リヒトが問いかける。


「俺たちは挑戦者でいいんですよね?」


「当然だ」


 即答。


「記録を塗り替えるつもりで行け」


 その言葉に、班の空気が締まる。


 周囲では他班も準備を進めている。


 武器点検。

 魔力調整。

 軽いストレッチ。


 上級生の姿もある。


 視線が交差する。


 興味。

 評価。

 あるいは、侮り。


 マティルナは気にしない。


 見られることには慣れている。


「順番は抽選だ」


 ナク先生が告げる。


「お前たちは第五組目」


「微妙な位置だな」


 カミラが笑う。


「先行組の記録が出る」


「情報は武器になる」


 エルナが小さく頷く。


「ただし」


 ナク先生の声が一段低くなる。


「他班に惑わされるな」


 視線が四人を射抜く。


「お前たちはお前たちの走りをする」


 それだけ。


 余計な鼓舞も、過剰な期待もない。


 だがそれで十分だった。


 ⸻


 開会の合図とともに、第一班が地下へ降りる。


 魔導映像盤に内部映像が映し出される。


 観覧席がざわめく。


 模擬ダンジョンは三層構造。


 一層は索敵と小規模交戦。

 二層は罠密集区域。

 三層は分岐迷路の先にボス部屋。


 単純な構造に見えるが、時間短縮には正確な判断が必要だ。


「……あそこ、無駄に戦ってる」


 カミラが呟く。


 第一班、三体同時交戦。


 確実に処理しているが、時間は削られる。


「回避できたな」


 リヒト。


 エルナは冷静に言う。


「魔力消費も大きい」


 マティルナは映像を凝視する。


 索敵範囲。

 敵の配置。

 通路幅。


 頭の中で地図を描く。


 第二班。

 第三班。


 記録は三十八分台、三十五分台。


 そして第四班。


 上級生。


 蒼刃班ではないが、同じ三年。


 動きが違う。


 無駄がない。


 敵を引きつけ、最短で処理し、すぐ離脱。


 罠の位置を迷わない。


「三十四分……」


 リヒトが息を吐く。


 良い記録だ。


 だがまだ三十二分には届かない。


「次、第五班」


 呼び出し。


 空気が少し変わる。


 四人は自然と円を作る。


「一層、リヒト先行」


「うん」


「二層、私が罠見ます」


 エルナ。


「三層分岐はマティルナの索敵」


 カミラ。


 確認は短い。


 それだけで十分。


「ボスは?」


 リヒトが問う。


 一瞬の静寂。


 マティルナが答える。


「最短」


 迷いはない。


 全員が頷く。


 ナク先生が最後に言う。


「記録を意識するな」


 四人を見る。


「最速を目指せ」


 言葉は矛盾しているようで、違う。


 数字ではない。


 自分たちの最速。


 その先に記録がある。


 地下への扉が開く。


 冷たい空気が流れ出る。


 石階段を降りる前。


 マティルナは一瞬、振り返った。


 観覧席。


 上級生。


 掲示板の三十二分十四秒。


 ――塗り替える。


 静かに視線を戻す。


「行こう」


 四人が踏み出す。


 模擬ダンジョン最速走破記録大会。


 挑戦が始まる。


 石階段を降り切った瞬間、空気が変わった。


 外界の喧騒は途絶え、湿った冷気が肌にまとわりつく。

 模擬とはいえ、地下層は本物に近い緊張を帯びている。


「一層、開始」


 リヒトが先頭に出る。


 足運びは軽い。

 だが速すぎない。


 “最速”は無謀と違う。


 通路は直線の先に緩やかな左折。

 視界の端で、マティルナは気配を測る。


 ――二体。


 曲がり角の先、通路幅いっぱいに配置された模擬魔獣。


 正面突破すれば、時間は削られる。


「右壁寄り、三歩前で死角」


 マティルナが低く告げる。


 リヒトは即座に理解する。


 足を止めない。


 左折手前で速度をほんのわずか落とし、右壁に体を沿わせる。


 魔獣は正面の動きに反応する設定だ。


 視線の誘導を利用する。


 カミラがわざと通路中央を踏み鳴らし、魔獣の注意を引く。


 その瞬間、四人は右壁沿いを滑るように通過。


 戦闘は起きない。


 魔力消費ゼロ。


 観覧席がざわついた。


 ⸻


「……戦わない?」


「今の回避できるのか?」


 魔導映像盤を見つめる生徒たち。


 ナク先生は腕を組んだまま、何も言わない。


 ⸻


 一層は索敵と小規模交戦区域。


 全てを避けることはできない。


 十字路。


 正面に三体。


 左右は狭い。


「左、袋小路」


 エルナ。


「右は遠回り」


 リヒト。


 時間は削られる。


 マティルナが一歩前に出る。


「正面、六秒」


 短い宣言。


 リヒトが頷く。


 合図はない。


 同時に動いた。


 リヒトが一体を引きつけ、カミラが側面を制圧。


 エルナが後衛から魔力弾を正確に撃ち込む。


 マティルナは中央個体へ一直線。


 銃声。


 一発。


 続けて銃剣突撃。


 喉元に突き込み、魔力核を断つ。


 六秒。


 静寂。


「前進」


 無駄な確認はしない。


 走る。


 ⸻


 一層終盤。


 階段前に配置された大型個体。


 これは避けられない。


 だが。


「三秒」


 マティルナ。


 リヒトが真正面から踏み込む。


 大型個体が振りかぶる。


 その腕の下を、マティルナが滑り込む。


 銃声。


 至近距離。


 核が露出する一瞬。


 銃剣。


 貫通。


 大型が崩れ落ちる。


「二秒半」


 エルナが呟く。


 階段へ。


 一層突破。


 ⸻


 映像盤に表示された中間タイム。


 ――九分三十八秒。


 観覧席がどよめく。


「速い……」


「さっきの三年より一分近く速いぞ」


 ナク先生はわずかに目を細めた。


 だがまだ半分も終わっていない。


 ⸻


 二層。


 空気がさらに重くなる。


 罠密集区域。


 床、壁、天井。


 魔力反応が複雑に絡む。


 ここで焦れば終わる。


「私、前」


 エルナが一歩出る。


 指先に淡い光。


 罠の魔力線が浮かび上がる。


「三歩先、圧縮型」


「右壁、遅延爆裂」


「天井、落下式」


 次々と告げる。


 リヒトとカミラが即座に対応。


 踏む位置を微調整。


 足を止めない。


 マティルナは周囲を警戒する。


 罠区域にも敵は配置されている。


 罠と同時発動する個体。


 来る。


 左壁から小型二体。


「撃たない」


 マティルナが即断。


 銃を下げる。


 リヒトが足払いで一体の進路をずらす。


 罠線へ誘導。


 発動。


 爆裂。


 二体同時に消滅。


 戦闘時間、ゼロ。


 魔力消費、最小。


 観覧席から感嘆が漏れる。


 ⸻


 二層終盤。


 最難関区域。


 通路全体に網のように張り巡らされた魔力線。


「解除は?」


 カミラ。


「二十秒以上」


 エルナ。


 遠回りは三十秒。


 沈黙。


 マティルナが床を見る。


「上」


 視線を上げる。


 天井梁。


「跳ぶ?」


 リヒト。


「いける」


 マティルナが短く言う。


 順番。


 リヒト、カミラ、エルナ。


 最後にマティルナ。


 助走。


 梁を蹴り、二本目へ。


 魔力線の隙間を縫う。


 着地。


 成功。


 最後にマティルナ。


 踏み切り。


 一瞬、魔力線が揺れる。


 だが触れない。


 着地。


 二層突破。


 ⸻


 表示。


 ――十九分五十二秒。


 ざわめきが大きくなる。


「二十切った……?」


「三年記録より二分速いぞ」


 ナク先生は腕を解いた。


 視線は映像盤の奥。


 三層。


 分岐迷路。


 そしてボス。


 ここからが本当の勝負。


 ⸻


 三層入口。


 呼吸を整える。


「分岐は?」


 リヒト。


 マティルナは目を閉じる。


 耳。


 空気の流れ。


 微かな魔力振動。


「右」


 迷いなし。


 走る。


 途中、小規模交戦。


 最小処理。


 迷路をほぼ直線で抜ける。


 ボス部屋前。


 扉。


 表示タイム。


 ――二十六分四十秒。


 三十二分十四秒。


 残り、約五分半。


「いける」


 カミラが笑う。


 マティルナは銃を構えた。


「最短」


 全員が頷く。


 扉が開く。


 模擬ボスの咆哮が響いた。


 扉が重々しく開いた瞬間、圧が襲った。


 模擬とはいえ、学院最高位設定の個体。


 三層最深部の守護者。


 全高三メートルを超える装甲型魔獣。

 分厚い外殻、四肢は刃のように鋭い。

 胸部中央に埋め込まれた魔力核が、淡く脈動している。


 観覧席が静まり返る。


「……あれ、硬いぞ」


「三年の蒼刃班、あれに六分かかってた」


 表示タイム。


 ――二十六分四十秒。


 残り、約五分半。


 普通に戦えば、届かない。


 だが。


「最短」


 マティルナの声は変わらない。


 リヒトが前に出る。


「引きつける!」


 咆哮。


 魔獣が踏み込む。


 床が砕ける。


 速い。


 巨体に似合わぬ突進。


 リヒトが真正面で受ける。


 剣を交差させ、衝撃を逸らす。


 その背後。


「左脚、関節!」


 エルナの魔力弾が正確に撃ち込まれる。


 装甲に弾かれる。


 だが狙いは破壊ではない。


 “揺らす”。


 カミラが側面へ回り込み、刃を叩き込む。


 火花。


 硬い。


 魔獣が回転。


 尾の一撃。


「下がれ!」


 リヒトが叫ぶ。


 間に合わない。


 その瞬間。


 銃声。


 マティルナの一発が、尾の付け根に刺さる。


 僅かに軌道が逸れる。


 カミラが滑り込みで回避。


 衝撃波が壁を削る。


 粉塵。


 視界が白む。


 観覧席が息を呑む。


 ⸻


「正面装甲は無理だ!」


 リヒト。


「時間が足りない!」


 エルナ。


 表示タイム。


 ――二十七分三十二秒。


 焦りが喉を締める。


 だが。


 マティルナは動かない。


 魔獣の動き。


 足運び。


 呼吸の間。


 核の脈動周期。


 見ている。


 撃っていない。


「マティルナ!」


 カミラの声。


 魔獣が再び突進。


 リヒトが受け止める。


 押される。


 床が削れる。


 膝が沈む。


 限界。


 その瞬間。


「今」


 静かな声。


 マティルナが走る。


 真正面。


 魔獣の懐へ。


「馬鹿――!」


 観覧席の誰かが叫ぶ。


 だが違う。


 突進は止まらない。


 止まらないからこそ。


 核が、前傾で露出する。


 ほんの一瞬。


 銃声。


 一発。


 弾丸は装甲の隙間へ滑り込む。


 直後、銃剣を構えたまま跳躍。


 リヒトの肩を踏み台にする。


「いけ!」


 リヒトが叫ぶ。


 マティルナが空中で体勢を反転。


 核の正面へ。


 銃剣突き。


 魔力を一点集中。


 貫通。


 核が砕ける音。


 光が暴発する。


 衝撃。


 全員が吹き飛ばされる。


 轟音。


 静寂。


 粉塵がゆっくりと落ちる。


 ⸻


 魔獣は、崩れ落ちていた。


 核は消えている。


 模擬終了の光が灯る。


 誰も動かない。


 表示盤が切り替わる。


 ――三十一分〇八秒。


 一瞬の静止。


 次の瞬間。


 観覧席が爆発した。


「超えた……!」


「三十二分切ったぞ!」


「一年が!?」


 歓声。


 ざわめき。


 信じられないという声。


 リヒトが荒い息を吐く。


「……やったな」


 カミラが笑う。


「三十一分……」


 エルナが表示を見つめる。


 マティルナは立ち上がる。


 銃を下ろす。


 息は乱れていない。


 ただ、仲間を見る。


「最短」


 小さく言う。


 それだけ。


 ⸻


 地上へ戻る階段。


 四人は並んで歩く。


 歓声はまだ続いている。


 だが足取りはいつも通り。


 扉が開く。


 光が差し込む。


 観覧席が総立ちになる。


 上級生たちの視線。


 驚愕。


 評価。


 そして――。


 蒼刃班の三年が、静かに掲示板を見ている。


 三十二分十四秒。


 その上に刻まれる。


 三十一分〇八秒。


 班名。


 一年。


 ざわめきが再び広がる。


 ナク先生が歩み寄る。


「よくやった」


 それだけ。


 だが視線は鋭い。


「まだ粗い」


 小さく続ける。


「三十切れた」


 四人は同時に頷いた。


 歓声の中で。


 記録は塗り替えられた。


 だがこれは、終わりではない。


 学院の空気が変わる。


 挑戦者から――。


 脅威へ。


 歓声は、いつまでも止まなかった。


 掲示板の前には人だかりができ、

 何度も表示を確認する者、

 信じられないと首を振る者、

 そして無言で立ち去る上級生の姿もあった。


 三十一分〇八秒。


 記録更新。


 しかも一年。


 学院の空気は確実に揺れていた。


 ⸻


 四人は控え通路へと下がる。


 外の喧騒が遠のき、石壁に囲まれた静かな空間。


 マティルナは手元の刻印に指を触れ、魔力を引く。


 淡い光とともに銃が粒子となって消えた。


 静寂。


 ようやく呼吸が落ち着く。


「……本当に超えたな」


 リヒトが壁にもたれる。


「二十七分台で焦ったとき、正直無理かと思った」


 エルナが苦笑する。


「でも行けるって言ったの、あんたよ」


 カミラが肩を軽く小突く。


 リヒトは視線をマティルナへ向けた。


「……ありがとうな」


 不意の言葉。


 マティルナは瞬きをひとつする。


「班」


 短く返す。


 それだけで十分だった。


 ⸻


 通路の奥から足音。


 三人組の上級生が現れる。


 胸元の徽章。


 蒼刃班。


 これまでの最速記録保持者。


 空気がわずかに張る。


 先頭の男子が掲示板を見たまま言う。


「一年で三十一分台か」


 振り返る。


 視線がまっすぐリヒトたちを射抜く。


「偶然じゃないな」


 評価。


 否定ではない。


 だが、挑戦の響きが混じる。


「迷路のルート、どう見抜いた?」


 エルナが答えようとする。


 だがマティルナが先に口を開いた。


「風」


 短い一言。


 蒼刃班の男子がわずかに目を細める。


「……なるほど」


 沈黙。


 そして。


「班対抗戦、出るだろ」


 問いではない。


 確認だ。


 カミラが笑う。


「もちろん」


 リヒトが頷く。


「逃げる理由がない」


 蒼刃班の三人もわずかに笑う。


「次は団体戦じゃない」


「個だ」


 その言葉は、静かに重かった。


 ⸻


 上級生が去る。


 空気が戻る。


 だがさきほどまでとは違う。


 学院の視線はもう、興味ではない。


 測定。


 比較。


 そして――対峙。


 ⸻


 その様子を遠くから見ていたナク先生が、ゆっくりと近づく。


「聞いたな」


 四人は頷く。


「班対抗戦は勝ち抜きだ」


「四人で四人」


「制限付き」


 淡々と告げる。


「今日の走破は“完成度”だ」


「次は“露出”だ」


 意味は分かる。


 隠してきたものが、表に出る。


 特に。


 視線がマティルナに向く。


「力は制御しろ」


 短い忠告。


 マティルナはわずかに首を傾げる。


「勝つ」


 それだけを答える。


 ナク先生は一瞬だけ笑った。


「そうだな」


 ⸻


 その夜。


 学院の掲示板前は人で溢れた。


 三十一分〇八秒。


 一年・班名。


 何度見ても変わらない。


 だがその下に、新たな告知が張り出される。


 ⸻


 【班対抗一対一勝ち抜き戦 出場班決定】


 ⸻


 蒼刃班。


 他三班。


 そして。


 彼らの班名。


 学院の視線が、再び集中する。


 ⸻


 寮の屋上。


 夜風が冷たい。


 四人は並んで街の灯りを見下ろす。


「次は、個だな」


 リヒト。


「私は罠だけじゃ足りない」


 エルナ。


「近接、もっと詰める」


 カミラ。


 三人の視線がマティルナへ向く。


 彼女は夜空を見上げていた。


 星は静かに瞬いている。


「速さは、終わった」


 ぽつりと呟く。


「次は――」


 言葉を止める。


 だがその目は、静かに燃えていた。


 ⸻


 学院内。


 別の場所。


 蒼刃班の部屋。


「一年に舐められるのは癪だな」


「だが面白い」


「誰が先に出る?」


「……俺が行く」


 拳が握られる。


 火種は確かに灯った。


 ⸻


 翌朝。


 訓練場の空気は張り詰めていた。


 班対抗戦まで、三日。


 誰もが、誰かを見ている。


 挑戦者と。


 標的を。


 ⸻


 マティルナは静かに刻印に触れる。


 光が一瞬、指先に宿る。


 呼吸は安定。


 視線は揺れない。


 速さは証明した。


 次は――対峙。


 学院の空気が、確実に変わる。


 最速の班は、もう未知ではない。


 次は証明だ。


 速さではなく。


 力で。

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