表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印式でくしゃみ事故に遭ったら、銃しか召喚できない【判定不能:ランクI】でした。  作者: 仲村千夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/39

・ 緊急会議と評価

 模擬ダンジョン演習棟、地下三階。


 学生の姿が完全に消えた後、重厚な防音扉の奥で、学院側の臨時会議が始まっていた。


 円卓には、実技担当教官、学科主任、魔導工学部の技術責任者、そして訓練統括官が揃っている。

 空気は張り詰めているが、誰も声を荒げてはいない。


 机上には、先ほどの訓練記録が並んでいた。


「まず、事実確認から入ろう」


 統括官が口を開く。


「本日の模擬ダンジョン・大型モンスター討伐訓練において、想定外の模擬個体――幼体ドラゴン級が生成された」

「学生側に事前通達はなく、環境側の制御不具合が疑われる」


 誰も異論を挟まない。


「制御室、報告を」


 指名を受け、技術責任者が立ち上がる。

 年季の入った魔導工学者だ。


「結論から申し上げます」

「生成条件に、外部からの明確な不正干渉は確認されていません」


 その言葉に、数人の教官が眉を動かす。


「では、なぜドラゴンが?」


「原因は現在も調査中です」

「ただし――」


 技術責任者は一拍置いた。


「模擬ダンジョンの環境生成ログに、異常な魔力スケールの入力が確認されています」


 空気が、さらに静まる。


「誰かが、操作したのか?」


「いいえ」

 即座に否定が入る。

「少なくとも、制御卓・補助端末・刻印操作の痕跡はありません」


 代わりに、別の資料が映し出された。


「問題は、環境側が“感知した”魔力量です」

「模擬ダンジョンは、参加者の総魔力規模を参照し、危険度を調整する設計になっている」


 画面には、グラフが表示される。


 明らかに一本だけ、異常なピークを描いていた。


「……一人分か?」


 誰かが呟く。


「はい」

 技術責任者は淡々と続ける。

「マティルナ・ロウェル、刻印召喚時の魔力量推定値です」


 沈黙。


 だが、驚きよりも――納得が先に来た者も多かった。


「彼女のデータは、以前からおかしい」

 実技教官の一人が言う。

「評価基準を振り切るのは、今回が初めてじゃない」


「だが、それでもドラゴン級を引っ張り出すのは想定外だ」

 学科主任が腕を組む。

「環境が過剰反応した可能性は?」


「高いです」

「模擬ダンジョンが“高魔力脅威に対する適正試験”と誤認識した可能性がある」


 つまり。


「学生が何かをした、というより」

 統括官が言葉をまとめる。

「環境が、学生を誤って“高位探索者相当”と判断した」


 その場にいた全員が、その意味を理解する。


 重い評価だ。


「では、学生側の対応はどうだった?」


 話題が切り替わる。


「班としての連携は維持されていました」

 別の教官が記録を読み上げる。

「初撃で前衛二名が戦線離脱。その後、単独火力による即応判断で討伐」


「支援無し、か」


「はい」

「詠唱も短縮されており、狙点は胸部心臓相当コア」


 映像が再生される。


 静止画に近い一瞬。

 次の瞬間、模擬ドラゴンが崩壊する。


 余波で結界が砕け散る様子も、はっきり映っていた。


「……制御解除に手間取ったのは?」


「三重強化が掛かっていました」

「過去の模擬戦で結界を複数回破壊した実績に基づく安全措置です」


 誰かが、苦笑する。


「自分で自分の首を絞めてるな」


「それでも、生き残った」

 統括官が言った。

「誰も死んでいない。負傷も軽度」


 その事実が、全てだった。


「では、結論だ」


 統括官は、円卓を見渡す。


「この件は、学院側の管理不備とする」

「マティルナ・ロウェルに対する懲戒・処分は行わない」


 異論は出なかった。


「ただし」

 声が低くなる。

「評価は、別だ」


 机上の資料が整理される。


「彼女の魔力量、出力、即応判断――」

「学生レベルを逸脱している」


「だが、制御は未完成だ」

 学科主任が補足する。

「効率課題では基準未達だった」


「だからこそだ」

 統括官は静かに言う。

「放置はできない」


 結論は、すぐにまとまった。


「今後、マティルナ・ロウェルは――」

「単独での高危険度模擬演習を禁止する」


 記録係が頷く。


「常に班、あるいは教官監督下とする」

「実技評価は上限開放、だが制御項目を重点監査対象に指定」


 それは、制限であり、保護であり――期待でもあった。


「学生本人への説明は?」


「“事故であり、問題はなかった”と伝える」

「評価詳細は段階的に開示する」


 過剰な自覚を持たせないためだ。


「彼女は、まだ学生だ」

 誰かが言った。

「背負わせすぎると、折れる」


「だが、見ないふりもできない」


 その二つの間で、学院は舵を取る。


 会議は、静かに終わった。



 翌日。


 マティルナ・ロウェルは、呼び出しを受けていた。


 小さな応接室。

 向かいには、見知った実技教官が一人。


「座っていい」


「はい」


 短いやり取り。


「昨日の件だが」

 教官は言葉を選びながら続ける。

「事故として処理された。君に処分はない」


 マティルナは、ほっと息を吐く。


「ただし」

 続く言葉に、背筋が伸びる。


「評価は高い」

「そして――注意も必要だ」


 叱責ではなかった。

 冷静な、事実確認。


「君は、想定を超える」

「それは誇っていい。ただし、独りで抱えるな」


 マティルナは、小さく頷いた。


「班がある」

 教官は言う。

「それを忘れるな」


「……はい」


 それだけで、話は終わった。


 廊下に出たマティルナは、少しだけ立ち止まる。


(……評価、か)


 怖くないと言えば嘘になる。


 でも。


(みんながいれば)


 昨日と同じ考えが、自然に浮かんだ。


 学院は、まだ何も決めていない。

 だからこそ――次がある。


 マティルナは、前を向いて歩き出した。


 学生として、班の一員として。


 次の訓練へ向かうために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ