いくさん
すぐ職員に連絡。しかし
「監督から
『その番号に変えるように。』
と急に言われて。連絡がまだだったのか?申し訳ない。」
と素っ気無い返事が。私のユニフォームに付けられていた番号は「193」。
『間違いではない。』
と言われた手前、着ないわけにもいかず翌日からのキャンプに参加。見慣れぬ番号に好奇な目が注がれる中、マスコミから監督に対し私の背番号に関する質問が飛ぶのは自然な流れ。そこで監督は
「うちの育成選手の3桁目の数字が『1』になる事はありません。実際、彼に与えられた番号もそうでありました。ただ彼が入寮しようとした時、とあるカメラマンが
『なんだ育3か。撮って損した。』
とその場でメモリーが消去された話を寮長から聞き
『これを利用しない手は無いな。』
と。もうお分かりですね?彼の背番号『193』は『育3』を意味します。今後彼の事を『いくさん』と呼んでやってください。揶揄の意味合いが強いと思われる方もいらっしゃるかと思われますが、選手は知っていただいてなんぼであります。いつかこの言葉が彼を象徴する。尊敬の言葉になる事を願い、背番号の変更を指示した次第であります。」
翌日からスタンドのお客さんに
「いくさん!」
と声を掛けられるようになった私。それだけで留まらずサインを求めて来る方も……。
「育成の私に何故?」
と聞くと
「あの時のカメラマンのような人たちだけではないのを知って欲しいから。」
との有難い声の中に
「いつかこれに価値が出るかもしれないから。」
と正直に答える方も。
「そうなるように努めます。」
と答え。
「いくさん!急ぐぞ!!」
と練習に戻る私でありました。




