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支度金

 入団交渉はとんとん拍子に進み、晴れて仮契約を結ぶに至った。会場は地元のホテル。新人選手には年俸の他に契約金が支払われる事が一般的に知られているが、育成選手にはそれが無く。代わりに支度金なるものが支給される運びとなっている。金額も数千万円から1億円と言った夢のような数字ではなく、300万円。少ない金額では勿論無いが、退職金と考えた場合……。支配下との差を実感する瞬間である。年俸についても230万円。野球をして、これより多くの金額を。実績の無い選手が得る事が出来るのは支配下登録選手だけと考えれば贅沢は言えない。むしろ恵まれた環境であると感謝しなければならないし、実際感謝している。

 まずは支配下選手に登録され440万円まで年俸を引き上げる事。そして一軍に昇格し、出場選手登録選手の最低年俸1600万円との差額を日割りで受け取る事。育成選手の入団後を見る限り簡単では無いが、プロ野球選手である以上可能性はある。これは紛れもない事実。好きな野球で生活を続けるためにやるしかない。

 そう考えていた私にプロ野球の厳しさを知らしめられる出来事が。それは何かと言うと私の背番号。支配下登録選手と区別するため育成選手の背番号が3桁になるのは承知している。問題はその背番号。私に提示された背番号。それは……前日に戦力外通告を受けた同じポジションの育成選手が付けていたものだった。

 調べてみるとこの番号は空きが出ると同時に入って来た次の選手に受け継がれて来たもの。空きが出る理由のほとんどが戦力外通告で支配下を勝ち取ったのは1人だけ。その選手も翌年には引退。覚悟して入ったとは言え……厳しい。

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