指名漏れ
会見場として用意された講堂は沈黙。幸い控室も兼ねた校長室に居たため、私の姿が撮影される事は無かったのだが……。
どうする?今更大学や社会人の目は無いぞ……。何故か?大学や社会人もプロ野球同様補強を目的に選手を集めている。そのため絶対そこへ行く。専願である事が進学ないし就職の条件となっており、プロ野球との併願は余程の選手で無い限り認められてはいない。故にエースは大学進学を早々に選択した。プロ野球からの評価も吟味した上で。
私はどうであったか?高い評価を幾つもの球団からいただいていた。
「上位では無いけれども指名します。」
と言っていただいた球団も存在した。これを受け大学からの誘いに断りを入れた上でプロ志望届を提出した。しかし指名は無かった……。何度も述べるが今から野球での進学就職は無い。可能性があるとすれば……。
東京大学。
あそこは野球推薦は無いが、東京六大学に所属している。入学する事が出来れば神宮の舞台に立つ事が出来る。相手はプロを目指す有望株ばかり。評価を高めるには打ってつけ。しかしうちの学校には指定校推薦の枠は無い。それに今から勉強を始めても現役での合格は難しい。1年でも早くプロで。と考えている身とすれば、その1年が勿体ない。それにあの大学は……プロ野球入団を目的に進学する所では無い。
幸いプロ志望届を提出しているので、プロ野球のファームチームや独立リーグに受験する事は可能。早ければ来年のドラフトに掛かる事も出来るし、実績も多い。しかしテストがある。競争は激しい。そこを勝ち抜かない限り、私の野球生命は断たれる事になる。
それよりも場所を用意していただいた手前、記者会見をしなければならない。この可能性がある事に気付いていなかった。もしわかっていたら
「あの映像は指名後に。」
と断りを入れる事が出来た。終わった事は仕方がない。今の気持ちを素直に話すべく校長室を出ようとした。丁度その時……中継映像から自分の名が映し出され、会見場は大歓声に包まれたのでありました。




