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香具師の話

とある香具師(やし)から聞いた話である。


彼は道具屋で「握力計」を二台買ってきて、これを元手にして露店を出した。金属の取っ手に円盤が付いていて、取っ手を握ると針が動いて数字を指す。食べ物を売るより仕度が楽だし、元手がかからず儲けやすい、という算段である。


夜祭の一角で「運を掴む手を見定める」と適当な口上を述べ、景品として飴玉や竹とんぼを並べていた。語り口のうまさもあって、里の民は面白がって足を止めた。


博麗の巫女が通りかかった折、代金はいらないから試してくれ、と呼び止めた。里を守る巫女に立ち寄ってもらえば、ちょうどいい宣伝文句になると思ったらしい。


その際、針は五十五を指した。人間の少女にしては飛びぬけて強いが、妖怪退治の巫女さんはそういう血統なんだろう、と男は納得した。ここまでは特に不思議でもない。


客は代わる代わる訪れていたが、人通りが一旦減った頃、背丈が六尺ある鬼が現れた。腰までの金髪で、額に赤い角が一本生えている。下駄を履いていることもあって、前に立たれると圧倒されて目が眩む思いがした。


鬼は片手に盃を持ったまま、「面白そうだ」と云って銅銭を出した。男は無視するわけにもいかず、銅銭を受け取って、測ってみなと声を張った。


鬼は計器の取っ手を握り潰してしまい、悪かった、と首を傾げた。返されたときには針が馬鹿になっており、取っ手もひしゃげて使える状態ではなかったという。


この鬼は、商売道具を壊した詫びだといって、男の傍らの徳利に酒を注いで去っていった。気を取り直して徳利に口をつけたところ、上等なようだが闇雲に強く、喉が焼けて頭がぐらぐらした。


徳利を置いて休んでいると、今度は十歳に満たない少女が近寄ってきた。薄黄色の髪で、七色に光るねじれた羽があり、この辺りで見かけない姿である。


銅銭ではなく、金色に光るコインを出して「コインいっこでいい?」と尋ねてくる。


男はコインを受け取って、無事だったほうの計器を使わせ、ぎゅっと握るんだといって聞かせた。


数字を読もうとしたところ、握力計は木端微塵に弾け飛んだ。ねじが足元に転がり、透明な覆いが砕け散った。


幼女は自分の手のひらを眺めて、壊れちゃった、と呟いた。男は背筋が寒くなり、怒ってないから帰りなさい、と竹とんぼを一つ持たせて追い返した。


男の手元には、握力計の残骸と、金色のコインだけが残された。


────


話を聞いた際、当時の握力計かコインがあれば見せてほしい、と頼んでみた。

握力計は使い物にならないから捨ててしまったし、コインは売って酒代に充てたという。どこまで信じるかはお前さん次第だ、と香具師は話を締めた。



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