白陶の椅子
博麗の巫女から聞いた話である。
食事どきには向かないが、里の習俗がうかがえるため、ここに記しておく。
霧雨魔理沙と行動を共にすることが多いが、この魔法使いはことあるごとに吐いている。
宴の途中でふらふらと立ち上がり、風を浴びてくると言い残して外に出ていくのは定番である。そのほか、幻覚茸を誤って食べたり、外から流れついた菓子や“レトルトカレー”を好んで食べるのも原因だろう。
薬売りの兎の話によれば、流れつく食べものは包み紙が鮮やかで好奇心をそそるが、いつ誰が作ってどこに仕舞われていたものか分からず、むやみに口にすれば中るらしい。
先日、二人で鍋を囲んだ折、魔理沙が里の露天で買った乾麺を放り込んで煮た。
魔理沙は「ラーメンというものだ」と得意げに語っていた。味は悪くなかったが、麺を持ってきた張本人は、翌日に食あたりを起こして寝込んでいた。
一日で治ったようで、ひどい目に遭った、と嘆きながら神社を訪ねてきた。久しぶりに命名決闘をしたところ、陰陽玉の当たりどころが悪く、腹に直撃してまた吐いていた。
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香霖堂の一角に、つるりとした白陶の椅子がある。
霖之助によると、外の世界の「便器」というもので、腰掛けて用を足す仕組みらしい。
そんな使い方をすれば中に溜まる一方で、しかもかなり重く、ひっくり返して捨てることもできない。どう考えても穢いが、本来は内側から水が流れ出て清める造りらしい。今は水が湧かず、中身は空になっている。
霖之助が「ここで吐かないでくれよ」と釘を刺したところ、魔理沙は「誰が吐くか」と顔をしかめていた。
補遺
里の民が用を足すときは、母屋の外にある厠を使う。
雨風の強い折や夜中には、外に出ていくと危ないから、尿瓶や桶を使うこともある。用が済めば蓋をしておき、夜明けに厠に運んで捨てれば咎める者はない。
ところが、日中からこれを怠り、家の中で済ませる者もあるという。
足腰が悪いわけでもないのに、昼間から桶を使うのは怠け者の仕業とされ、大用を足すのは特に嫌がられる。そうした者を里では「ものぐさ太郎」と呼ぶ。
ものぐさは一度始めると癖になるから気をつけたほうが良い。桶に用を足すのは気分の良いものではなく、結局は厠に捨てに行かねばならぬから、手間のうえでも損である。




