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腕比べ

里の集会所では、秋になると腕相撲大会が開かれる。

豊穣を祝うしきたりの一環で、稗田家の家令の爺が世話をしている。


祈祷や神楽は巫女の領分だが、里の民にとっては、強い腕こそが福を呼ぶらしい。優勝者には銘酒の一升瓶と、持ち回りの大盃「星熊盃」が授けられる。


例年は米屋の主人か石工が優勝するが、ある年、道具屋の店主、森近霖之助が参戦した。魔法の森の入り口に店を構える人妖である。


彼は騒ぎを好まない性質で、背丈は高くとも手足が細く、力比べに顔を出すのは意外に思われた。本人の話では、里の縁起物として名高い盃を、一度この手で確かめてみたかったらしい。


魔理沙によると。

梅雨入りの頃、雨に降られて道具屋に飛び込んだ折、店主が鴨居にぶら下がっていた。戸口から足先だけが見えたから、首を吊ったのかと思って肝を冷やしたが、よく見れば、懸垂の最中だったという。


梅雨の頃から体を鍛えていたとすれば、盃への興味が伺える。


当日はよく晴れており、腕比べのために広場に木の台を設え、里から八名が参戦した。決勝に進んだのは、昨年に優勝した石工と、道具屋の店主である。


石工は片肌を脱いで鉢巻を締め直し、威勢の良い言葉を吐いた。ここまで勝ったのは大したものだが、色白で書生のような()()だし、腕が折れないように気をつけたほうが良い、と。


観衆は手を叩いて盛り上がり、霖之助はしばし目を伏せていたが、静かに相手の目を見て「始めよう」と云った。


かなりの接戦の末に霖之助が勝ち、高揚した里の民に揉まれ、番狂わせとして天狗の新聞にも載った。


石工に「持ってけ泥棒」と囃されながら、朱塗りの盃をしげしげと眺め、銘酒とともに店に持ち帰った。


道具屋の一角に盃を飾れば客が増えるだろうと思われたが、客足は変わらなかったらしい。盃は非売品だし、途中の道で妖怪に遭う危険もある。わざわざ見に来る者は少なく、もっぱら店主が眺めて満足していた。


銘酒のほうは、優勝祝いと称して巫女と魔法使いが押しかけ、ほとんど飲み尽くしてしまった。


翌年の秋、店主は盃を返しに来て、その後は腕比べには加わっていない。非常に良い品で、里で大切に受け継いでほしい、という意向である。


──


腕比べの風習は、命蓮寺の妖怪にも広まっている。

寺の戒律で飲酒が禁じられており、勝っても酒は貰えないうえに、住職の聖白蓮には誰も勝てないという。村紗は「いつかは勝つ」とやる気を見せていたが、叶う日はまだ遠そうだ。

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