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豆鬼考

里の民の間に、追儺ついなとよばれる風習がある。

身近に不運が続いたときに、夜の路地に繰り出して妖怪を叩くのだ。親族が病に伏したり、家畜が続けて死んだり、商売で赤字が出たりすると、数人で竿や鍬を持って集まり、里を歩いている妖怪を叩き回して厄を祓う。


叩かれるのはたいてい地上の豆鬼(まめおに)である。角が生えていて見た目が妖怪らしく、空を飛ばずに地上を出歩き、幽霊と違って叩けば手応えがあるから狙われやすい。豆鬼は鬼の名を冠していても、大して強くはない。


実際のところ、豆鬼が厄をもたらすとは言い切れない。酒倉に入り込んで粕を盗んだ例はあるが、人を飢えさせたり病を移したりする動機はないだろう。そのような能力があるとも思えない。


しかし、幻想郷の形を保つために、妖怪は人間を襲い、人間が妖怪を退治することが欠かせない。巫女や魔法使いに頼らずとも、たまには自分たちの手で妖怪を懲らしめるべきだろう。


里の外に逃げていったら、それ以上は追わないのが約束である。去り際にあっかんべえをされたとしても、怒りに任せて追いかけてはいけない。夜に里の外に出れば、太刀打ちできない別の妖怪に襲われるかもしれないからだ。


叩かれたほうも、数日は姿を見せないが、七日も経てば以前のように夜歩きをする。


──


豆鬼は里の外れや山裾の掘立小屋に住み、黄昏時に里に降りてくる。


豆鬼というのは人から見た呼び名で、彼ら自身はただ「鬼」を名乗っている。宴の席などで呼ぶときは、豆をつけないのが礼儀だろう。額に一本か二本の角があり、背丈は人間の胸ぐらいと小柄である。


鬼は嘘を嫌うというが、彼らは平気で嘘をつく。「平気で」といっても、人間と同じくらいのものだ。

呑み屋で弱音を吐いたり、目上の者に媚びたりする姿もみられる。


雪の晩でも軽装で歩き回り、寒さに強いように見えるが、呑み屋の戸を叩いて「凍え死にそうだから酒が欲しい」と乞うこともある。総じて酒を好むようだ。


萃香によると、鯢呑亭で酒を呑んでいた折、豆鬼が訪ねてきて、夜道で叩かれたといって泣きついて来たらしい。ここに来る途中、何もしてないのに竿で打たれて罵られた。安心して外を歩けないから何とかしてほしい、という。


萃香はまともに取り合わず、人に叩かれたぐらいで怯える鬼がいるか、と酒の肴にした。


正統の鬼は陽気かつ獰猛で、同情を引くような振る舞いを嫌う。この点では、豆鬼のほうが人間に近い気質といえる。


彼らにとって、里は労働か呑み歩きの場である。

里で見かけるのは男の姿ばかりで、女の豆鬼はあまり人前に現れない。種族として男が多いのか、女は里での用が少ないのかは、定かではない。

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