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門番の休暇

紅魔館の門番が、休暇を貰ったときの話である。

門番の紅美鈴は館に住み込みで働いていて、門前の持ち場と自室を行き来する日々を送っていた。紅魔館の主が、同じことの繰り返しで煮詰まっていないかと気を配り、まとまった休暇を与えたという。


休み明けに無事に帰って来られるなら、どこに行っても構わない。土産話の一つもあると面白い、と主は話したらしい。


思いがけず休みを貰った門番は、何をしようかと考えて、寺に泊めてもらうことにした。

休みを貰っても帰る家はなく、仕事がないのに館を歩き回るのは手持ち無沙汰である。昼寝が好きであっても、数週間も寝てばかりは居られない。主の口ぶりからすれば、館に留まるのも期待外れに映るだろう。


里外れの命蓮寺は、妖怪寺として人妖のあいだに知られている。

住職を訪ねていって、しばらく厄介になりたいと頼んだところ、住職は快くこれを許した。



仏道の基本に、六波羅蜜という六種類の修行がある。

布施、持戒、忍辱(にんにく)、精進、禅定、智慧。

無益な殺生を慎み、苦難を耐え忍んで糧とし、たゆまず仏道を実践する、という教えであった。


命蓮寺ではこれに則り、腕立て伏せや走り込みが行われていた。

住職曰く、妖怪は活力が余りがちである。出家した信徒の中にも、寺を抜け出して酒盛りや喧嘩に興じ、挙句の果てには舟を沈めに行く者までいるという。坐禅や講話に加えて、体を存分に動かしてこそ、煩悩が払われて心は静まるのだ──と。


要するに、疲れさせて早く寝かせたいのである。


紅美鈴は、寺での生活によく馴染んでおり、水汲みや雑巾がけも進んで引き受けた。

何をやるべきかが明らかで、一日の終わりに湯に浸かって身を清め、夕食を摂って早めに眠る生活が性に合ったらしい。


門番の務めに不満は無いが、夜に物音がするたびに注意を払っており、眠りが浅くなりがちだった。寺に来てからは朝まで熟睡でき、昼のうたた寝も要らなくなったという。紅魔館では怠けている印象もあったが、環境が変われば別の顔が伺える。


毎日湯に浸かれること、夕餉に麦飯が山盛りで供されることに、彼女はことのほか感動していた。



紅魔館に戻ってきた美鈴は、主に問われて土産話をした。

境内に“ぬえ”という奇妙なものが居ること、住職の拳が鋼鉄より硬いと噂されていること、舟幽霊とタイヤ曳きの対決をしたこと、いずれも見聞を広める良い機会であった。泊めてもらった身で、山盛りの麦飯まで馳走になったのだ、とも語った。


話を聞いた主は、麦飯がそんなに好きなら炊いてはどうかと言って、厨房の片隅に飯盒を用意させた。

紅魔館の食事は薄焼きのパンが常で、体格のよい門番には物足りなかったらしい。



美鈴に休暇を与えた際、館の中では、不用心ではないかと案じる者もいた。門番がいない間、妖精メイドに警備を任せるのは心もとない。


しかし、実際には侵入者はなく、主が退屈するほど平穏であった。


門を破ろうとする者の多くは、金品を狙うというより、武術の腕試しを目的としていたらしい。門番がいないと知ると、あっさり引き返していった。話が通じて人間味があり、相手の命までは取らないから、負けて帰っても武勇伝になる。


その点、妖精メイドを相手にしては格好がつかない。大の男が小柄な妖精を叩き回すのは、どうにも絵面が悪いのである。

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