兎に聞いた話
迷いの竹林に、白髪の少女が棲んでいる。
名前は藤原妹紅といった。人と関わるのは得意ではないが、人間嫌いでもないようで、彼女に頼めば永遠亭まで道案内をしてもらえる。妖術を身につけた人間で、忍者の末裔という噂もあった。
住んでいる場所はわからないが、案外いろいろなところに顔を出している。最近では、茶屋で寺子屋教師とふたりで蕎麦を食べていたり、炭と物々交換で米を買ったりしていた。
永遠亭の裏手でごみを焼いたり、竹薮を切り拓いて歩きやすい道を作ったりと、一人で何かしらの雑用をしていることも多い。この作業には日当が支払われる。
以下は、因幡兎に聞いた話である。
永遠亭が診療所を始める前から、妹紅は時々屋敷に通っていた。屋敷の主である姫と仲が悪く、顔を合わせては喧嘩をしていたらしい。それ以外に目的は無い。
暴れ方も尋常ではなく、天井にまで血が染みつき、使い兎は後始末にたいへん迷惑していた。
当時の妹紅は、屋敷では何も飲み食いせず、お茶を出されても突き返していた。姫に向かって「お前の淹れた茶なんか要らない」と悪態をついたこともある。姫が淹れたものでなくとも、永遠亭で飲み食いするのが気に入らない様である。
診療所が始まってから、患者の送り迎えのために出入りするようになり、湯呑を手にして縁側に座る姿も見られるようになった。お結びと煮しめを竹皮に包んで持ち帰り、薮を切り払う合間に食べて、美味しかったと礼を云うこともある。
永琳にも以前ほど刃向かうことはなくなり、丸くなったと評されている。姫との喧嘩については、竹林の奥に空き地を見つけて、そこでやり合っているらしい。迷惑をかけすぎて追い出されては、仕事にも差し支えるし、余計な横やりが入るのは好まないのだろう。
因幡兎が小径を歩いていたとき、妹紅と輝夜が折り重なるように倒れているのを見つけた。どちらも動く気配はない。
悪戯好きな兎は、二人の白と黒の髪をより合わせて結んだ後、木陰で様子を伺っていた。目を覚ました二人は、もつれた髪を引っ張り合って喧嘩をしていた──と、兎は笑いながら話していた。




