第1話 起
なんかダークな話が書きたくなって、ChatGPTと雑談&サポート受けながらサクッと書いた作品。いつも以上に悪趣味なので許せる方のみどうぞ。
レースのカーテン越しに煌びやかな夜会の明かりが滲んでいた。
男爵令嬢、ガブリエル・ティーゲルは、袖口をぎゅっと掴んだまま、会場の端で立ち尽くしていた。何人もの華やかな貴族たちが、煌めく笑顔でシャンパンを傾け、甘い言葉を交わしている。だが、彼女の胸の内には、不吉な予感が渦巻いていた。
「ガブリエル嬢。お話があります」
声をかけてきたのは、彼女の婚約者――エミリオ・バリア。最近羽振りの良い伯爵家の嫡男で、彼と結ばれさえすれば、没落寸前のティーゲル家も立て直せる。そう信じて、ガブリエルは生きてきた。
ティーゲル家は元々、かつての戦争で徴兵され、武勲を立てた農民の先祖が貴族に任じられたという異色の家だった。
が、やはり腕力で成り上がった農民上がりという事もあり、領地経営のノウハウなんてなく、家計は常に火の車。
けれど、政略結婚で、言葉は悪いが婚姻相手の家に「たかる」事でなんとか食いつないできた家である。
……なまじ権力なんか持つものじゃない。何度そう思った事か。
「今日は……大事なお話があります」
その口調に、もう答えは出ていた。
エミリオは人垣の中央へガブリエルを引き連れ、声を張り上げた。
「皆様、お耳をお貸しください! 本日、私エミリオ・バリアは、ガブリエル・ティーゲルとの婚約を――破棄いたします!」
一瞬、場が凍りついた。次に湧き上がったのは、ざわめき。好奇と嘲笑、興味と期待。あらゆる視線が、ガブリエルに突き刺さる。
「ガブリエル嬢には、貴族の矜持というものが欠けている。知性も、品性も。なにより農民上がりの下賤な血など、我が家にふさわしくない」
そして、決定打。
「私は、真実の愛を見つけました。彼女とは違い、心から信頼し合える伯爵家の女性です!」
やはり、そういうことか。
なんとなく、察しはついていた。彼に別の女の影がある事は。
だが、まさかこんな公衆の面前で恥をかかされるとは……。
まるで世界が崩れ落ちたかのような衝撃に、ガブリエルは足元が揺れるのを感じた。だが、そのとき――
「待ってください、エミリオ様」
背後から凛とした声が響いた。
リサ・ハヴォック。ガブリエルに仕える侍女であり、幼い頃から姉妹のように育った存在だ。
「貴方が破棄を申し出る理由、すべて記録させていただいております。……浮気ですよね?」
彼女は手元の魔導録画石を掲げた。
「……なんの真似だ」
「本日の夜会以前に、件の伯爵令嬢と不適切な関係を持っていた証拠がございます。ガブリエル様との婚約中に、です。お許しを、あなたの屋敷にいくつか隠し録画石を仕込ませていただきました。いわゆる、盗撮というやつです。……しかしね、貴族の矜持に欠けていたのは、どちらでしょうか?」
ざわ……ざわ……と、周囲がまたざわめく。
「ふざけるな、そんなもの……!」
「ちなみに、彼女の方は婚約者がいることも確認済みです。大層嫉妬深くて、怖い方らしいですよ?」
その瞬間。
エミリオの顔が、見る見るうちに青ざめていく。
「馬鹿な……彼女は、許婚に先立たれたと……」
リサは一歩、二歩と前に出る。そして、にっこりと笑った。
「ガブリエル様は、婚約破棄など望んでおりません。ですが、ここまでコケにされては、当然、名誉毀損および婚約不履行による賠償を求めることになります……それに浮気相手殿の婚約者様からの追撃も。ご愁傷さまです」
エミリオはしばらく茫然自失としていたが、やがて、「逃げなくては……どこか遠くに」と呟くと、ふらふらとその場を逃げ去っていった。
「……ありがとう、リサ」
「当然のことをしたまでです。元は庶民とはいえ、私たちだって今は貴族。ちゃんと正面から戦えるんですから」
励ましの言葉に、ガブリエルは微笑み……その表情に、どこか虚ろな色が混じっていた。
そう。
彼女は心の奥底で思ってしまっていたのだ。
――これから、私はどうすれば良いの?