自分の“身体”?
「尊!尊!!ねぇ!しっかりして!」
「んっ・・・」
誰だ?
オレを呼ぶのは。
「千春!尊は!尊はいたか!?」
「流!早く!!」
五月蝿いな。
「尊!おい!大丈夫か!?」
「あっ・・・・?なが・・・・れ・・・?」
そうか。
流か。
加藤 流。
オレの親友。
医者を目指していて、家族も医者一家らしい。
そんなんで相当医学にも詳しい。
まあそれは置いておこう。
それどころじゃない。
オレが。
「何でこんな所で寝てんだよ!?とっくに昼だぞ!」
「ははっ・・・寝てたっつうか、気を失ってた感じ?」
「貧血か?顔色悪いぞ?」
「私も心配したんだからね!」
「ああ・・・ごめん」
そう言うと安心したのか、教室に戻ると言い出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・歩けよ」
ちょっと待て。
「貧血なんですケド。連れてってよぉー」
「死ね」
とか良いながら連れてってくれるんだよね。
しかし、教室行って神経保てるかな?
『自信ねぇのか?』
また出て来やがった。
オレは、流達には聞こえない程小さな声で呟いた。
「黙ってろよ」
『嫌だね。今度はお前が少し黙る番だ』
「はっ!?」
そこでブツリと何かが切れた。
「尊?どうした?」
支えてくれている流が、心配そうな顔で見ている。
『流ぇ。オレさぁ、保健室に行くわぁ。ほら、腕も怪我してるしなぁ』
オレがわざわざ隠していた腕を、大っぴらに掲げて見せた。
「なっ!?いつの間にそんなになってたんだよ!」
『さっきだよ、さっきぃ。ほら、予鈴鳴ってる。センセーに言っといてなぁ』
「分かった・・・」
渋々教室へと走って行く流達を見送りながら、一人ほくそ笑む。
『初めての体だぁ。まずは慣れだな。取り敢えずは包帯でも貰ってくんか』
ひたひたと廊下を歩く。
オレの意識はあるのに、体は言う事をきかない。
オレの体なのに、オレの“身体”じゃない。
アイツの体────。
『あ?まだ意識あったのかよ。五月蝿いから寝とけ』
そこで意識を本当に失った。
『さぁーて、ここからがオレの領域だ』
不気味な笑みを浮かべ、保健室へと繋がる廊下をオレは歩いた。
『失礼しまーす。センセェ?』
「あら?中島君じゃない」
出迎えてくれたのは、若くて綺麗な保健医。
「ちょっと!?どうしたの!?その左腕!早くいらっしゃい!」
左腕の異様な様子に気付いた先生は、オレを椅子へと腰掛けさせた。
「全く・・・。どうしてそうなったのよ?」
『少し転んでしまって・・・・』
「少し転んだだけでそうなるもん?まぁ良いわ」
疑いながらも手当をしてくれた。
『ありがと、センセ』
「はぁい」
それじゃ本題に入ろうかぁ?
『ねぇ、センセ?オレがヴァンパイアだって言ったら・・・どうする?』
「うーん、そうねぇ」
にこにこと微笑む先生。
『笑ってるけどさぁ・・・本当だよ?』
「えっ?」
驚いた顔がそそるねぇ。
『オレねぇ、すっごぉーく腹減ってんだよねぇ。先生、提供してくんない?』
「何・・・・を?冗談・・・よね?」
『うーん、本気だよぉ?だからくれない?血ィ』
じりじりと壁際へ追い詰めて行く。
『大丈夫。痛くしないしぃ。あるのはさぁ、快楽だ・け』
「やっ・・・中島君・・・・!止めっ・・・っ」
突き立てられた牙は、首筋へと埋まっていく。
目覚めてから初めて味わった、他人の血の味。
力が漲って来るのが分かる。
暫く血を貰った後、先生を椅子へ座らせた。
『ありがとう、先生。今日の事は秘密ね?』
先生は呆けたまま、頷く。
『じゃあね』
満面の笑みを浮かべ、保健室を去った。
『さて、力も出て来た事だし、これからは楽しい事がたぁーくさんだねぇ』
その時、“表”が起きてきた。
「・・・ろ・・・・やめろ・・・・」
『っあ?んだよ・・・出て来ようってかぁ・・・?』
頭が割れるように痛い。
『お前も・・・分かっただろう?・・・っ力がぁ・・漲るのを・・・・!』
「力なんて・・必要としてない。オレの“身体”だ・・・。返せぇ!」
『くっそ!』
オレが引っ張られる?
やっと好きに動くのに!?
でも、抗う力がない。
逆ラエナイ────?
「っは・・・はっ」
やっと裏から“身体”を奪い取った。
「っ・・・気持ち悪い」
気持ち悪い?
「・・・違う」
アイツの言う通りだ。
力が漲り、気分が高揚していた。
「やっぱりオレも化け物かよ・・・・!」
言いようのない絶望感がオレを襲う。
オレは一人、涙を流した。