6話
すっかり夜が明けたころ。俺は昨日話した通り奴隷市場に来ていた。偵察のために。
名前はドラヴァリス奴隷商館というらしい。中規模の建物だ。この大きさなら奴隷は100人ほど扱っていそうだな。
では、中の様子も確かめてみるか。扉を開け中に入る。
そこには広めの石造りの空間が広がっており、中央のカウンターに男が一人いた。受付のようだ。
「あぁ?なんだ?ここはガキが来るような場所じゃねーぞ。」
受付が俺をみるなり困惑した表情で言ってきた。まぁ、13歳かそこらのガキがやってくればそんな反応にもなるだろう。
「いや、俺は奴隷を買いに来た。金ならある。」
そういいながら持っている全財産を見せる。その金額はかなりのものだ。受付は驚いた顔をして少し考えこむ。
「ちょっと待ってろ。」
そういうと受付は奥に入っていった。やれやれ、子供の見た目だと困ることが多いな…。
そして約10分後、受付と共に男がやってきた。髭を生やして、黒革のロングコートを着ている男だ。
こいつ…かなり強そうだな。今までいろんな敵と戦ってきたからわかる。相当な場数を踏んできた奴の気配だ。
「こんにちは。嬢ちゃん…いや坊ちゃんか。俺はバルド・グラッツ。この店のオーナーだ。」
こいつがオーナーか。俺をジロジロと見ている。多分俺がどういった人間か見定めているのだろう。子供だからって油断していない目だ。内部の情報を探ろうと思ってたが、この男を出し抜くのは難しそうだな。
「さっきは受付が失礼したね。金さえありゃあ誰でも奴隷を買えるよ。今日はどんな奴隷をお望みかな?」
「どんな奴隷がいるか見ることはできるか?」
「かまわないよ。基本ウチでは亜人と獣人を扱っている。ついてきな。」
そのまま下の地下室へと案内される。
そこには複数の牢獄があった。中には当然奴隷たちが入れられている。不潔で傷だらけだ。かなり劣悪な環境のようだな。
通常、奴隷制度ができた時は、その奴隷の扱いについても規定が定められる。奴隷だからと言ってなんでもしていいとはならない。だがここといい町といい異種族たちは家畜以下の扱いだ。
どうやらこの国にルールはないらしい。
そのままあたりを見渡しているとひとりの獣人の女と目が合った。
猫耳と尻尾がついており、長めの銀髪をしていた。
絶望しきった目をしているな。だが、体は他の奴隷と違い健康的だ。最近捕まったのだろうか。
「ん?そいつがお望みか?」
バルドが話しかけてくる。
ふむ、どうするか。ここには偵察しに来たんだが、さっきからこの男にほぼ見張られている状態だ。これ以上できそうなこともない。となると、奴隷を購入して、その奴隷に話を聞いてみるか。もしかしたら内部の情報をもっているかもしれない。
戦力にもなればより良いな。だが、そうなると女より男の方がいい。
「いや、もっと健康的で、できれば男の奴隷が欲しいんだが。」
「男か。ならこっちに来な。」
そういってバルドと共に別の部屋へ移ろうとしたとき。
「グアアアァァッ!!」
女獣人が叫びだした。じっとバルドを睨みながら。その瞳は鋭い殺気をはらんでおり、強い憎しみを抱いていることがわかる。
しかしバルドは全くひるまず、女獣人の牢屋に足を突っ込み、女獣人を蹴り飛ばした。
「ガハッ…!」
「誰を睨んでんだ屑が!獣人風情が調子に乗ってるとぶち殺すぞ!」
蹴られた女獣人は血を口から流しながら、なおバルドを睨んでいる。
それにさらにイラつくバルド。
「てめぇ、いい度胸だ。今日はたっぷり遊んでやるからな!覚悟しろよクソ獣人!」
「待て。」
「…あ?」
「この獣人を買わせてくれ。」
ノアが口を挟んだ。それに対しバルドはイラついた表情で答える。
「悪いが…こいうはちょっと調教が足りてない。他のにしてくれ。」
「金はやる。」
そういいながら傭兵共から集めた銀貨を全て渡す。その金額は小さな家を1軒買えるほどだった。
バルドは目を丸くして少し考え込んだ後。
「ふん。いいだろう。まったく物好きなガキだな。手続きをするからついてこい。」
そのまま奥の部屋に案内される。
その部屋で手続きをこなしながらノアは考えていた。
あの獣人は使える。あの殺意と憎しみは、この奴隷商館を潰す最高の協力者になるだろうからな…。