5話
傭兵達を皆殺しにして約3時間後。ついに森を抜け、ガバゼウラ国の町ヴァリンドールを視界にとらえた。
この町に来るのは初めてだが、確かにガバゼウラの国境内だ。どうやら、本当に帰って来たらしい。面白いことに、英雄だったころはあんなに愛おしかったこの国が、今は不快でしかない。
さて、ではヴァリンドールに入るか。だがその前に、異種族の奴隷制度ができたと言っていたな。今の俺には尻尾がついている。ふさふさの犬のような尻尾が。これで変に目を付けられると面倒だ。
ブチッ
ノアは尻尾をむしり取った。傷口から出血するが、そのまま服で隠した。
よし。これならどこからどう見ても、ただの人間の少年だ。亜人だとバレることは無いだろう。
では行くか。
そのままヴァリンドールの城門の前まで近づく。すると門番が話しかけてきた。
「止まれガキ、通行証を見せろ。」
「持ってない。」
「あ?なら入れない。というかそもそもお前どこから来たんだ?」
「通してくれ。」
懐から銀貨三枚を取り出して門番に渡した。この金は先ほど殺した傭兵たちから得たモノだ。
「ふん。さっさと行けクソガキ。」
「どうも。」
ヴァリンドールに入り、あたりを見渡す。
非常に賑やかで活気に満ちている。商人たちの声が飛び交い、馬車の車輪が石畳を鳴らす音が響いている。
「ふむ、まぁ普通の町と言ったところか…ん?」
その瞬間、ノアは足を止め、視線を向けた先に目を奪われる。
「…。」
そこには異種族に対する差別が広がっていた。虐待され見世物になっている獣人。『反抗奴隷の末路』と書かれた看板を掛けられた亜人の死体。そのすぐ横を、人々は笑いながら通り過ぎていく。まさに地獄だった。
ノアは転生後初めての衝撃を受けた。今朝の傭兵たちのように、一部が異種族を虐げるのはまだ理解できる。だが、民衆までもがそれを受け入れている。当然のように。その現実にノアは言葉を失った。
少ししてようやくノアは我に返った。
そうだった。こいつらは上が言えばそれに従うだけだった。俺に糞を投げつけてきたもんな。処刑を喜んでいたもんな。
はぁ…。バカだなぁ…
「お前らも殺したくなってきたよ…。」
ノアは口元を歪め、いつもの邪悪な笑みを浮かべる。
だが、すぐさま諫め表情を戻す。
ふぅ…落ち着け。流石に今ここでやるわけにはいかない。リスクが高すぎるからな。
ふと上を見上げると、空は茜色に染まっていた。もう夕方か。
今日はとりあえず宿でも取って、これから何をしていくか考えよう。
10分ほど歩いたところで、ちょうど手頃な宿を見つけた。そのまま中へ入り、一部屋借りることにした。
ドアに鍵をかけ、ベッドに腰を下ろす。そして、道すがら買ったリンゴをひとかじりしながら、思索を巡らせる。
さてと、これからどうしていくかを考えるか。
まず、俺の目的は5勇者共、そしてヘレンの件に関わっている奴らの皆殺しだ。
だが正直、5勇者には敵わないだろうな。なにせ元々強かった奴らが俺の能力と魔力を得たんだ。ほぼ無敵だろう。
だから俺は強くならないといけない。幸福なことに俺には《天印の恩寵》がある。殺せば殺すほど能力と魔力を奪って強くなれる。
つまり、俺のやることは簡単だ。殺す。ひたすら殺す。人類最強に戻るまで。
またリンゴをひとかじりし、枕に頭を乗っけて天井を見上げる。
次の瞬間、少年は無邪気に笑った。
「ぷっ!あはははっ、なんて笑い話だ。人類を救った英雄が、大量殺人鬼に転生とはな。あはははは!!腹がいてぇよ!」
涙が出るほど笑った少年はいったん呼吸を整えた。そしてまた考え始める。
ふむ、では次に考えるのは誰を殺すかだが。正直これについてはもう決めている。
奴隷商達だ。
おそらくヘレンの村の襲撃を依頼したのもこの町の奴隷商だろうし。また、今日見た民衆共の奴隷の扱いも気に食わない。
この町の奴隷市場を潰してやる。まぁ、どれくらいの規模かわからないから完全につぶせるかはわからないがな。
具体的な計画は見てから決めよう。
では、明日に向けて寝るかな…。