唾液のあと
口の中が汚らわしい。そう思いながら道端に唾液を吐き出しながら佐和子は帰宅していた。
何度経験しても幾度となく交わした好きでもない男との接吻は、佐和子にとって膣に棒を入れることよりも汚らわしく感じていた。
それは性病の懸念でもあり、同時に源氏名から佐和子に戻る行為だったからだ。
盛り上げるため、相手に金を払わせるため、そのためだけの接吻ならば幸恵も唾を吐き出すだけで済んだ。
しかし、頑張る目標を失った佐和子にとっての消化試合の接吻は、必ずしも結果を与えてくれるものでは無かった。
売春を終えたあとの帰り道、佐和子は牛丼屋に向かった。食事は何でも構わなかった。帰宅後すぐにうがいをして、やすびれたお茶を飲み、入浴を済ませて一目散に牛丼を食べた。半分しか食べられなかった。舌の感触が残る口の中、思い出せば佐和子から1つ単語が落ちる。少しずつ蝕む行為をやめないのは、佐和子の借金が原因だ。詐欺被害にあったあの日から、佐和子は単語をひとつずつ鈍化させる。同時に過敏になる舌先を今すぐにでも切ってしまいたい。死にたいのではなく、佐和子は佐和子を保ちたい。ただそれだけだった。