2.授業
「.........................」
教室に入った瞬間、隠すつもりもないのか私の悪口がそこら中で囁かれている。
いや、まあ、言いたい気持ちは分かる。魔法使えないのに何でここにいるんだよおかしいだろ........って。
そもそもここは魔法学校であるし、そんな中で魔力が0の私が平然と通ってるってどうかしてるわよね。
だがしかし、私はここでさらに魔法の研究を進め、最高の魔法を創ってみせるのだ。こんなところで辟易しているわけにはいかないよね!
えーと、席は............よっしゃあ、一番後ろだ!内職し放題!いや、やる気ないけど。
単純に私を見るなら振り向かないといけない。授業中にそれは不自然な行為だ。つまり、私は見られないということ。悪意のある視線を向けられたりはしないということ。.................今のように。
チクチクチクチク視線が刺してきて結構ツラい。どうにか自分の席まで辿り着いたときには、既に満身創痍であった。
「.................」
「.........ヒェ」
隣の人と目が合ってしまった。まだ幼さの残る少年で、黒髪に.............深い青色と、新緑を思わせる緑色の瞳。どうやらオッドアイらしい。
顔は整っているが、むすっとしていて少し怖く見えてしまう。切れ長の目も、それを増長させている原因の一つなのだろうか。きっとそうだろう。
思わず悲鳴が漏れ出てしまった。しかし、先程まで感じていたような視線ではなく、幾分か柔らかいものだ。例えるなら...........古参が新参を「なんだ、新入りか?」というように見つめるような、そんな感じ..........って、あなたも新入生ですよね。
「.........................................」
先程から無言でこちらを見つめてくる。無表情でやられるの怖いからやめてほしい。えーっと、取り敢えず、愛想笑いだ!
ぎこちなくにっこりとした顔を作ってみると、少年は少し目を見開き、その後ふいとそっぽを向いてしまった。嫌われたのか何なのか知らないが、取り敢えず視線からは逃れたからよし。
*
授業の内容を聞いていて、不思議に思うことがあった。
(この式、やっぱり無駄が多いよ。ちょっと弄ってあげるだけでグッと魔力消費が収まるのに。)
まあ、使ったことないからわからないけど__________と、自嘲的に笑ってしまうのは仕方がないだろう。
殆ど平民だと宣告されているようなモノなのだから。俗に言う、「忌み子」的なやつだろう。
(なんか、レベル低くない?こういっちゃ悪いけど。)
それに、自分の独学の知識よりはるかにレベルが低い。一応名門校なんだけど............
「___________________で、ここを__________...........」
(なんて無駄の多い式!)
流石に堪えきれなくなり、手を上げてしまった。小太りの中年位の教師が反応する。
「どうされましたかな?」
「先生_______________」
困惑した顔で私を見る生徒たち。静まり返った状況の中で、私は声を張り上げた。
「________その式、無駄が多すぎです!」
『.........................................は?』
全員の声が揃った。無理もない。彼らにとってはものすごく高度でコストも最大限にカットされた強力な魔法術式だからだ。
「ど、どういうことですかな、カドール嬢。」
「失礼しますね。」
ずかずかと黒板の方に歩み出る。悪意ある視線は受けなかったが、代わりに驚きと困惑の眼差しが向けられていた。
私はチョークを握りしめると魔法陣の一部分を消して書き直し始めた。
「________________ぁ、ここは_______________」
「何をしているのですかな、カドール嬢!最高の魔法式をそんな風...........に.................ぃ.......?」
教師の声がだんだん尻すぼみになっていく。彼には分かるのだ。
この魔法式が恐ろしく性能を上げていることに。
「__________________っと、できた。..............これで、魔力消費は十分の一ほどに抑えられますし、威力も二倍ほど上がるはずです。やってみていただけませんか。」
「あ、ああ、はい..........」
教師が床に思念で魔法陣を描く。それが光ったかと思うと、ボンっと先程教師が手本で見せた爆発魔法よりも圧倒的に威力の上がった魔法が発動された。
「す..................」
『すっげぇぇぇぇ!』
生徒たちもいつもの紳士淑女はどこへやら、目を見開き大口を開けて感心している。
「...................まぐれですわ。」
「魔法もろくに使えないくせに、生意気な」
その後ろで苦々しげな顔をしている一団がいることに誰も気付くことなく、驚きと興奮で満ちた授業の時間は過ぎていった。