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23.てめえはクファールをわかっちゃいねえ

 急遽襲撃犯迎撃に向かった一派だが、ラハイの追跡と違って確たる手掛かりはなかった。仲間の仇がすぐ近くにいると耳にして湧いた衝動、手にした火器へ寄せる自信、多対一の戦力差を根拠にする心強さが、ディヤーブ・ラハイ間を結ぶ経路上に襲撃犯がいるだろうという漠然とした見通しに無根拠の確証を与えていた。車両はあらゆるチェックポイントを押さえるように分散し、いつしか一両一検問を受け持つようになっていった。


 内、一台がイムティヤーズとすれ違う。


「あれだ! 引き返せ!」


 悲鳴に焦がれたドリフトで路上に黒い線を引きUターン、対向車両に横っ腹から体当たりし、白い煙を残して急加速する。イムティヤーズはその様子をサイドミラーで確認済みだった。カーナビ代わりのスマホをコートにねじこんだ。


 運転手が散らばった仲間に現在位置を伝える裏で、中部座席の二人が窓から身を乗り出し、サンルーフからも一人、自動小銃を構える。


 イムティヤーズがバイクをいななかせる。車体を傾斜させると同時に、組員の弾丸が元いた路面を穿ち、経路上の空を貫く。射線上の一般車両のリアウインドウに着弾。パニックを起こして蛇行、減速。イムティヤーズは更に加速し、一般車両の脇を抜けて前に出る。自動拳銃を抜き、フロントガラスに射撃を見舞う。亀裂が全面に広がり、視界を塞がれた車両がコントロールを失う。スリップし、横転した車両が、追っ手の車両を襲う。


 間一髪で避けた先でも、同じ運命に見舞われた一般車両が火花を上げて道を滑って来る。


「こいつやりたい放題かよ!」


「見失った! どこ行きやがった!」


 追っ手が通り過ぎたビルの谷合から、ヘッドライトがぎらついた。イムティヤーズが追う側に回ったことに気づいたのは、サンルーフの一人。目が合った瞬間に眉間の風通しが良くなった。サイドミラーに運転手が目を配ったときには、バイクは横づけされていた。


「いたぞ!」


 どこに、がまず口をつかなかった時点で手遅れだった。


 バイクをオートパイロットに変更し、イムティヤーズは車両のサイドステップに足をかけていた。鼻息荒くバイクの影を探っていた左中部座席の男の首を背後から左腕で絞め、反応が遅れた後部のもう片割れを二発撃ち、懐から拳銃を出した運転手へ二発お見舞いする。耳元の爆音と発光に怯んだ男の頭に銃口を当て、一発。四体を乗せた霊柩車と化す。瞬く間に行われた一部始終であった。


 四人目から力が抜け、ぐったりと窓枠に干された。だらりと指に引っかかるだけの自動小銃を奪う。


 並走するバイクのテールランプが割れた。オートパイロットが回避行動を取る。発見報告に駆けつけた別同車両が二台、追走に加わっていた。仲間の車両の異変よりもバイクに注意が向いている。イムティヤーズの頸がチリついた。敵の照準が合う。


 上体だけ窓をくぐらせた。ドアロックを解除後、外のノブを引いて全開にしたドアへ、壁のカエルのような姿勢で身を隠す。紙一重だった。干された死体の尻がハチの巣になり、着弾の衝撃で媚びるようにブルブル尻尾を振る内に、死体は窓枠をずるりと滑り落ちた。路面に叩かれて僅かに柔らかくなった肉塊を、後続車が踏み越えて来る。


 前ドアのガラスを自動小銃で破り、ロックを解除。アクセルをベタ踏みし、ハンドルを上体で固定していた死体を車道に捨てる。代わりにイムティヤーズは運転を引き継いだ。三台目がカーチェイスに加わった。


 乱射がサイドミラーに命中した。バックミラーで敵の位置を確認する。右側車両は射撃手二名、中央に一名、左側に三名。バックドアのガラスに二つ、三つ、クモの巣状のひびが走る。四発目が命中し、粉々に砕けた。五発目がヘッドレストをかすめ、クッションが散り散りになる。その衝撃で延髄を小突かれ、イムティヤーズは悪態をついた。バックミラーも流れ弾の餌食になる。


 左に大きく一回、車体をスラロームさせる。進路を戻すと、中ドアが慣性で閉じた。今の運転に対して左側車両の反応が甘い。こいつが最初だ。


 片手でハンドルを操り、左側車両の前に陣取る。半開きにさせた前ドアのヒンジを小銃で撃ちまくる。破損し、本体から分離したドアは追跡車両の運転席を目がけ、縦回転で勢いを増しながら車道を不安定な軌道で跳ねた。運転席へドアが飛びかかる。ドアはギロチン刃のようにフロントガラス周辺をひしゃげさせ、深く食いこんだそれは、運転手を腹開きの魚とそっくりにさせた。


 残り二台がひるんで、銃撃が止んだ瞬間。急ブレーキを踏んだイムティヤーズの車に元中央車両が衝突し、両者のエアバッグが膨張した。敵の車両はボンネットがひしゃげて減速する。追突車の運動エネルギーを奪えるギリギリのタイミングを測り、イムティヤーズはエアバッグを破ってアクセルを全開にする。


 急ブレーキ直後とは思えない急加速だった。右側車両と並走。自動小銃で射撃手を威嚇しながら歩道側に車体を押す。不意を突かれた敵車両は成すがままに歩道に乗り上げ、街灯へ正面衝突する。エンジン部を大きく凹ませ、街灯をなぎ倒して停止、炎上する。


 すかさず残り一台の前を取る。左の急ハンドルでイムティヤーズの車はスピン、左側面、ドアを失った運転席側から後続車と対峙する。自動小銃のトリガーを握る。弾切れと同時に放たれた弾丸はボンネットの隙間へ吸いこまれ、火を噴いたと思った瞬間に爆発した。


 ボンネットが空高く、魔法の絨毯のように飛んだ。


 車両は一回転し、そのまま走り去ろうかというときに、酷使したタイヤがパンクした。「締まらねえなあ」とイムティヤーズはぼやく。スマホの遠隔操作でバイクを呼ぶ。小銃を棒代わりにアクセルを踏ませ、シートと固定。頭の悪い自動運転に車を預け、後部座席に残った死体から新しい自動小銃一挺を拝借する。


 同時にサスペンションから悲鳴が聞こえんばかりの荒い運転のが五台、跡をつけて来た。


「いい加減うぜえンだよボケ!」


 もう一挺を拾い、得物を両脇に構えてバックドアを開く。射線が通るだけの隙間ができると同時に引き金を引く。ヒンジが一部破損していたのか、上に開くと同時にドアが傾いた。


 弾を水平にばら撒く。敵の足並みが乱れ、すぐさま車間が離れた。嫌に歯応えがない。


 銃声を浴びた耳鳴りが引いて、何か別の長鳴きを耳にした。違和感を残しながら、進行方向に向き直る。ヒュッ、とイムティヤーズの息が引っこんだ。交差点を大型トレーラーが横切る只中、衝突目前である。


 遮二無二、バックドアの残りのヒンジを銃撃する。車道に剥落した部品に続いてドア本体が落下し、火花の軌跡を描いて道路を滑る。イムティヤーズがそれに飛び移った直後、強奪から瞬く間に使い潰した強奪車両がトレーラーのコンテナ部へ激突した。


 ドアをスケートボードのように操るイムティヤーズ。乗り心地は最悪だが、足腰のバランス感覚は上半身が全くぶれないほど巧みだった。体重移動で世話になった車両を回避し、膝を折って仰臥する。ドアとイムティヤーズを足した厚みは、衝撃で傾いたコンテナ部下をギリギリ潜れるほどしかない。火花の尾はコンテナの下へ滑る。


 その先の隙間は閉ざされていた。が、反動でコンテナが逆に傾く瞬間は必ず訪れる。隙間が開いた。出口がある時間は、一瞬にも満たない。イムティヤーズは自動小銃一挺をジャッキ代わりに噛ませて、その一瞬にも満たない時間をこじ開けた。


 追跡者たちが次々にコンテナの壁を前に諦める中、火花の尾だけが、針の穴にも等しい道を潜りおおせようとしていた。ジャッキ代わりの銃が折れ、道が閉じる。コンテナ部の縁はイムティヤーズの胸の曲線すれすれを撫で、このままでは顎に当たるというところで横を向いた。縁がぷるんと耳をかすめる。


 紙一重の成功だった。減速したドアの上で、イムティヤーズはしばらく上の空でいた。俺、何してんだっけ……。おっぱい残ってんよな? と、自らボディチェックを施した。


 エンジンを吹かす音がしたかと思うと、無人のバイクのヘッドランプがすぐ傍で見下ろしていた。


「いやよくついて来れたな」


 シートをポンポンと労うように叩いて、イムティヤーズは相棒に跨った。いななくバイクはテールランプの破片をキラキラと散らし、夜の街に溶けて行った。


 そして暴走車両はというと、五台目の追っ手とフロント同士で衝突。仰向けになったのにも気づかないでホイールを回していた。


 ラクダのバハドゥルの脚が落ちてきた。追っ手は隊列を組み直す際に距離を離したものの、すぐに間を詰められる。銃撃が薄くなったとはいえ脅威は相変わらず、渋滞情報やカーチェイスの情報が回ったのか、遮蔽物になるような車両もまばらになってきた。空港はまだ遠い。


 気張れよ、相棒。ラハイが心で祈る。


 祈りが通じたように、射撃がまばらになり、尻切れに止んだ。弾切れか? 都合の良い疑問に緊張が弛緩した瞬間、ラハイたちの真後ろと両横に、ぴたりと追っ手の車がついた。もう一台が大回りで接近して来る。前方を塞ぐつもりか。


「ラクダの足元見てくれちゃってえ!」


 車内で人相の悪い連中が、もう撃つぜだの、前を塞ぐまで待てだの、言い合う怒声が風切り音が細切れにしている。「この鈍足がランクルを抜くなんてあり得ねえ! 俺あ今弾く!」銃身が照明を受けて鈍く瞬く。口はラハイに向く。手綱を握る手が強張った。


 火薬が続けざまに弾けた。


 嵐が通り過ぎるのを待つように、ラハイは目蓋を結んで歯を食い縛り、うつ伏せになっていた。銃声が長い。この距離で当てらんねえのか。そこまで思ってようやく気づく。銃声はもっと後方から出ていた。


 一台のバイクが追っ手の車の後輪を撫で撃ち、ラクダを囲む三台をチェイスから脱落させたのだ。続いて前に回る四台目……は、弾切れ。脱落した三台でまた複数台が巻き添えになった。


 空回りした機構にイムティヤーズは舌を打ち、バイクを加速。狙われていることに気づいた車は応戦を試みるが、不意打ちに理性が乱される。出そうとした銃身を窓枠につっかえさせてしまい、もたついた。


 後方で追跡中の一台から、射撃手が身を乗り出した。その肩を同乗者が引き止める。


「何しやがる!」血の気の多い方が吠え、「仲間に当たる!」と冷静な方が叱咤した。


 その隙をイムティヤーズは見逃さない。フェンダーアーチと後輪の隙間へ目がけて、弾切れした自動小銃の銃床をねじこんだ。とてつもない反動で身体が浮きかける。バイクから落車する、その寸前でイムティヤーズは筋力とマシンサポートで強引に持ち直した。膝のサポーターが路面に削れる。小銃が完全に駆動に噛んで車両の後輪が止まる。蛇行、横転する車両を尻目に、今再びバイクと黒い風になる。


 計四台の脱落に巻きこまれ、後続車両の多くが追突。走行不能となる。一台から出火、炎上すると、爆発は連鎖し天を焦がす爆炎の塔を築き、逃走者たちの背へ灼熱の追い風を送った。


「ラハイだな。カードを寄越せ」


 並走するバイク乗りが有無を言わせぬ口調で言い渡す。ラハイが女を指さした。


「あー、イムちゃん?」


 前人未到の奥地のワイルド美女めいたたたずまいから、クソガキがヘソを曲げたような顔ができるとは思っていなかった。その手にはピンを抜いた手榴弾型対戦車擲弾。おまけに追っ手の銃撃も再開された。


「待ってごめん早まらないで」


 イムティヤーズは擲弾を後方に投げる。カンカンとアスファルトを跳ねて潜ったのは追跡車両の直下。大爆発は車体を浮かし、鯖折りにせしめる。直前のガソリン炎上にも匹敵した。炎をまとった残骸、恐らくホイールタイヤが、ラハイたちの頭上を越えて、進路上でバウンドする。


 爆炎を踏み越して、追跡の手は止まない。


「キリがねえ」


 バウンドし、減速した火の手をかわしつつも、生きた心地のしない二人と一頭に、黒い死神が並走する。銃声飛び交う源に、二発目の擲弾を見舞う。


「アリーシャのお人好しに免じて守ってやる。命をカードで買えるなら安いもんだろ」


 絶句を無理矢理開くラハイ。


「ぃいーや、高い。お高いよ、あんた」一語でも出れば、口先が温まった。「人殺しの次はテロリストかい? そういうのに僕の金が使われるの、我慢できないんだよねえ」


「減らず口かよ。それともセコい悪党なりにポリシーか? 金のカードを握っているのはてめえだが、交渉のカードは俺のもんだ。つまりどっちも俺ンだ」


「違う。交渉のカードは」自動小銃の弾が空を裂く。ラハイがビビる。「今のを弾いた連中がね」


「ゴミ浚いどもの流れ弾がどうしたって?」意味を掴みかねるラハイに補足する。「銃声の割にこっちに来る弾が少ねえだろ」


 撃鉄に弾かれたようにラハイが振り向く。後方では泥沼の戦場のごとく銃撃が止まない。しかし、マズルフラッシュの向きはバラバラだ。


 仲間同士で撃ち合っている。


「また仲間割れか……?」


 イムティヤーズが嘲り笑る。仲間割れのように見えた銃撃戦は、黒服と、見るからにみすぼらしい者たちとの間で繰り広げられていた。


「てめえはクファールをわかっちゃいねえ」


 隙あらば奪う。落ちていればくすねる。人目がなければあるだけ盗み、何はなくとも因縁をつける。クファール最貧層の素行の悪さは尋常ではない。事故車があると聞きつければ、集まるに任せた見知らぬ他人同士でも力を合わせて車を起こし、パンクしていようが構わず、エンジンを酷使して走らせる。おまけに銃器がしこたま積んであるとくれば大儲けのチャンスだ。彼らはそう考える。


 この日、立て続けに起こった事故は、彼らにしてみれば、アル=バウワーブの車両と一般車両のバーゲンセールだった。その内、ゴミ山の物を使って、間に合わせでパンクを直すと豪語する者まで現れた。勿論、金を払えばである。いわば事故特需。バイタリティと直感、そして悪知恵で生き抜いてきたアウトローたちの異様な経済活動が、道々で繰り広げられたのだ。


 小さな一台にすし詰め、曲乗り。ほとんど世紀末じみた装いのオンボロ車が、この小一時間の事故の数だけ群を肥大させた。威嚇も何もあったものではない、ただの景気づけで銃を乱射する。今日は大漁だ。次の獲物はねえか。彼らの盛る欲を、擲弾の爆発音が挑発する。誰かが襲撃を提案すると、満場一致を見る前に、誰が乗って乗り遅れているかもわからないまま、我先にと軒並み発車するほどだった。


 ラハイたちの逃走時間に対して、アウトローたちとの距離は近い。直線距離を走るアウトローたちはすぐに追いついた。弾避けのために蛇行し、遠回りを繰り返したことが功を奏した格好である。


 気が大きくなった命知らず――この街で最も飢えた人間からすれば、プライドに泥を塗られ、気が立つあまりに周りが見えていないヤクザ者は、思いがけず狩りの射程に入った極上の獲物であった。


 アル=バウワーブ一家は彼らに目をつけられたが最後、追跡どころではなくなっていた。背後から、真横から、無暗に撃ちまくる馬鹿が襲って来るのだ。馬鹿に仲間意識はない。射線には配慮がなく、背中から撃たれる連中も少なくない。なのに、襲撃を緩めない。そのくせ、屋根から屋根に飛び移る野郎が出れば、声を一にした鬨の声と乱射で喝采を上げる。たった今称えたそいつが、車両同士の体当たりで落ちても咆え猛る。


 次々に車は減速し、揉み合いの大混戦へと転落する。さしもの飢えた馬鹿どもから見ても、ラクダやバイクは目の前の獲物ほど魅力的ではない。車の群はもはやヘトヘトの競争ラクダ以下の速度しか出せておらず、ラハイとイムティヤーズはぐんぐん距離を離していった。


 路肩に停車が並ぶばかりの、静かな道をひた走る。


「これで交渉カードは俺ンだな?」とイムティヤーズ。


「でも殺せないんだろう? ()()()()()に嫌われたくないもんねえ?」


 ンなあだ名じゃねえよ。イムティヤーズは鼻で笑った。「この仕事は引き継いだ俺のもんだ。態度を変えるつもりがねえなら、手荒にしたって構わねえ。アリーシャみてえに甘く見んじゃねえぞ」


 氷の手が魂を掴むように、霜を降ろす声だった。凄んでまで懐から出したのが、小さなナプキン包みでなければ様になっていた。ラハイは噴いた。


「何だそりゃ。ハンカチ振ってお達者で、ってか?」


「寝ぼけてんのか。さっきのはラクダに言ったんだよ」


 包みを解いだ瞬間、ラクダが目の色を変えた。イムティヤーズはブレーキを握る。何故減速――ラハイが思う間もなく、バハドゥルが急減速しイムティヤーズの元へ駆けていく。手綱も利かない。イムティヤーズはバイクを降りて、がっつくバハドゥルの鼻面を押さえながら「路地裏に行ってからだ」と誘導する。


 人けのない場所に着くと、開いた包みをバハドゥルに差し出した。バハドゥルはしきりに中身の匂いを嗅いで、全速力で走った疲れを荒い息に乗せている。息に煽られ、包みの中身が舞い上がる。


 ラクダの餌にもなるという、ハズレ券の紙吹雪だった。


「唇の動き、キモ」と悪態ついて餌をやっているものの、イムティヤーズはまんざらでもない。だが、ラハイを見上げるや切り替えて「カード寄越せ」と催促した。


 ラクダの上からラハイが見る景色は、普通よりも少し高い。バハドゥルの足を止めたのは、半端な悪党どもが大枚叩いた自慢の武器ではなく、一銭にもならない夢の残滓である。ラハイはおかしくて息が詰まる羽目に遭った。


「きっ、君ら、血も涙もあるのかないのか曖昧だねえ!」


「俺の真似すんじゃねえよパクリ野郎!」


「何の話い!?」


 なあ、降りて良いのか。尋ねるターイウを先に降ろすと、道の隅に急ぐ。その襟首をイムティヤーズが掴んで止める。


「二手に分かれて逃げる気じゃねえだろうなあ?」


 振り向くターイウの顔は青く、頬がパンパンに膨らんでいく。察したイムティヤーズは蛇蝎の如く、半ば投げ飛ばすようにターイウの背中を押す。胃の腑から湧くような、くぐもった悶絶が遠ざかる。建物の影にうずくまると、ターイウはラクダ酔いの素を戻した。

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オラに元気を分けてくれ!

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