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後日譚⑤:王命により聖騎士の弱みを握りに来たのだと思いきや……、なにか違う気がする!(その2)

仕事のルーティンが決まると、日々は単調なものだった。


週末の夜。

陛下への報告書を作成するために机に向かったメリルは頭を抱えた。


(初週の報告は単調なものになるのは仕方ないとしても、これでは二週続けてほぼ同じ内容にしかならないわ。これでいいの、これでちゃんと仕事しているって言えるの? このまま報告を続けていく限り、毎日毎日同じことの繰り返しで、なんの変化もないわ)


勤め始めて数日で得た危機感は現実のものとなった。


(ないならないで正直に書くのが報告。監視をちゃんとしてますと示せれば、私は仕事をしているわ。仕事をしていることになるにはなるんだけど~)


ぐっとペンを握りしめる。


(こんなに達成感のない仕事は初めてよ!)


俯くメリルの口はミミズのように波打った。

とはいえ、仕事は仕事。

気を取り直し、報告書をまとめる前に、ある日の要点をメモ紙にまとめ始める。





十時。

出仕、出迎えはダニエル様一人。

気遣ってくれるエリン様と違い、軽く挨拶のみ。

洗濯開始。

二人暮らしなので数は少ない。

洗い、ほす。


十一時。

毎日昼食準備。

もっぱら朝食の残りにひと手間加え、準備する。


十一時半。

昼の準備を手伝いにエリン様が厨房にやってくる。

挨拶も兼ねているが、ほぼ仕事が終わっていることを確認して、必ず私の仕事ぶりを褒めてくれる。

貴族の血を引くと言うのに、鼻にかけるようなプライドもなく、とても優しい。

良い奥様だ。まだ婚約者だが。


十一時四十五分。

ダニエル様を呼びにエリン様が厨房を出る。十二時に二人で食堂に来る。

私は食堂と厨房を往復し、昼食の準備を進める。


十二時。

二人の食事が始まる。

私は厨房で、調理器具の片づけに入る。


十二時四十五分。

厨房の片づけを終える。

掃除道具を出し、主人二人の食べ終えた食器類を回収するために、食堂へ行く。


十二時五十分。

食堂の扉を開ける。

食事を終えた直後なのか、エリン様が急に立ち上がり、振り向いた。

目を丸くして驚かれる。

エリン様越しに、デザートをすくったスプーンを片手に、なぜかダニエル様が口を山のように曲げて、下唇の下に縦皺を数本刻み、渋い顔をしていた。

甘いデザートを食べているのに、苦そうな顔。


……なぜ?


一時。

食器類を回収。

厨房で食器洗い。

その前に、私の昼用に残しておいた食事をとる。


一時半。

食器を洗いきり、すべて片づける。

夕食に使う食材の確認


二時。

掃除を始める。

エリン様は掃除好き。

今日の清掃箇所を確認し、指定場所を掃除。


三時。

指定場所の掃除を終えて、エリン様の元へ行く。

部屋の扉を開くと、エリン様のすぐ後ろにダニエル様もいた。

私の入室に気づき、振り向いたエリン様にどんとダニエル様が突き飛ばされる。


……なぜ?


三時十五分。

お茶にしましょうとエリン様に誘われる。

応接室に先に待っているよう指示される。

メイドなのに客人のような扱い。


エリン様が入室する時に、ダニエル様の姿も見えた。

が、扉を開けきったところで、くるりと背を向け、片足を持ち上げ、ぴょんぴょんと飛びながら奥に消える。


……なぜ?


小皿にチョコレートとナッツ。

ドリンクはオレンジティー。

美味しかった。


三時半。

エリン様から、仕事について説明を受けて後、来てくれて助かっていると言われる。


四時。

エリン様は厨房で夕食準備。

私は風呂の準備。


四時十五分。

風呂の準備を終え、食堂へ。

夕食を準備するエリン様を手伝う。

雑談あり。


四時五十五分。

ダニエル様が厨房に来て、終業を知らせてくれる。

エリン様に挨拶し、屋敷を出る。

残業なし。







一日の流れは日々ほぼ同じ。

時々、ダニエル様が理解不能な反応をする。


(こんなことを書いていいものかしら)


ダニエルの弱みを見つけるという点からみれば、細かな動きも報告したほうがいいだろう。

メモを参考に、差しさわりのない文面でまとめ始める。


(……釈然としないわ)


今までの仕事と比べて、こんなに達成感の無い仕事は初めてだった。





週明けの早朝、ダニエルの屋敷に行く前に、メリルは城へ寄った。

恭しく報告書を王に手渡すと、ざっと黙読し、下がれと告げられる。


命じられたまま退室したメリルは、ダニエルの屋敷に向かう。


報告書に書かれた内容は、ささやかな二人の暮らしぶりであり、特別なことはなにもない。


(本当に、こんな報告で陛下は満足するのだろうか)


達成感のない仕事だが、エリンと一緒に飲むお茶とお菓子が美味しいので、それだけを楽しみに、ダニエルの屋敷へと向かう。









王は週明けを楽しみにしていた。

ダニエルの屋敷へと潜入させた間者の報告書。


仕事前に読むその文面から醸し出される兄の奇行がおかしくて、笑ってしまう。


(なにをやっているんだ。まるで十代の若者が初めてできた恋人に浮かれているかのような反応じゃないか)


行間からにじみ出るメリルの困惑ととともに、兄がすこぶる面白く変化していることが読み取れた。

三度読み返し、腹をよじり、声を押し殺し笑い続ける。


ひとしきり笑い終えた王は満足げに背を反り返し、天井を見上げ、スッキリした微笑を浮かべた。


「これで、今週も働けるというものだ」


優秀な部下を下らないことに使い倒し、こっそり兄の様子を垣間見ることが、王の密やかな娯楽となっていた。



番外編、お待たせしました。

23日まで毎日朝7時予約投稿済みです。

どうぞよろしくお願いします。



今回、この小説もネトコン11の一次を通過しております。

結果として、ランキング御礼の番外編を一次通過記念も兼ねることができて良かったです。


ネトコンの結果は、相変わらず、なろうの流行りとは毛色が違う、ランキングに乗りにくいタイプの小説が多く通過してます。ランキングを意識する時は、一応流行に寄せて書いているんですよ。


割烹に並べてますので、勇気がある方はどうぞ。5作通過してます。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1962003/blogkey/3214961/


過去には、ネトコン10で8作一次通過しています。

こちらも評価低いの多めだから、勇気がある猛者はどうぞ。

ランクインしないタイプの小説ばかりで、なかにはなろうで読む人いないからって、主人公に名前も付けてない小説もあります。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1962003/blogkey/2986186/


感想欄は日常が忙しいので閉じてます。

少し落ち着いたら、どこかで開くと思います。

その辺は、悪いんですけど、心身のバランスのため自分優先とさせてもらいます。


では、番外編を最後まで読んでいただければ幸いです。

よろしくお願いします。


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