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後日譚④:王命により聖騎士の弱みを握りに来たのだと思いきや……、なにか違う気がする!(その1)

感想で予告していましたランクイン御礼の番外編です。

諸事情あり投稿し、次話は11月になります。期間空きますが、すいません。


その節は、沢山読んでいただきありがとうございます。



お屋敷に潜入したメイドちゃんのお話しです。




王の私室に、秘密裏に呼ばれたメリルは跪いた。

夜空を眺める王が抑揚のない声で呟く。まるでそこにメリルがいないかのようにさりげなく。 


「直々に命じる。

我が兄、聖騎士ダニエルの動向を監視するため、メイドとして潜入せよ」

「御意」


「兄はこの国に無くてはならない人物だ。貴族の娘と婚姻を結ばせたとはいえ、国に忠誠を誓えきれない事情もある。どこまでも、根無し草である不安が尽きないのだ。

私は、兄がこの地に留まらなくてはならない理由が欲しい」


深々と頭を下げたメリルはさりげない王の言葉から、その意向を考える。


(聖騎士ダニエル様の弱みを握れというわけですね)


こうしてメリルは王の勅命を受け、ダニエルが暮らす屋敷へ正体を隠し潜入することになった。






メリル・クレイは、代々王直属の間者一家の次女として生を受けた。幼少期より、王直属の諜報員として、親兄弟から厳しくしつけられて来た末娘である。


クレイ家は表向きは平民であり、貴族ではない。

人里離れた山間に、一族で住まう特殊な民であり、この国が建国される以前から根付いていた。

王家とは、その頃からの付き合いであり、王そのものに仕え、その存在は、王妃や宰相にさえ秘匿されていた。

王直属に仕え、代替わりすれば、仕える者を乗り換えるという特殊な一族である。






ダニエルの屋敷に向かう十七歳のメリルは、初めての王から勅命に心を弾ませていた。


(お父さんも聖騎士ダニエル様は、国に無くてはいけない方だと言っていたわ。

城で王を直々に守る側近の騎士達を子どものようにあしらっていた方だもの。他国に逃すわけにはいかないわよね)


そのために王はなにかしらの弱みを掴みたいのだと推測していた。




 

ダニエルの屋敷についたメリルは紐を引いてベルを鳴らした。

しばらく待てども、扉は開かない。


(ご不在? いいえ、そんなことはないはずよ)


腕時計を確認する。時間も日付も間違いない。


「……」


扉は開かない。しかたなく、もう一度、ベルを鳴らそうと紐に手を伸ばしかけて手を止めた。

通常の聴覚より、鋭敏なメリルの耳が人の声をとらえる。


「ダニエル様。どうして、起こしてくださらなかったんですか。今日はメイドの方が初めて来られる日だというのに」

「それはそうだが、メイドなら俺一人でも迎え入れられるだろう」

「そんなことでは、示しがつきません。働いてもらうというのに、女主人が初日から顔を出さないでどうするというのです」

「それは、まあ。……ごほん。エリンの寝顔の方が価値が(たか)……」

「ダニエル様、ふざけないでください」

「ふざけてなどない。エリンの寝顔を眺めるのは、俺にとって(いや)……」

「ダニエル様! メイドを雇うのですよ。そんな浮ついた顔では屋敷の主として……、きゃあ」

「怒った顔もいいな、たまにはそういうエリンを……」

「ダニエル様!」


パシン!

小気味いい音が耳に届く。

反射的に、そばだてていた耳をメリルは両手でふさいだ。


(なに、なに、なんなのこのやり取り!なにかおかしいわ)


目を白黒させるメリルの額にうっすら汗が滲む。

今までの仕事は、諜報員として潜入捜査や素行調査、不穏な闇取引の現場捜索、状況によって大立ち回りの上で捕縛することもあった。兄や父の手助けを受けながらも、それなりの修羅場を渡り歩いている。

にもかかわらず、そんな経験では推し量れないなにかを感じ、メリルの胸はざわついた。


(この潜入。今までと違う……)


ごくりと生唾を飲み込んだところで、扉が開かれる。

急いできたかと思うほど頬を赤らめるエリンが顔を出し、メリルを見た瞬間破顔した。


「よくいらしてくれました。メリルさん」


両手をさっと降ろしたメリルが、腹の前で手を組み腰を折った。


「初めまして、メリル・クレイです。よろしくお願いします、エリン様」


顔をあげたメリルの額に汗をにじんでいる様を見てエリンは勘違いする。


「ああ、お待たせしてごめんなさい。熱い中、待たせてしまって申し訳ないわ。さあ入って、ひとまず冷たいお茶を飲みましょう。それから屋敷内を案内しますわ」


にこやかに迎え入れてくれた女主人の背後に、屋敷の主であるダニエルが立っている。軽くそっぽを向き、目だけメリルに向けているものの、隠そうとしている頬が反対側の頬よりなぜか赤らんでいた。(注1)







初日は夫人の、―― といってもまだ婚約者なのだが ――、意向で、良く冷えたお茶を飲みながらの自己紹介後、屋敷内を案内してもらい、仕事内容を確認して終わった。


翌日から、週五日、通うことになった。出仕時刻は十時。終業は十七時。なんと規則正しい、短時間の楽な仕事か。


(メイドの勤務時間としては遅いわ。しかも出仕時刻が遅すぎるのってなんでかしら。普通なら朝食準備から始まるというのに……)


勤務してみれば、二日に一度はエリンは顔を出さない。飄々とダニエルがメリルを迎え入れる。どちらにしろ、挨拶し掃除と洗濯をこなすことは変わらない。

下げ渡される昼食は、エリンがいる日といない日で違った。

エリンとダニエルが交互に料理を作っているのだろうと推測したメリルは、さりげなくエリンに尋ねると、苦笑いを浮かべ肯首する。


二人の生活は単調なようで、特段変わったことは何もなかった。

なにもなさ過ぎて、メリルは困った。


(これでは、弱みを掴むどころか王に報告する内容がないに等しいじゃない!)


 





(注1:忙しい時にふざけたくどきばかりしてとうとうひっぱたかれました)

ランキングに載っているうちにこのネタ出すとちょっとふざけすぎかなと思って、ランク外になってからのせようと思っていました。

まだ書き上がっていないのですが、長編の予約投稿一話間違えて一日空いてしまい、急きょ投稿することにしました。

(今年は、なんどか毎日投稿を自分の予約投稿ミスで途切れそうになって、ギリギリで回避が続いています。そろそろやめてもいいってことかな~。せめて三年とはいわないから、1000日ぐらいはやってみたかったけど)


長編が11月2日まで予約投稿済んでいるので(予約投稿抜けていない限り)残りは、11月と12月にかけて、投稿になります。

そこまで余裕見ないと書きあげれなそうってのもあります。




次回は11月の予定。空いてしまいますが、よろしくお願いします。

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