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苦手な方はご注意ください。

狂い昔話

【狂い昔話】跳びションの翁、大海を知らず

作者: 七宝

 むかしむかしあるところに、豪雨のごとく尿を放ち、山中(さんちゅう)を跳び回る1人のジジイがおりました。

 人々は彼を〈跳びションの(おきな)〉と呼び、たいそう恐れていたといいます。


 1日にばら撒く尿の量は推定5000リットル。並の人間とは比べるまでもありません。


 そんな翁が今日、初めて敗北というものを知りました。


「ションベンしながら跳び回ってるくらいで満足してちゃいけねぇよ。俺ァこの海を作ったんだ。ゆくゆくは宇宙全てを俺の尿に沈め、この世を支配するつもりだ」


 翁は感動しました。こんな男がいるのか、と衝撃を受けたのです。


「ワシを、ワシを弟子にしてくれんかのう⋯⋯!」


「ダメだ、お前は弱すぎる。死ね」


 男のションベンカッターにより、翁は真っ二つにされました。


「この(にが)ションのバーベキューの尿で葬ってやったのだ、光栄に思え」


 そう言い残し、彼は次の予定の待ち合わせ場所へ向かいました。

 最近急に老け込んで元気がなくなった友人の金ピカのババアのことが心配だったので飲みに誘ったのです。


 彼のオススメの居酒屋に案内すると、金ピカのババアは「ありがとう」と感謝を述べました。


 しかし、彼女の顔は笑っていませんでした。


 さらに心配になりましたが、苦ションのバーベキューは何も聞かず、お酒と美味しいおつまみを金ババの前に置きました。


「美味しいねぇ」


 そうは言うものの、やはり表情はずっと暗いままで、どこか一点を見つめているような感じでした。


「どうしたんだよどうしたんだよどうしたんだよどうしたんだよどうしたんだよどうしたんだよ!!!!」


 心配が爆発した苦ションは、街中に響くくらいの大声で金ババの耳元で叫びました。


「うん⋯⋯それがね、実は」


 金ババがやっと話し始めました。


「ごめん塾行かなきゃ。じゃあね、金ババ」


 苦ションはハードスケジュールなのです。


「タコは8本、イカは10本、人は90本、ムカデは4本⋯⋯難しいなぁ」


 受験とは戦争です。猶予はあと2日、苦ションの中学受験は一昨日(おととい)にまで迫っているのです!


「さて、帰るか⋯⋯」


 塾が終わったのは夜10時。受験勉強とは本当に大変なものです。


 苦ションのバーベキューが130冊の教材と問題集を背負って歩いていると、目の前でひったくり事件が起きました。


「誰か!誰か助けとくれえ! あの中にはワシが1ヶ月間溜めたうんこが入っとるんじゃあ!」


 地面に膝をつき、涙を流す老婆。


「待っていろ、すぐに捕まえて来てやる」


 正義感溢れる苦ションは優しくそう言うと、ズボンのチャックをおろしました。


「へっへー! こんなでっかくて重いカバン、札束に決まってるよなぁ! これで遊んで暮らせるぜぇ!」


 自分がうんこを運んでいるとも知らずに調子に乗っているひったくり犯。そこに苦ションの尿が襲いかかります。


「ぬぉ!? なんだありゃあ! 高圧洗浄機か!?」


 すぐに脇道に入るひったくり犯。

 角を曲がって正確に追尾する尿。


「ひえぇ! そんなのアリかよぉ! ごぼ、ごぼごぼごぼぉ」


 苦ションの尿がひったくり犯の口に侵入します。


(にげ)ぇ! 苦ぇよぉ〜! 助けてぐれごぼぉぉ!」


 やがて1億リットルの尿はすべてひったくり犯の胃に収まりました。


「チッ、手こずらせやがって⋯⋯もうひったくりなんてするなよ?」


「⋯⋯⋯⋯」


「し、死んでる!?」


 そう、苦ションのバーベキューは人を(あや)めてしまいました。不本意ではないとはいえ、これは立派な殺人です。35人目です。


 次の日学校に行くと、いつもギリギリにしか来ない金ピカのババアが席についていました。


「珍しいね、君がこんな時間にいるなんて」


「うん、ちょっとね。苦ションくんと2人きりになれる時間が欲しくて」


 一瞬、苦ションの心臓が跳ねました。


「そ、それって、どういうこと⋯⋯?」


 苦ションのバーベキューと金ピカのババアは、この小学校でたった2人だけの受験組でした。そのこともあって、普段から助け合いながら歩んできたのです。


「⋯⋯こういうことっ」


 金ピカのババアが苦ションの唇を奪いました。


 苦ションの心臓がさらに跳ねました。もはや跳ね回っています。


「もしかして、昨日言いかけた悩みって⋯⋯」


「そう、私、あなたのことで悩んでたの。でも昨日あなたの優しさを身をもって知って、あんなに私のことを心配してくれてるんだって気づいて、勇気が出たの」


 2人の心臓がこれまでにないほど動いています。


「そろそろ返してよ、俺の唇」


「⋯⋯やだっ! ごくんっ!」


 金ピカのババアは奪った唇をそのまま飲み込んでしまいました。


「な、なんてことを!」


 苦ションは慌てて胃カメラの準備をして、金ババの喉に突っ込みました。


 画面を確認すると、錆びた五寸釘と、苦ションの顔写真が貼られた(わら)人形が映っていました。


「えっ、怖っ⋯⋯」


 苦ションは固まってしまいました。


「でもウケる〜」


 超怖かったけど、超ウケたのです。


「フンガフンガフンガフンガ」


 後ろからの声に振り返ると、山盛りの鼻がありました。


「ちょ、ウケ⋯⋯ぐはっ!」


 苦ションの口から黄色い液体が溢れ出しました。


「なん⋯⋯だこれは⋯⋯!」


 苦ションの心臓が跳ね回っています。


「私もなんか、胸が⋯⋯うぅっ!」


 金ピカのババアも口から液体を吐き始めました。


「うぐぅ⋯⋯うぅ⋯⋯うあああああああ!」


 信じられない叫び声を上げ、苦ションが口から心臓を吐き出しました。


 その心臓は、跳ねながら黄色い液体を撒き散らしていました。顔をよく見てみると、それは跳びションの翁でした。


「貴様⋯⋯この俺の心臓に⋯⋯!」


 苦ションが最後の力を振り絞って睨みました。


「お前に真っ二つにされた後、俺は粉になって空気中をさまよった。それを吸い込んだお前たちは皆こうなる」


 苦ションが倒れると、金ピカのババアも山盛りの鼻も同様に口からミニ跳びションの翁を吐き出し、息絶えました。


 跳びションの翁の粉はスウェーデン中に広がり、スウェーデンは跳びションの翁の尿に沈んでしまいました。


 そして3ヶ月後、宇宙も跳びションの翁の尿に沈みました。


 それを天国から見ていた苦ションのバーベキューが言いました。


「よくやった。それでこそ我が弟子だ⋯⋯」


 めでたしめでたし。

 日本人じゃなかったんだ。

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