二人の天才
この作品は、『第4回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。
「わ!陽斗くん、やっぱり天才!」
「ふふふ、ありがと」
「またノート見せてね!」
手をフリフリしながら、女子生徒が陽斗の元を去っていく。
程なくして、陽斗の隣に、陽斗と同じ顔の男子が腰掛けた。
「モテモテだな、相変わらず」
「へへへ、まあねー。でも月斗。立ち聞きなんて趣味が悪いよ」
「わかってるくせに」
「ははは」
校庭に置かれたベンチに、同じ顔が二つ。
容姿端麗な彼らは、学校では目立つ存在だ。
「陽斗。これ、新しいノート」
「うっわ、助かる〜。しかしみんな困ってるんだね。“ノート見せて!”ってお願いしてくる生徒が僕の所に来るわ来るわ。名門校って大変」
「……お前さ、楽しい?」
「へ?」
「“天才のフリ”。よく付き合ってくれてるよ、俺に」
「楽しいよ。一度なってみたかったし、“天才”」
「別に楽しくないよ、“天才”」
「ええっ!月斗、そうなの?」
受け取ったノートをヒラヒラ掲げながら、陽斗は驚いた声を出す。
「こんなにいろんなこと知ってて頭がクルクル回ったら、人生楽しいと思うんだけどなー」
「ほら、現に俺は“隠キャの月斗くん”なワケだから」
「“演じてる”だけじゃん。自分が注目されるの嫌なんでしょ。小学生の頃、タイヘンだったもんねー」
「お陰様で平穏な学生生活を送れてるよ」
「よくやってるよ。テスト、何もしなくても全部満点取れるのに、目立たないようにあえて調整して九十点位に留めてるんでしょ?」
陽斗の呆れたような言葉に、月斗は笑った。
「けど、陽斗。お前もすごいよ。俺がそばにいられれば、こうやってノート渡したりアシストしながら“天才”でいさせてやれるけどさ。実際のテストではできないじゃん。どうやって満点取ってんの?俺に隠れてめちゃくちゃ勉強してるわけ?」
「んー。何かさ、覚えちゃうんだよね。一度見たものは」
「は?」
「僕、意外と脳のキャパシティが大きいみたい」
あっけらかんと陽斗は語った。初めて知る事実に、月斗はあんぐりと口を開けて固まってしまう。
「……天才とナントカは」
「え、なに?」
「……何でもない」
「そう?じゃあ、またよろしくね。僕、月斗がいないと何もできないんだからさ」
そう言って陽斗は、大袈裟に拝むポーズをする。そして、ノート片手にどこかへ走り去って行った。
「……“天才とバカは紙一重”」
陽斗が走り去った方角に向かって、月斗は呟く。
「おまえ、本当はどっちなんだ?陽斗」
月斗の疑問に答えてくれる者は、どこにもいなかった。
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