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9.ドラマ撮影のために

ある晴れた日のこと、ロゼッタと煌太はいつもの川土手に来ていた。

そこで煌太は自作した小型ドローンを起動させ、自動操縦で飛行させ始める。

どうやらドローンの動作テストを繰り返しているようだ。


「風が安定していて、尚且(なおか)つ障害物が無ければ順調に動いてくれるな。でも、まだまだ俊敏とは言えない」


「滞空を可能にしている以上、機体サイズ的には充分の速度じゃないかしら。よくできたラジコンより鋭利な動作だわ」


「前にロゼッタが撃退してくれた偵察ロボを流用しているからな。元のそれと比べたら、もっと柔軟に早く動けるはずだ」


「まだ調整だけでは終わらない段階なのね」


「あぁ。部分的な改良のみならず、基盤の改造が必要だろうな。昔、優羽にプレゼントしたロボットと違って、もっと高性能を目指して突き詰めないと」


そう煌太が真剣な眼差しで喋る中、隣に立つロゼッタはドローンに向けて手をかざしていた。

それから彼女が何気ない振る舞いで指先を動かすと、その動きに合わせてドローンは飛行し始まる。


「パソコンと同じく、私の遠隔操作に反応してくれるのね」


「ロゼッタの位置情報をリアルタイムで更新し、カメラの中心に収めるよう追跡機能も付けてある」


「既に至れり尽くせりね。それじゃあ早速、実行しましょうか」


何らかの決意を感じさせる形で、ロゼッタはゆっくりと目を閉じる。

すると彼女の金髪は、ふと(ゆる)やかに吹く風に撫でられた。

その自然を堪能する時間は、少なくとも十数秒以上は続けられる。


まるで何かを実行するために、心構えを整える時間を設けているみたいだ。

そして彼女はゆっくり目を開けながら、いきなり人が変わったかのように愛想良い雰囲気を(かも)し出した。


「マスター、今日はとても素晴らしき日だわ。草木からは暖かな静寂が生まれ、近くで流れる小川からは豊かな自然を感じられるもの」


「あははっ、よくある平凡な環境だろ。そこに価値を見出して(うた)うなんて、まるで詩人みたいだ」


「マスターからすれば、私の感想が大袈裟(おおげさ)に聞こえてしまうかもしれないわね。でも、私が誕生した未来では、こうして落ち着いて過ごせる時間や場所は失われてしまっているの……」


ロゼッタは演技かかった素振りで落ち込んでみせる。

また自分の素振りに合わせて、一語一句ごとに極端な抑揚がつけられている。

同じく煌太も一挙一動の振る舞いを大きくして、自分の感情を精いっぱいに表情へ出した。


「そう悲しむな、ロゼッタ。元凶である悪の兵器を倒せば、未来は良くなるんだろ?」


「えぇ、そうよ。その悪の兵器の名は………」


この調子で二人が大声で話していると、その場へ足を踏み入れる者が不意に現れた。

しかも、その人物は二人の前へ立ちはだかるなり、奇妙な笑い声をあげる。


「うぉッホッホッホッホー!我が領地に気安く足を踏み入れるとはなぁ!愚かなり!正義を(かた)る凶悪兵器ロゼッタよ~!」


明らかに注目を集めるよう声を発したのは、あの銀髪少女ブルプラだった。

ただし彼女にしては、今日の服装はいつもと趣向が大きく異なっている。

頭には角を付けていて、やたら露出の多い服を着ながらも大きなマントを羽織っているのだ。

どれも装飾が凝っているから(きら)びやかではあるが、とても人様に見せびらかすタイプの服では無さそうだった。


だが、ブルプラの服装と態度に対して誰も指摘はしない。

むしろロゼッタは意気揚々としており、突如現れた彼女に向き直って言葉を返した。


「出たわね!魔神兵器ブルプラ!」


「なんだって、ロゼッタ!?あれが悪の元凶だったのか!?未来を破滅へ追い込んだという悪の化身!」


「えぇ、そうよマスター!もしかして、どこかで見かけたことがあるの!?」


「……あぁ。つい先日、この川土手を占拠するダンボールハウスがあってな。それで強風が吹いた時、ダンボール共々に川へ流される女の子を見つけたんだ」


煌太は謎エピソードを滑舌よく語り出した。

そして、わざわざ彼が言いきるまでブルプラは待った後、次の出番が回ってきたように慌てて演技を始める。


「そして、その青年にブルプラは川から引き上げて貰った、というわけだぞぉー!どうだ!?なんとも恐ろしい話だろぉ~!うぉっほっほっほ~!…けほっ、これ疲れますね……」


「くっ……!情に付け込み、見知らぬ人からの手助けを得るなんて恐ろしい策略ね!まさしく魔神の名に相応しいわ!」


「もう負けを認めても良いのだぞ~!所詮、ロゼッタさんは人間が寄せ集めで造った兵器!アンドロイド(みずか)らが造った兵器である私に、(かな)う道理など無いのだぞぉ~!」


「いいえ!私は人間の希望を形にしたもの!そのためにも私は、支配だけを目的に生み出された魔神兵器には、絶対に負けない!」


「ふふっ、よくぞ言った!面白い!その大口を叩けるほどの実力があるか、このブルプラに見せてみろうぞぉ!」


ブルプラが大きく手を振ると、彼女の後方から複数のドローンロが飛び交ってきた。

それらは複雑な陣形を維持しつつ、ロゼッタに向けて水鉄砲を放つ。


「きゃっ、冷たい!」


水鉄砲を浴びたロゼッタは短い悲鳴をあげながらも、なんとか自分の身を守ろうとする。

だが、あっという間にずぶ濡れとなっていき、服が透け見えそうな状態へ陥ってしまっていた。


「どうだロゼッタさん!これは水素水だぞぉ!全身で水素を感じてくれているかぁ~!?」


「や、やるわね!でも、私は負けない!今度はこっちの番よ!」


「なに?そんなターン制みたいな攻防、ボードゲーム以外で通用すると思って……」


「七大機能制限の一つ、出力の限界突破を解除!さぁ、くらいなさい!全力全開のジェノサイドパンチ!」


「…ふぁっ?」


ブルプラが本気で不思議そうな声を漏らした直後、ロゼッタは空へ向けて右ストレートパンチを抜いていた。

その瞬間、世界中の大気は震える。

途方も無い衝撃と速度によって生み出された空気の摩擦は凄まじく、その摩擦で発生した火柱が雲を突き抜けていくほどだ。

また同時に爆音が発生していて、ブルプラのみならず煌太まで腰を抜かす有り様だった。


「ひ、ひぇ~……!これはいくら何でも強烈すぎますよぉ~!」


当然ながらブルプラは情けない声をあげていた。

しかも彼女の周辺には、今の衝撃波のみで残骸となってしまったドローンが散乱している。

さすがに、ここまでロゼッタが出力を上げてくるのは予想外だったのだろう。

ブルプラは本気で(おび)え、尻餅を着いたまま固まるのは仕方ない話だった。


「ふぅー、はぁー………。機体の出力を低下。機能を再制限……っと」


ロゼッタは構えを解くが、あまりにも膨大な量のエネルギーを発生させたため、彼女自身から高熱が(ほとばし)っていた。

もはや陽炎(かげろう)が視認できるほどで、きっと彼女に近づくだけでも火傷を負ってしまう。

ただロゼッタは平常を装いつつ、深い溜め息を挟んでから喋り始めた。


「……こほん。さぁ、魔神兵器ブルプラ。観念しなさい」


「む、むむむ無理です!あんな力を見せつけられてしまったら、観念どころか降参もできませんって!すぐ処分されるのが目に見えてます!」


「つまり抵抗するという意味かしら?」


「いいえ!未来永劫の絶対服従を誓います!人間様万歳!ロゼッタさん最高!こんな素敵な方々が居るなんて、ブルプラは知らなかったなぁ!」


「そう。それじゃあ仲間になってくれるのね。良かったわ!では、未来を救う同志として一緒に頑張りましょう!さぁ今すぐ残りの魔神兵器を打倒するわよ!」


ロゼッタがポーズを付けてまで宣言した後、今の台詞(せりふ)で茶番は終わったらしい。

すぐに二人とも普段通りの様子に戻り、まずブルプラが笑顔で話しかけてきた。


「ロゼッタさん、お疲れ様です!」


「ブルプラちゃんもお疲れ様。あとは編集で、どれだけ演出と展開を修正できるかになるわね」


「これでついにブルプラもネット進出ですか!うわぁ~楽しみだなぁ~!」


「ブルプラちゃんは元からネット交流しているでしょ。それに今回は実験的な撮影であって、実際に動画公開するかどうかは別よ」


「えぇ!?そうだったんですか!せっかく張り切って衣装を用意したのに!」


「個人撮影のショートドラマとして投稿する以上、もう少し脚本を練りたいのよ。だから、さっき言った通り今のは前準備するための工程に過ぎないわ」


どうやら途中から、ロゼッタは新たな動画のためにドラマ撮影を始めていたらしい。

それで普段の態度とは異なる演技を始めたわけだ。

そのことはブルプラと煌太の二人も理解していたわけだが、ブルプラだけ本格的な撮影だと勘違いしていたようだった。


「うぅ~ん、これが練習だったなんて残念です。でも、それなら本番はどんな感じにするつもりなのですか?」


「アクション重視ならセリフを限界まで削って、とにかく縦横無尽(じゅうおうむじん)に動くシーンを多くするわ。コメディなら編集パワーで押し通すから、間を意識したやり取りね。ミステリーは……奇妙な物語風味にしたいわね」


「既に色々と考えついているのですね!凄いです!」


あまり理解している様子では無いが、とにかく凄いと思ったから素直に褒めるというスタンスをブルプラは通す。

そんな無邪気な彼女に対し、ロゼッタは冷静に説明を続けた。


「ドラマは、いつの時代になっても通じる娯楽ジャンルだもの。そこから無数に枝分かれしているほどだから、いくらでもネタは作れるわ。……ただ、人手不足が痛い所だけれど」


「アクションできるのが二人だと限界ありますよね。ですから、いつの日か私達と同じように仲良くしてくれるアンドロイドが増えてくれたら、すっごく嬉しい話です!」


「仮に戦場へ探しに行ったとしても、アンドロイドなんて道端に落ちてないわよ。とりあえず、今の私達に出来る事をやっていきましょう。ねぇ、煌太様」


また新しい道と可能性が見えてきて、ロゼッタは輝かしい表情で煌太を呼び掛けた。

しかし彼からは返事が無く、地面に倒れたままだった。

だから驚いて近づいてみると、先ほどの衝撃のせいで彼は完全にぐったりしてしまっていた。


「あら、気絶しているわ。ちょっと刺激が強すぎたみたいね」


「うわぁ煌太様!?ロゼッタさん、これ大丈夫なんですか!?」


「安心しなさい、煌太様は大丈夫よ。でも……、そうね。さすがに反省しないといけないわ。ブルプラちゃん、あとで一緒に謝りましょう」


「えっ、私もですか!?もちろん、いいですよ!」


「付き合いが良くて助かるわ。念のため、安静に家へ連れて行って……。それで後は………」


それからロゼッタは煌太を気遣いながら、ブルプラと共に自宅へ帰って行った。

そして言葉通りドラマ撮影の試行錯誤を重ねた後、彼女は単発ショートドラマの動画投稿を始めるのだった。

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