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8.最初の手応え

まずロゼッタはライトチューブという動画共有サイトで、配信では無く動画投稿から始めた。

その活動開始から一週間後のこと。

ロゼッタは深刻そうな面持ちで、作業している煌太に相談を持ち掛けていた。


「煌太様。ひとまず私なりに工夫してみたのだけれど、これって順調な部類なのかしら?」


「俺はチェックできてないが、一応成果は出てる感じなのか?」


話しかけられた煌太は作業の手を止めて、彼女の方へ向き直る。

するとロゼッタは真剣な眼差しでタブレット端末を操作しながら、自分のチャンネル状況の説明を始めた。


「あれから動画を15個投稿したのよ」


「早いな。そこまで順調に投稿できるほど、準備は整って無かっただろうに」


「ルーティーン組みと簡略化は得意なのよ。っと、そうじゃなくて再生数が思っていたより伸びて無いのよね。チサト様(いわ)く、どれか一つ()ねるまで辛抱とは教えてくれたのだけれど」


「発表会でも無い限り、そう都合よく注目されるわけじゃないからな。どれどれ……っと」


煌太はタブレットに表示されている画面を一通り眺める。

見たところ、ほとんどが三桁再生ではあるものの、それでも最初の一週間と考えたら上等に思えた。


「結構ジャンルがバラバラだな。流行ドラマのダンス、街中で消えてみたドッキリ。マリトッツォやタピオカの作ってみた系の料理。商品レビューもしているのか。しかも、わざわざ英訳まで付けてる」


「いずれ(なら)わしみたいな企画もしたいわ。メントスコーラとか」


「それはさすがに古すぎる。もはや化石みたいな企画内容だって。今時そのワードで検索している人なんて居たら、そいつは考古学者の才能あるよ」


「そうかしら。それより、よく見て欲しいのよ。一つだけ再生数が伸びているじゃない?」


「おぉ、確かに四千再生いってるな。動画タイトルは『雷を斬ってみた Slash thunder』。ん?……はぁ、えぇっ!?」


煌太は自分の目を疑ってしまう。

おそらく、同じくタイトルとサムネを見た人は直感的にネタ動画だと思ったに違い無い。

しかし実際に動画を再生してみると、ロゼッタが見たことがない場所で雷を手で掴み取り、更には鉄棒で雷を受けきる内容となっていた。


それをスーパースローのコマ送りも含めて、動画の再生時間は二分足らず。

視聴してくれた人からコメントされており、素直な称賛と困惑する国内外の反応が見受けられる。

事実、ロゼッタの性能を知る煌太でさえ、混乱しそうな内容となっていた。


「どうやったんだよ、これ。あと俺でも驚くほど凄いけど、何から何までツッコミ所が多すぎる。危険なので真似しないで下さいって注釈あるし」


「これはブルプラから提案された企画で、名作漫画の技を再現してみたものよ。あとで調べたら、創作物の再現系はどれも好評なのよね」


「それは再現度と技術力が特に高い、例外レベルのやつだろ。いや、これも色んな意味で例外が過ぎるけどさ」


そもそも、いつ撮影したのか知らない上、日常生活に大きな変化は見受けられなかった。

そのため、自分が知らない間に危険な挑戦しているという事実に心配を覚える中、ロゼッタはさりげない態度で告白してきた。


「実はこの動画を撮るために、七つの機能制限の内の一つを使ったわ」


「それはもう制限の意味が無くてビビる」


「あとなぜかコメントで、これは犯罪行為じゃないですか?って言われているわ。実際、他人の敷地内に侵入しているのだけれど」


「知らない内に炎上の(きざ)しがあるのもビビる」


「それと水着のレビュー動画だけ、同じくらい高評価が多いわ」


「その理由は分からないけど、謎サイトへ誘導するコメントがあってビビる」


「そして肝心のチャンネル登録者数は?」


「37人でビビ……いや、普通と言えば普通だな。これはさすがに恐れ(おのの)かないからな?」


つい煌太は適当な受け答えを続けていると、不意にロゼッタは少し残念そうな眼差しを見せた。

とは言え、このタイミングで何に対して落胆を覚えたのか察せることはできない。

そう思っていたが、とても一般的な感性で彼女は吐露してきた。


「なぜ登録者数が伸びないのかしらね。私の想定では、現時点で1億人に届いているはずなのに。このままだと私の全人類登録計画が水の泡だわ」


「どういう算段だよ。全人類揃って娯楽に飢えすぎだろ」


「1億人はともかく、チサト様の言う通りサムネイルに(こだわ)って、短いオープニングとエンディングも付けたわ。更にSEとテンポも気にかけたの。それでもダメなのよ」


「投稿時間にも気を遣うとは聞くけどな」


「夕方頃にまとめて投稿してるわ。これについては、各国の利用比率と時差から計算した結果よ」


「今気づいたけど……、チャンネルのアイコンおかしくないか?これ初期アイコンだろ。あとジャンルがバラけてるから、再生リストを作った方がいい」


煌太ができるアドバイスは、せいぜい視聴者視点が関の山だ。

それも初歩的な部分で、きっとまだ視野が狭いものだろう。

だから他にも何かアドバイスできそうな人物と言えば、優羽かゲーム配信者チサトしかいない。


「この時間帯だと優羽は部活だからな。やっぱりチサトさん頼りか。前にチャンネルを覗いた感じからすると、今は寝ているような気もするけど」


「ショートスリパーだから、いつ連絡してくれても大丈夫だと言っていたわ」


「なんだそれ、面白過ぎるな。どういう理屈だ?」


「寝ている時間以外は、常に配信活動している気分らしいのよ。先月は400時間以上配信していたとも言っていたわ」


「それだと逆に連絡を取るのが難しそうな気もするが。……まぁ、俺でも協力できそうだったら遠慮なく言ってくれ。こうした相談だけじゃなく、全面的に手伝うからさ」


四苦八苦しているとき、如何(いか)に周囲の協力が支えになるのか煌太は知っていた。

実際、ロゼッタは彼の能力を高く評価していて、その信頼度は高い。

だから彼が前向きな言葉をかけてくれるだけでも、自然と心(おど)った。


「ありがとう、煌太様。いずれきっと、それこそ近い内に手助けして貰うわ」


「あぁ、その時は任せてくれ。必ずロゼッタの期待に応えみせるから」


「ふふっ、嬉しいわ」


安らぎある微笑みを彼女は浮かべる。

こうして心強い言葉を受け取った後、すぐさまロゼッタは作業室から退室した。

それから間もなくして、煌太は見落としていた事実に気が付くのだった。


「あれ?この動画、どれも昨日の夕方に投稿したやつか。それに雷の動画は二時間前投稿で、もう再生数が倍以上に………」


彼はページ更新していく度に増える視聴回数とコメントを見ている一方、ロゼッタは自分の作業部屋でチサトと連絡を取っていた。

つい先ほどまで相手は配信していたらしいが、それでも一息つける間もなくチサトは通話で反応を返してくれた。


「…んー……、どうもロゼッタちゃん。どうかなー?手応えを感じてるー…?」


「焦る段階では無いと分かっているけれど、それでも手応えが弱いと感じている所だわ。私が想像していたより、ずっと奥深い世界なのね」


「だろうねー。私もロゼプラをチェックしたけどさ。ちょっと予想外な感じかなー……?」


「期待外れだったかしら」


「ううん、全然そういう意味じゃないよ。そう人様にケチをつけられるほど、立派な配信してないし。ただ、もっとキャラ売りをするのかなーって思ってた」


「キャラ売り?」


「キャラ付けの際にアドバイスをしたけどさ。内容一本で攻めるのは難しいよ。こう……せっかく可愛いんだから、楽しさだけじゃなくて自分の良さも伝えないとね」


少なくとも配信界隈は自分を強く売り出さないと呆気なく消える運命だと、チサトは付け足して言った。

その言葉を噛み締めながら、ロゼッタは自分なりの解釈を交える。


「キャラ売りも重要視しなければいけないのね」


「ゲーム実況でも言える事なんだけど、単に上手いだけだとガチなゲーマーしか見てくれないからね。そういう意味では、どんなプロでもキャラ売りの方が重要なくらい」


「でも、私はなるべく短時間の動画を意識しているのよね。これでキャラ売りをしたら、ちょっと冗長になってしまうわ」


「そのまま動画内容に()したら、そうなっちゃうだろうねー…。それでさ、私から一つ提案があるんだけど。最初にロゼッタちゃんが言った設定についてで、もっとドラマチックにさ……」


それからチサトは、あくまで自分の意見としてロゼッタに提案してみせる。

それは『ロゼプラ』の今後を変えていく、創作物の必殺技再現シリーズに続き、新たな動画シリーズの誕生へ繋がるのだった。


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