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7.ロゼッタ☆プラネット

ロゼッタとゲーム実況者のチサトが通話している間、煌太とブルプラ、そして優羽の三人は作業室へ移動していた。

特にブルプラと優羽の二人は賑やかだ。

だから相談の邪魔にならないよう移動したのは良かったものの、彼女らは煌太の作業室に入るなり、手当たり次第にロボットを触っていた。


「ねぇねぇ煌太!またレオみたいな犬型ロボットは造らないの!?」


優羽は理解できないはずの設計図を眺めながら訊いてきた。

対して煌太は壁に張り出してある写真に目を向けて、悩ましい声で返す。


「今は個人的な製作と納品に忙しいからな。特にフリスビーの一件があったから、まずは特製フリスビー型ドローンを製作中だ。今は超高速で動くよう試作している」


「そういえば、そういう制作系の動画も沢山あるよね!ロゼッタちゃんが配信するわけだし、ついでに煌太も動画投稿とか始めたら?凄く注目されると思うよ!」


「それはそれで別の努力と才能が必要だからな。技術力があっても製作には時間がかかるし、何より豊かな遊び心が要求される。俺には向いて無いよ」


「んー、意外に把握しているんだね。もしかして、けっこう動画は見てる感じ?」


「こまめにチェックしているわけじゃないから、本当に有名なやつを見たことあるくらいだな。優羽はどうなんだ?」


「私はダンス系かなー。あとストレッチ講座も見る!ただ自分から体を動かす事ばかりしてるから、暇潰(ひまつぶ)しで見ることは少ないかも。私は動画より音楽サイト派かな!」


二人とも自分の趣味で忙しい日々を送っている事に加えて、その生活習慣から動画配信サイトより別のサービスサイトを利用することが多かった。

そのため、これからロゼッタがやろうとしている事に(うと)い方だと言える。

しかし、二人の話を聞いていたブルプラが元気よく応えてきた。


「ちなみにですが、ブルプラはよく動画を見ますよ!オシャレ系の動画は凄く参考になります!」


「言われてみれば、ブルプラは普段から色々なメイクに挑戦しているよな。その……、たまに幅広過ぎてびっくりする事があるくらいに」


「アンドロイドなので、化粧ノリが人と違うのが悲しい所ですよ!それと漫画やアニメのコスプレをしたときは、ネットに画像をあげて交流してます!」


「えっ?いつの間にそんなことをしていたのか。自由にさせているとは言え、ずいぶんと社交的だな」


なるべく煌太はブルプラ達アンドロイドと会話するよう心掛けているが、全ての行動を把握しているわけでは無い。

むしろ睡眠を必要としない彼女達だからこそ、その活動限界は果てしないほど広がり続けている。

ロゼッタが人よりテレビに熱中し始めたのも、寝ずに待機するから時間を持て余した結果だろう。

またブルプラは、今の自分について意気揚々と語った。


「最初は好きな漫画について語り合いたくて始めましたねー。ただ話が広がっている内に、そういう世界に熱中してました!」


「いや、まず俺からしたら漫画に熱中していたこと自体が初耳なんだけどな」


「あれれ、そうでしたっけ?ブルプラの部屋に漫画が沢山あるくらいですよ。ブルプラは電子書籍より紙派なので!」


そう楽しそうに彼女が喋ると、優羽は横目で煌太に言葉をかける。


「あ、煌太。これは対立煽りだよ。電子派と紙派による衝突が期待される場面だよ?」


「いきなり変な事を言い出すなって。そもそも電子書籍を理解してなかった奴が、なんでアングラなネタを知っているんだ?」


「あれから自分で調べたからね!その時、電子派と紙派の激突が鉄板だって見たよ!」


「まさかその情報源とやらは、まとめサイトだったりしないだろうな……。優羽は何でも鵜呑(うの)みにしそうだから不安だ」


何がともあれ、ブルプラの部屋がどのような状態なのか気になる所だ。

いくら主従関係同然であっても、女性のプライベートルームだから立ち入ることはしなかった。

それこそ最初に部屋を与えてから煌太は入ってないため、かなり模様替えをされているのは想像つく。

そんな事を彼が思っていると、不意に作業室の扉が勢いよく開けられるのだった。


「ごめんあそばせ皆様方、ロゼッタよ!ただいま、お戻り致しましたですわ」


ロゼッタが戻って来たわけだが、深刻なエラーでも発生しているのかと思うほど口調が乱れていた。

また、その表情にも強い違和感があって、普段より親しみが感じられるよう目尻が柔らかいものとなっている。

もはや誰が見ても異常な様子という一言に尽き、この異様さに煌太達三人は驚き戸惑ってしまっていた。


「え、いや。あのロゼッタ、どうかしたのか?」


「ご心配ありがとう、私は大丈夫よ!ところで煌太様は知っているかしら。全ての惑星は、この地球を中心に回っているのよ!」


「天動説のことか?いきなり過ぎて意味が分からないな。でも、まぁとりあえずベタなボケだな」


「天動説?どこかで聞いたことあるわね。近年マゼランが提唱したものだったかしら」


「マゼランは地球一周を成功させた人だ。あと提唱されたのは地動説の方で、ガリレオな」


「凄いわ、歴史に詳しいのね。そういえば今夜は快晴で、あの有名なアンドロメダ座が見えるわ。日本から観測可能な銀河としては最大級で、頑張れば肉眼でも視認できるはずよ。是非とも一緒に眺めたいわね」


「そ、そっか。それは知らなかったな。いや、というか。なんだ?本当にどうしたんだ?」


多くの要因が重なり、戸惑いより心配する気持ちが強くなってしまう。

さっきから脈絡が無い話題提供ばかりであって、誰しもが混乱を覚えた。

それに加えて、ロゼッタがこんな事を言い出すという事態そのものにも理解が追いつかなかった。


天動説を口にした直後、まるで豆知識のように星座について語るなんてチグハグしている。

これら一連の会話は、あの騒がしい優羽を思考停止に陥らせるほどの荒業と化す。

やがて妙な空気と沈黙が場に流れる。

それからロゼッタは三人揃って困惑していることに、ようやく気が付いてくれるのだった。


「やっぱり変だったかしら?」


「あぁ、はっきり言って変だ。ロゼッタらしくない」


「混乱させて悪かったわ。さっきの発言は全て、いわゆる配信モードよ。今の反応を見たところ、まだまだ調整が必要そうね」


「配信モードって何だよ」


「アドバイスをくれたチサト様が教えてくれたのよ。ツッコミ所ある性格、そして分かりやすくイジりやすい反応の方が良いって。それで配信向けの思考パターンを自分で組んでみたの」


「確かに理想的な先輩上司ムーブや、絵に描いたような後輩タイプが受け入れやすいとかあるけどな……。俺達は元の性格を知っているから、豹変(ひょうへん)されてもビックリするって」


「なるほど、さすが煌太様ね。人間関係に対する理解度が高くて参考になるわ。それに今の様子だと、親しい人とはラフな感じで接した方が良さそうね」


あれこれと独り言を口にしながら、ロゼッタは本気で考え込んでしまう。

こうして優羽より情報を鵜呑(うの)みにしている彼女の様を見ていると、妙なアドバイスを吹き込まれて無いかと心配になってくる。

何にしろ、話が一段落したおかげでロゼッタが思案できるようになったのは大きな一歩だ。


「ところでチサトって奴との相談は、もう終わったのか?」


「ひとまずね。あとは実際に活動を始めてから、改めて相談して欲しいと言っていたわ」


「また相談に乗ってくれるのか。こうも前向きな姿勢で協力してくれるなんて、ありがたい話だな」


「私達に期待しているらしいわよ?一通り相談した後、私とコラボしてくれれば良いとも言っていたわ。一緒に耐久配信する友達が欲しいとも」


「ははっ。アンドロイドだから、耐久配信はうってつけだろうな。ただ、ずいぶんと気が早い話だ」


まだ本格的な活動すらしてないため、どのような形になるのか想像がつかないままだ。

そう煌太が思っていると、ロゼッタは自分のこれからについて語ってきた。


「それで色々と配信サイトがあるみたいなの。ひとまず、どの年齢層でも気軽に使える有名サイトで活動するわ」


「あぁ、ライトチューブか」


ライトチューブは長い歴史を持つ動画共有サイトであり、真っ先に名前が上がるほど世界的なサイトの一つとして知れ渡っている。

誰でも気軽に扱える最大の娯楽サービスサイトと言えば、これ以外の他に無いと断言されてしまうほど。

ただし、それだけに日頃から利用する人口数は桁違いに凄まじく、内容の良し悪し以前に砂に埋もれる世界だ。


他にもネットリテラシーや犯罪行為の問題も起きているが、それらが些細に感じてしまうほど、便利なサービスサイトであることには違いない。

だから、そこで活動を始めるのは妥当だろうなと煌太が思っていると、急にロゼッタは突拍子も無い宣言をしてきた。


「そして、そのライトチューブで登録者数100億を目指すわ」


「は?」


冗談にしか聞こえない目標宣言に対して、煌太は目を丸くする。

まともに反応できたのは、更に数秒間かけて意味を理解してからだ。


「あっ、もしかしてボケなのか。まだ配信モードなんだろ?」


「違うわよ。やるからには高い目標を掲げて、本気でいきたいの。そして100億人規模となれば、惑星が必要になるわよね。だからチャンネル名にプラネットをつけるわ」


先程までは異なり、いつものロゼッタらしく凛とした態度で説明してくる。

すると一番に良いリアクションを見せてくれたのは優羽だった。


「プラネットだって!かっこいいね!100億人に相応(ふさ)しい名前だよ!」


「これ、マジで100億人前提で話が進むのか?俺からしたらどこを目指しているのか、既に理解が及ばないレベルなんだけどな」


「でも、私はロゼッタちゃんの言う通りだと思うな!高い目標を作って、本気で頑張るのは良いことだよ!」


「そもそも100億人って世界の総人口数より多いんだぞ。いや、それ以前に全人類がネットを利用しているわけじゃないからな?」


現実的な目線で煌太は意見を口にする。

しかし、ロゼッタも闇雲に決めたわけでは無いらしく、一見まともそうな言葉で返した。


「本気とは言ったけれど、そこまで真剣に捉える必要は無いのよ。これは目標であり、夢みたいなもの。それにテレビのような娯楽番組を意識したものだから」


「そういえば、一応そんな考えだったな。でも、テレビですら全人類が視聴しているってわけじゃないような……」


「最初くらいは気楽に考えましょう。あとチャンネル名は……、そうね。ロゼッタプラネットだと普通だから、間に星マークを入れて(スター)と呼ばせるのも有りよね」


結局、想像を超えたスケールのまま話が進んでしまう。

あまりにも話の先が見えてこなくて、煌太は自分が素直に応援できるのか怪しんでしまう。

そんな中、次にブルプラが喜びの声をあげていた。


「そのチャンネル名、もしかしてブルプラのコードネームが由来ですか!嬉しいです!」


「そういえば貴女のコードネームはブループラネットだったわね」


「はい!それだと長すぎるため、ブルプラというあだ名になりました!」


「元に比べたら呼びやすい愛称よね。そして、それに(なら)った略し方をすれば、私のチャンネル名も『ロゼプラ』と短く呼べるわね」


「おぉ!という事は、つまり…えぇっと?」


「ロゼッタ(スター)プラネット。これをコミュニティ名および、チャンネル名にするわ。さぁ早速、始動に取り掛かるわよ!」


そこからの意気込みは更に凄まじく、ロゼッタは企画書の製作から始めた。

とにかく沢山の案を出していき、ブルプラと相談しながら次のことを決めていくつもりのようだ。

煌太からしたら、不安を覚えそうな勢いだ。


「こうやって本気で楽しもうとしている姿を一番近くで見ているだけに、なんか怖く思えるな………」


これがつまらない杞憂だと分かりきっていても、ロゼッタが現実と理想の差に打ちのめされたりしないだろうかと考えてしまう。

そんな彼に向けて、優羽は生き生きとしている二人のアンドロイドを眺めながら喋りかけてきた。


「ロゼッタちゃん、やりがいを見つけられて良かったね」


「どうなんだろうな。これは良い傾向かもしれないが、やっぱりロゼッタは自分に厳しい完璧主義者だからな。この先がちょっと恐い気がするぜ」


「もう、それこそ何を言っているのさ!後押ししたのは私達なんだから、ここは快く応援する心構えじゃないと駄目でしょ~!怖気(おじけ)づくなんて男らしく無いよ!」


「……そうだな。それに自由に生きるってのは、上手くいく事が約束されているわけじゃない。むしろ大変な事ばかりだから、せめて応援くらいはしてやらないとな」


「うーん?応援するって言っている割には、早速なんかネガティブだね?」


卑屈に思える言動が多いかもしれないが、これは煌太の経験則によるもの。

少なくとも希望的観測でロボットが正常に作動した事が無く、常に最善かつ正解の状態で無いと大量の不具合に見舞われてしまう。

だから不安要素そのものに敏感であって、そんな自分自身に向けて彼は嘲笑した。


「ははっ、悪いな。これでも人間だから、新たな挑戦だと感じるだけで自然と身構えるんだよ」


「それは分かるけど、煌太はロボットに関わる作業を楽しんでいたでしょ。それと同じことだと思うよ!とにかく、やることが楽して(たま)らない!最初はそれで充分なの!」


「……そういえば、時には勢いが大事だしな。ちょっと考え込み過ぎていたかもしれない」


「ちょっとじゃなく、相当考えすぎているけどね。私達なんて全然子どもだし、もっと直感的に生きるべきだよ!」


「ふっ、優羽らしい人生論だな。そう言いきれる所は、けっこう好きだぜ。……って、何キザっぽい事を言っているんだ俺は。あぁ、いいや。とりあえずロゼッタの話を聞かないとな」


どうやら自分で言っていて、途中から恥ずかしくなったらしい。

煌太は慌てて逃げ出すように会話を打ち切り、相談し合うロゼッタとブルプラの間に割って入る。

その様子を見ながら、優羽は静かに呟いた。


「あ、百合の間に挟まりてぇ~って、やつだ。さっきまとめサイトで見た」


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